第2話 現状把握

 部屋を出て、俺が向かった場所は王城の裏庭だ。


「さすがは大国の王城。広大な敷地だ。人目を忍べる場所が複数あるのは、助かるな」


 なにせ俺は疎んじまれている落ちこぼれ王子。

 魔術を使っているところを目撃され、「実は強いんじゃないか!」と注目を浴びれば、後々面倒なことになる。

 二度目の人生では、気ままに魔術を極めることにした俺にとっては都合が悪い。


 軽んじたいなら、好きなだけすればいいさ。


 俺は自由に魔術の探求をするだけなのだから。


「それにしても、まさかあの田舎村がこんなに発展するとは……色々と思うところがある」


 とはいえ、今は前世を懐かしんでいる場合ではない。

 周りに人気ひとけがないことを確認してから、俺は手をかざした。


「フレイム」


 魔術回路を組み、魔力を通す。

 すると手の前に、子どもの顔のサイズと同じくらいの炎の球が。

 それは轟々と燃え盛り、キレイな円形を保っていた。


 しばらく魔術を維持してから、俺はフレイムを消す。


「思っていた通りだ。どうやら、前世から魔力が引き継がれているらしい」


 魔力というのは誰にでも宿るものではなく、選ばれた者にしか発現することはない。

 今の時代ではまだどうだか知らないが、前世では魔術師のほとんどが貴族の出身だった。


 当然、王族である『リオ』も魔力を持っていてもおかしくないが……なんと、リオには魔力が宿らなかったようだ。

 そのことにより、ますますリオは軽んじられることになる……と、彼の記憶には残っていたが、無事に魔術が使えたようでなにより。


「とはいえ、今はほとんど魔力が眠っているような状態だ。今のままでは、せいぜい前世の十分の一程度しか、魔力を出力することができない」


 本来、成長していくのに比例して、魔力も高まっていく。

 魔力を入れる肉体──つまり『器』が成熟していないと言い換えるべきか? 今のままで本気を出せば、この体が壊れてしまう。


「まあ、ゆっくりやっていけばいい。なにせ俺は時間だけはたくさんあるんだからな」


 九歳の体というのもいい。

 まだまだ伸びしろがあるということなのだから。


 これから魔術漬けになるであろう生活を想像すると、楽しみになる。


「……っと、たかがの魔術【フレイム】を使えただけで調子に乗ったらダメだな。他の属性もちゃんと使えるか、確かめておかなければ」


 魔術には身体強化は隠密といった魔術の他に、属性魔術が存在する。


 まずは火・水・土・雷の基本四属性。

 さらには、使い手が限られてくる光・闇を合わせた、合計六属性だ。


 その他にも、どの属性にも属さない『無属性魔術』に分類される魔術もあるが……今は考えないでおこう。魔力が体に馴染んでいない状態で無属性魔術を使えば、なにが起こるか分からない。


 ゆえに今は六属性の魔術に集中だ。

 俺ははやる気持ちのまま、他の属性魔術を確かめるのであった──。




 ──三十分後。




「よし……! やはり前世と同じように、六属性の魔術を使うことが出来る」


 確認作業を終え、俺はぎゅっと拳を握った。


 六属性全てを使える魔術師は少ない。

 普通の魔術師なら二つか、三つ。相当優秀な魔術師であっても、基本の火・水・土・雷の四属性しか使えないのがザラだ。


 しかし俺は六属性の魔術に加え、無属性魔術のほとんどを使いこなすことが出来る。

 まだ無属性魔術については確かめていないが、この調子なら同じように使えると考えるべきだろう。


 俺が転生して、落ちこぼれ王子だったリオは力を隠す必要はあるものの、規格外の魔術師として生まれ変わったのだ。


 とはいえ。


「まあ……これも前世の常識だがな。二千年も経っているんだ。これくらいは普通に出来るようになっていてもおかしくないし、他の属性が発見されている可能性もある」


 この体のリオの記憶を辿ってみても、魔術に関するものはほとんどなかった。

 魔力がないのに魔術の知識など不要と考えられ、ろくに教育を受けさせてもらえなかったのかもしれない。


 ったく……酷いものである。

 秀でた才能がないとはいえ、リオは王子だぞ?

 王位に関係がないからと、軽んじすぎじゃないのか。


「まあ、今の俺にとっては好都合だがな。なんにせよ──この調子なら、いずれは前世を越す魔術師になれる」


 現状の把握も終え、俺は確かな実感を得るのであった。

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