第5話

二人だけでお話を、と、お父様達が席を立つ。俯いている彼に、私は微笑んだ。



「先程挨拶は済ませましたが、もう一度。神崎亜衣といいます。よろしくお願いします」


「……」


「康之さん?」



黙り込む彼に不思議に思って尋ねると、彼は顔を上げてきっと私を睨んだ。



「あんたと仲良くする気は無い」


「え…」


「余計な会話をするつもりもない。喋りかけないでくれ」


「……」



冷たくそう突き放されて、唖然と口を開けた。


なによ、その態度…。



「そうですか。それはすみませんでした」



ムッとしながらも、そう言って口を閉ざす。気まずい沈黙が漂って、膝元に置いた拳を握った。



「余計なものではない会話なら良いですか」



彼の目が初めて私に向く。最初見た時は優しそうと思ったが、その表情に感情はなく、鋭く見つめられて背筋が伸びる。


顔に似合わず冷たい人だと思った。



無言で私を見るその様子を肯定だと捉え、口を開く。



「この結婚、嫌でしたか?」



お父様からは、御堂家もこの結婚を望んでると聞いていたのだが。



「いや、家のためには、仕方ない」



康之さんは相変わらず冷たい声でそう言った。


家のため、か…。



「では康之さん自身は望まないものだったんですね…」



それは申し訳ないことをした。いやそれとも、私を一目見て、嫌になったのかも。


浮かれていた気持ちが一気に萎んでいく。


立ち上がり、彼に背を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る