第2話 運命の転換
カニ味噌は、十郎と共に過ごす日々を心から楽しんでいた。彼は毎朝、十郎が起きると同時に目を覚まし、彼の足元でゴロゴロと喉を鳴らして甘えた。十郎もまた、カニ味噌の存在に癒され、仕事の疲れを忘れることができた。二人の関係は日に日に深まっていった。
ある日のこと、十郎は仕事帰りにコンビニに寄り、夕食を買って帰ることにした。十郎が袋から取り出したのは、ピザとアボカドサラダ。普段は手作りの料理を楽しむ十郎だが、今日は疲れた様子で、手軽なコンビニ飯を選んでしまった。カニ味噌はその香りに誘われ、コンビニ袋をじっと見つめていた。
「今日は忙しかった」と十郎はつぶやきながら、テーブルに料理を並べ始めた。カニ味噌は興味津々で近寄った。彼は「いけない」と思いつつも、心の中で「ちょっとだけでも…」という誘惑が膨らんでいった。
カニ味噌の餌は、ちょっとお高いカリカリだったが、最近はその味に少し飽きが来ていた。カニ味噌は、ピザの香ばしい香りやアボカドのクリーミーな香りに心を奪われていた。十郎が料理を並べている間、その美味そうな料理をじっと見つめていた。
「カニ味噌、お前のも準備するから、待っててにゃ」と十郎が言った。カニ味噌はまたカリカリだろうなと思いつつも、少しだけおとなしくしていたが、彼の心の中では「どうしてもあのよくわからない美味しそうなものを食べてみたい!」という気持ちが膨らんでいった。
夕食の準備が整い、十郎はテーブルに料理を並べ終えた。その時玄関に誰か来た。知らない子連れのおばさんがやって来て「ニチレン商品が…」とか言っていたような気がしたが聞いたら買わされるヤツだと思い十郎はすぐに叩き出したようだ。
カニ味噌はその瞬間を逃さず、テーブルに飛び乗った。彼は「いけない」としりつつも、誘惑に負けて、テーブルに置かれたピザを見て、おもわず手でチョンチョンしてみた。ちょっと熱かった。カニ味噌は肉球についたチーズを恐る恐る舐めてみた。飛び上がるほど美味しかった。
「ダメだ、カニ味噌それは毒!」
と十郎が叫ぶが、カニ味噌はすでにピザを一切れ食べてしまった。アボカドサラダにも、だが、その瞬間、彼の体に異変が起こった。急に気持ちが悪くなり、目の前が暗くなっていく。
カニ味噌は、意識を失う直前に「どうしてこんなことに…」と考えた。彼は自分の行動を悔い、十郎に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。次の瞬間、彼は意識を失い、暗闇に沈んでいった。
気がつくと、カニ味噌は病院のベッドに横たわっていた。周囲は白い壁と明るい照明で囲まれ、医療機器の音が耳に響いていた。彼は自分の体が重く、動かすことができないことに気づいた。心の中で「これは夢だ」と思ったが、現実は残酷だった。また意識が遠のいていった。
その頃、石橋滋という名の総理大臣は、祝宴で飲みすぎていた。彼は自分が通した意味不明な増税案が可決されたことを祝うため、仲間たちと共に酒を酌み交わしていた。酔いが回るにつれ、彼の頭はぼんやりとしていった。
久しぶりの酒席で思いのほか酔いがまわったようだ。ビールを飲み過ぎて、トイレに行きたくなった。「ちょっとトイレに行ってくる」石橋はそう言うと、立ち上がりおぼつかぬ足取りで、階下のトイレへ向かった。階段を降りる途中でつまずき、転げ落ちてしまった。即座に音に気づいた側近たちに救急車を呼ばれて乗り込んだ。彼も意識が薄れていった、この2人に運命のいたずらが待っていた。
カニ味噌は、病院のベッドで目を覚ました瞬間、自分が石橋の体に入れ替わっていることに気づいた。はじめはツヤツヤな毛並みで張りのある肉球の手がシワのよった人間の男の手になっていた。びっくりして辺りを見回すと入り口の窓に映る自分の姿は、十郎と見たテレビに映っていた石橋滋だった。混乱と恐怖が彼を襲った。「これは一体どういうことだ?」と心の中で思った。
カニ味噌は不可抗力で新たな運命に直面することになった。
一方、石橋の意識はカニ味噌の体に入り込んでいた。彼は自分が猫になっていることに気づき、驚愕した。「わあぁ」と声をあげるも猫の「にゃあ」と言う声に虚しく変わっていた。二つの運命が交錯し、カニ味噌と石橋の人生は、まったく新しい展開を迎えることになったのだった。
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