総理と呼ばにゃいで

菖蒲十郎

第1話 運命の出会い

朝から雨だった。中央公園の片隅でキジトラの仔猫が冷たい雨に打たれていた。小さな体は濡れそぼり、お腹を空かせ心細さと恐怖でいっぱい小さな体は小刻みに震えていた。

そこに仕事帰りの十郎が公園を通りかかった。彼の本名は菖蒲十郎左衛門寅次郎、邦画と時代劇が大好きだったサラリーマンの父が酔っ払ってつけた名前だった。この変な名前のせいで小さな頃から色々と苦労した。今で言うDQNネームのはしりだったかも知れない。最近でこそ出会った人が二度と忘れない名前ということで、ビジネスにつながることが増えたため、これでよかったのかなあと思うことがないわけではない。

彼は配管工、無類の猫好きで良い人だけれど名前負けすることもない程度にはちょっと変わった人であった。十郎は、雨に濡れた小さな影を見つけ、心が痛んだ。「チビ助にゃんどうしたニャー?」と声をかけると、仔猫は驚いて身を縮めた。だが、十郎の優しい目に触れた瞬間、彼は少しだけ安心した。

「大丈夫、食べないにゃ」と十郎は言い、彼を優しく抱き上げた。十郎の温かい作業着の中に入れられた仔猫は、心のどこかが温まるのを感じたちょっと埃っぽかった。十郎の優しさに触れ、初めての家族を得た気がしたのだ。


その日の夜、十郎は仔猫を自宅に連れて帰り、温かいミルクと帰りに買ったキャットフードを用意した。彼は初めてのご飯に目を輝かせ、夢中で食べ始めた。彼は、これまでの辛い日々を忘れ、幸せな気持ちに包まれた。

彼はその日、十郎が楽しみにしていた毛蟹を見つけてしまった。十郎がAmazonの荷物を受け取りに玄関に行ったわずかな隙に、仔猫はこっそりと忍び寄り、毛蟹に手を伸ばした。恐る恐る手を伸ばし、ちょんちょんと触ってみた。海の匂いがした。彼はちょっとビクビクしながら、自分の手を舐めた。初めて経験した美味しさに体が震え夢中になり、顔中カニ味噌だらけになりながらも、幸せそうに蟹を齧った。

その姿を見て「俺の蟹食ったな!」蟹味噌でベタベタになった顔を見て「お前は今日からカニ味噌だ。」と十郎は笑いながら言った。言った。仔猫はその名前を気に入った。自分は家族の一員として、初めて愛される存在になったのだ。


その後、猫のカニ味噌は十郎と共に日々を過ごし、彼の生活の一部となった。十郎は仕事から帰ると、いつもカニ味噌を温かく迎え入れ、彼に話しかける。カニ味噌は、十郎の声を聞くたびに心が温かくなり、彼の存在がどれほど大切かを実感していた。

こうして、カニ味噌の新しい生活が始まった。彼は愛する飼い主と共に、ずっと幸せな日々を送ることができると信じていた。しかし、運命は彼に思いもよらぬ試練を用意していたのだった。

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