「お2人ともお疲れ様です。乗ってください」
「あ、お願いします…」
後部座席に2人で乗り込むと、滑らかな運転で車が動き出した。この座席、ふっかふかなんだけど…初めてこんな車乗った。
「授業終わるタイミング同じときは、宇瑠間が一緒に乗っけてくれるから。あんまり学校に近いと誰かに見られてたりするかもしれないから、あのコンビニに迎えに来てもらってるの」
「あぁ…なるほど。ありがとうございます」
「いえいえ」
20分程で会社にはついた。門をくぐって現れる大小2つの建物。大きいほうが株式会社MUGENで、小さいほうは藍染さんや宇瑠間さん達使用人の人が住んでいるのだとか。宇瑠間さんが車を戻している間に、昨日いた仕事部屋まで連れて行ってもらう。この広いお屋敷のような会社の中はまださすがに迷子になる。
「じゃあ、今日からよろしくね!」
「よろしくお願いします、」
「基本的に仕事はこの部屋ですることが多いから、1人で来るときは直接ここに来てもらえれば大丈夫。で、入るときは必ずこれをつけてね」
渡されたのは、ストラップのついた名札。なんだか社会人になった気分になってテンションが上がる。
「今日は基本的な書類整理を教えるね。この作業に関しては尽きることないから、暇があればやって欲しいの。」
たくさんある紙の束から数冊を取り出し、細かい説明をしてもらう。俺たちは経営学部なのだが、藍染さん通う必要ないんじゃないか?と思ってしまう。書類整理と聞くと、数字ばっかり見ると思っていたが、これが中々面白かった。生地の特徴や在庫データ、会社で取り扱っている装飾品の種類、店舗においてある数などと、興味深い。とっくに諦めていた夢ではあったけど、服への関心は捨てきれてなかったんだなぁと思わされた。コツコツと作業を進める俺の前では、藍染さんがパソコンをカタカタ叩いては資料を見て。という完全な仕事モードに入っていた。大学で見る姿とはかけ離れすぎていて、関心と尊敬の心で見とれてしまった。
「…何か分からないところあった?」
「え、あ、ううん。藍染さんすげぇなって思って見てた」
「そんなことないよ?やればみんな出来ちゃうことだし」
この発言だけ聞いていると、彼女が大学生であるという事が信じられなくなる。その後もびっくりするほどの集中力でパソコンと向き合っていた。たまに電話で対応する姿は本物の社長そのもの。俺が次の作業を聞いてもすぐ的確な指示をしてくれる。
…なんだこの子は。とても同い年には思えない。
「失礼いたします。すみません、もう少し早く来るつもりだったのですが電話が続いてしまいまして…」
車で別れてからまだ姿を見ていなかった宇瑠間さん。手には数冊のファイルを持っていた。
「お疲れ様です。こちらは全然大丈夫ですよ!白井君、仕事覚えが早くてすっごい助かっています。」
「そのようですね。どうでしょう、だいぶ時間もたちましたし、今日はこの辺にいたしませんか?」
作業中は必至で気づかなかったが、始めてからもう3時間がたっていた。
「本当だ…。よしっ、今日はこの辺にしておこっか!白井君、今週お休み2回しかないけどいいの?私達からすると凄い助かるんだけど…」
「全然問題ないよ。こんな仕事させてもらえる機会他にないし、ファッション関係のデータ見てるの結構楽しかったからさ、藍染さんが良ければ働かせてほしいです。」
もちろん本音だった。普通の生活をしていれば目にしない事ばかりで、この数時間で色んな所が刺激された気分。働かせてほしいというと、なぜか2人が固まってしまった。
「白井君、」
「な、なに?」
「…最っ高だね。同年代の人がこの仕事に興味を持ってくれてすっごい嬉しい!」
いきなりの至近距離で堅い握手をされ少々戸惑ったが、改めて彼女が凄い美人だというを感じた…俺、大学の藍染さんのファンに殺されないかな。
「そんな嬉しいこと言われたら私めちゃくちゃ働かせちゃうけど良い?あ、もちろん法には触れないから安心して?」
「ふはっ、うん大丈夫。よろしくお願いします。」
ここまで歓迎されてしまうと、俺まで嬉しくなってしまう。テンションの高い藍染さんは大学ではあまり見られないが、ナホとユウカが友達になりたがっていたのがよく分かった。これは根っからのいい人だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます