第9話年末年始
俺は、冬休みは読書と決めていた。初詣も家族で
行った事が無い。有紗は、高校の時の友達と遊びに行っている。有紗が卒業した高校は俺と同じ高校だった。合格した後に有紗から、「良く合格出来たね。」と言われた。俺の高校は進学校でレベルが高かった。俺は、受験勉強などは一切しなかった。ただ担任教師がこの高校を受けろと言われたので受験しただけだった。小説を読んでると檸檬から電話がかかって来た。「初詣行かない?」と言われた。俺は、迷ったが「良いよ。」と答えた。檸檬にメールの返事もしてなかったという罪悪感もあった。二時間、檸檬は話し続けた。俺は「うん。」と答えるだけだった。「長い間、話しちゃってごめんね。じゃあ、明後日、神社で待ち合わせね。」と言って檸檬は電話を切った。スマホをベッドに放り投げて文庫本を手に取ると今度は律子から電話がかかって来た。
俺は、少し緊張した。「映画どうだった?」と律子は鼻声で聞いて来た。「面白かったよ。」と俺は答えた。ドタキャンした事など忘れて珍しく律子は饒舌だった。「初詣行くの?」と律子に聞かれてドキっとした。「行かないよ。」と答えた。律子は、初詣に行く人間の心理が分からないと嘆いていた。混んでるし寒いしで行く意味が分からないと言って来た。同感である。檸檬からの誘いが無かったら行かなくて済んだのにと俺は後悔した。律子は、何か言いたげだった。「また、今度、映画館、同好会メンバーで行こう。」と俺は言うと律子は「うん。」と嬉しそうに答えた。律子とは、3時間弱、話して電話を切った。
俺は、律子と話せた事で安心してそのまま夜まで寝た。「ご飯よ!」と未知子の声がして俺は目を覚ました。一階に降りると祖母の波子が来ていた。波子は、近所で一人暮らしをしている。たまに遊びに来る。「洋ちゃん、何してたの?」と波子は聞いて来た。「寝てた。」と俺は答えて波子の隣の椅子に座った。波子は、口うるさくない優しい祖母だ。いつも穏やかで俺と有紗の事を心配してくれていた。「有紗ちゃんは?」と波子が未知子に聞いた。「遊びに行ってます。」と台所から未知子が言った。一郎は少し難しそうな顔をした。波子は、食事が終わると俺に小さな声で「部活入ってるの?」と聞いて来た。「入ってないよ。同好会には入ってるけど。」と俺は答えた。「同好会?」「うん、映画研究会。」そうと波子は答えて笑顔になった。夜遅くに有紗は帰って来て一郎と口喧嘩をしているのが二階まで聞こえた。俺は、自室でテレビを見ていた。年末だとスペシャル番組が多かった。未知子の怒った声も聞こえて来た。一郎も未知子も有紗に期待しているのだ。出来損ないの俺に見切りをつけているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます