現実世界が迷宮に飲み込まれまして
津崎獅洸
第1話 茶臼山 1
「前進前進前進!!!」
怒号、轟音、銃声。
そんな中を銃を抱えて森を抜けひた走る。
敵を見つけては射撃し前線基地を襲う。
籠城しているのを見ては鉄の玉に魔力を込めて大きな扉に放り投げた。
とたんに襲う爆発音。
号令と共に前線基地になだれ込んで敵を片っ端から殺して回る。
「司令官は?」
「こちらに」
後から来た将軍に敵の司令官を引き合わせる役目も俺だった。
「アザミ少佐」
「は!」
「護衛を頼めるか」
「勿論です」
大柄なサイボーグ兵もいるが魔術兵の方が小回りが利く。
特に俺の得意とする音魔術は照射が可能だ。
迷路になっている前線基地を難なく歩き、案内すると一つの質素な扉の前に立つ。
「この扉の先です」
将軍はノックもせず扉をあけ放ち銃を向けられ硬直している司令官を睨む。
先端に向かって細くなっている尖った長い耳のエルフ。
「では情報を吐いてもらおうか」
「このっ」
怒鳴る司令官に冷たい銃口が突き付けられる。
それに意気消沈し司令官は机に手を付き、ぽつりぽつりと話始める。
「この戦争は……見せしめだ。市民たちが」
「閣下!」
怒鳴る士官を制して司令官が口を開く。
「道連れだ」
かちっという音と私が将軍を守るバリアを張るのは同時だった。
どごんという轟音が上がり部屋に風穴があく。
サイボーグ兵の2人は無事だったが敵の司令官と士官は死んだ。
「面倒だな」
きんとバリアを無くすと将軍はこちらを見て溜息を吐く。
「情報が……」
「残念です」
もう敵はいない。捕虜も回収した。
「戻ろう。次の作戦を立てねば」
◆
銃の整備をしているところに走ってくる士官がいる。
「島風アザミ少佐」
「何だ?」
そう俺を呼ぶのは赤い髪の青年。
「誰だ?」
「岡田ネレ中尉です」
「そうか。何の用だ?」
岡田中尉は戸惑いつつも、俺の手元を覗き見る。
銃の部品を魔術強化していた最中だった。
「……魔術強化ですか」
「なんだ?ここは初めてか」
背筋を伸ばし机から顔を上げる。
岡田中尉は目を泳がせ、口を開く。
「はい、防衛大学を出て、幹部候補生学校を出ました」
「そうか。魔術師は初めてか」
「防衛大学の同期に2人居ました」
「豊川陸軍基地は魔術部隊がいる。いいか、きょどきょどするな。同じ人間だ」
警告をすると岡田中尉はこくこくと頷く。
この世界はいつの間にかすり替わっていた。
オーガの傭兵、エルフの魔術師団、ドワーフの鍛冶。
ドラゴンがスカイツリーを占拠しそれを討伐するために派遣されたF-35がすべて燃やされた傷は深かった。
それが10年前の話。
世界各地に発生した天変地異。“迷宮”と呼ばれる異界の入り口のおかげで潤沢な資材となだれ込んできたドワーフの鍛冶師たちに使い方を教えられて日本の否、世界中の軍事事情は変わった。
日本の自衛隊は解体され、日本軍に再編。護衛艦たちはそれぞれ正式名で呼ばれ、海の脅威を薙ぎ払っている。
「新城のエルフたちはどうなりましたか」
「聞いてないのか」
溜息を吐きつつ、銃の整備を終える。
「はい。すべて島風少佐に聞くようにと」
「こんな変な時期に派遣されただけはあるな」
今は6月。普通は4月に配置されるはずだ。
愛知県はほかに春日井陸軍基地、守山陸軍基地、小牧空軍基地もある。名古屋城が迷宮の入り口になっているせいで名古屋は街の再編をせざるを得なかった。守山陸軍基地が愛知の最前線だ。
「実は上官を殴ってしまいまして」
頬を掻きながら岡田中尉は目をそらす。
「ぷはははははは!!」
俺はたまらず笑いだしてしまった。
「元は何処だった」
「東京の市ヶ谷基地です。エルフの上官が自分を馬鹿にしてモラハラをしていたので、たまらず殴り飛ばしました」
「エリートじゃねえか。まあ、まあ、冒険者にならなくて良かったな」
冒険者は迷宮が出来てからできた職業だ。中には迷宮の構造を配信する人気配信者もいるほどだ。
それにしても市ヶ谷基地からくるとは相当のエリート。上官をぶん殴っても降格されなかっただけすごい。
「新城のエルフは今分散してる。また狩りに出かけないといけない」
これ、これが問題なのだ。エルフたちはゲリラ戦が得意。絵本の話みたいに弓使いならまだよかったが、もう銃器を使って此方を攻めている。とてもじゃないが包囲網は作れない。
新城は山の奥その中でもさらに山の奥の長野県境、飯田方面にある茶臼山付近を拠点にしている。先日潰した基地は茶臼山の手前の物だった。
新城を拠点に動いているゲリラは所謂、反体制派。日本の現状を変えようと戦っている奴ら。
それとは別にこちらの世界に従順になる奴らだっていた。
先ほど、岡田中尉が言っていたように軍の幹部に異種族はいる。
「今日の夜に向かって明日の早朝襲う」
「は!」
「お前は俺の部下になったのか」
「はい。そう聞いております」
「そうか、そうか。耳栓はいらないぜ」
「?はい」
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