「あっははカノンさん、白井君が難しい顔をしていますよ?まぁ、私も初めて言われたときは同じ反応をしましたね」

 疑問は全く解決せず、今度は眉間にしわを寄せ始めたころに、ホカホカと湯気を立てたスープとパスタが運ばれてきた。

「お待たせしました」

「ありがとうございます!いただきます」

「いただきます」

 …確かに、めちゃくちゃ美味しい。彩の良し悪しはよくわからないけれど、とにかく美味しい。

「白井君の目が輝いてるっ。美味しいでしょ?」

「うんめっちゃ美味い」

「ありがとうございます。…カノンさん、今日の色はどうでしょう?」

「相変わらずカラフルですねっ。でも今日は茜色の味が強い感じがします!それから味も、相変わらず美味しいですっ」

 俺の頭の中に再び疑問が浮かんできている。今日の色とはいったいなんだ?料理の彩を聞いている訳ではなさそうだし…

「白井君は彼女の色の見え方についてはもう聞いていますか?」

「…凄い色覚の持ち主だという事は聞いてます」

「あれ、詳しく言ってなかったっけ⁉ごめんね、てっきり話したと思っちゃってた…。まぁ、それは追々ね!今は料理を楽しもうっ」

 上手くはぐらかされはしたが、それよりもパスタが美味しすぎてどうでもよくなってしまっていた。一瞬で食べ終わってしまって少し名残惜しくなった頃に、少しだけ気になっていたことを訊ねてみた。

「藍染さんはいつも1人で来てるの?昔から来てるって赤木さん言ってたけど」

「あそこのスタジオで撮影があるときは必ず来てるよ!ここの料理を食べることが出来るのも撮影の1つの楽しみだしっ。最初は宇瑠間のお父さんと来たの。宇瑠間が高校を卒業するまでは彼が家の執事をしてくれてたから。高校に上がる頃からは1人で来るようになって。そこで赤木さんに声を掛けられたの」

「その頃、私はあまり経営が上手くいってなくてですね…お声がけしたその日もカノンさんしかお客さんが居なかったもので。何度か話をしてると、ふわぁっと…ね?そのおかげでお店が安定して、今こうして忙しくさせてもらってるんです。」

「ふわっと?…なんですかそれ、」

「ふわっとはふわっとだよ。話したいのは山々なんだけど、そろそろ戻らないとなんだよね」

 ずっと絶妙なタイミングで話が途切れてしまうが、確かに戻らないといけなかったので、俺たちはお店を後にした。スタジオに戻ると、宇瑠間さんが待っていたかのようにすぐさま駆け寄ってきた。

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