「お帰りなさいませ。白井君、何もなかったですか?」
「へっ…?あ、いや何も、大丈夫でした、」
「だから大丈夫だって言ってるじゃないですか…」
かなりの過保護だと言っていたが、執事の人ってみんなこんな感じなのか?藍染さんははその過保護に少々不満があるようだったが、主に何かあったらと気が気でないのだろうから、しょうがないのだろう。2人とも大変だなぁ…
再開された撮影は、相変わらず忙しくて。俺は作業の合間にまた藍染さんを盗み見ては感心し、また作業をしていれば彼女が差し入れでお菓子を持ってきてくれたりと、気の使い方まで神業だった。
「以上で本日の撮影すべて終了です、お疲れ様でした!」
終わった…。今日1日長くて濃くて早かった。撤収をするために持ってきた大量の荷物を戻していく。帰っていくスタッフさんに挨拶をしながら片付けていると、気づけばスタジオには数人しか残っていなかった。ただ、フロアを見渡してもその数人の中に藍染さんと宇瑠間さんの姿が見当たらない。おいて帰られたことは流石に無いと思うが、2人が居ないと帰ることが出来ないのは事実だし、そろそろ探さないと。
3階建てのこの建物。1階はエントランス、2階が撮影スタジオ、3階が多目的スペースのようになっている。下から順番に探し回って、2人の声が微かに聞こえたのが3階のバルコニーの方からだった。
「藍染さ…」
少し離れた所から声を掛けようとしたが、俺はその言葉を飲み込んだ。俺の知っているいつもの2人の会話じゃなかったから。
「…もう無理。頭がクラクラする」
「今日はいつもより人多かったからな。大丈夫か?家まで持ちそう?」
「うん大丈夫。でも帰ったらデータ見ときたい」
「ダメだ今日はすぐに寝ろ。明日も何かとする事あるんだから。早く帰るぞ」
いつもお互いに敬語を使っている2人。その姿しか見たことのない俺からすると、この状況が信じられない。今が素の2人なのだとしたら、俺はあまり見ない方が良いのかもしれない。そう思って、静かにスタジオへ戻り、帰る準備ができたと藍染さんに電話をした。
「白井君ごめんお待たせ!片付けありがとう。遅くなっちゃったし、家まで送るね」
「あ、ありがとう」
バルコニーで聞いた疲労の混じった声とは打って変わって、いつも通りの彼女。宇瑠間さんに関してもそうだ。砕けた口調はみじんも感じられない紳士的な執事に戻っている。さっきの2人は見間違えだったのかと思う程に。
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