第16話 村人の絆

 満月の夜、村の中央にある広場では、小さな集まりが開かれていた。淡い月光に照らされたその場所には、ツキの料理を囲んで笑顔を交わす村人たちの姿があった。中央のテーブルには、ツキが心を込めて作った料理が美しく並んでいる。


 「このスープ、体がすっと軽くなるねぇ。」

 高齢の女性が微笑みながら言うと、隣にいた若い母親がうなずいた。


 「本当に。私、この前ツキさんのアドバイス通りに食材を選んで料理したんです。そしたら子どもたちもよく食べてくれて、家族みんな元気になりました。」


 その話を聞いた男性が、冗談めかして言った。

 「ツキの料理だけじゃなく、あなたの腕前もなかなかじゃないか。」


 皆が一斉に笑い、温かな空気が広がる。




 カイは少し離れた場所からその様子を見つめていた。都会では見たことのない光景だった。仕事や家庭に追われる中で、こんな風に心から笑い合う時間を持つことは、ほとんどなかった。


 「いい景色だろう?」

 隣にやってきたツキが声をかける。


 「こんな光景、都会では見られません。村の人たちがこんなにも繋がっているのって、『月のキッチン』のおかげなんですね。」


 ツキは小さく首を振った。


 「私の料理はきっかけに過ぎないわ。本当に絆を深めているのは、この人たち自身よ。」


 彼女の目は広場で楽しそうに話し合う村人たちに向けられていた。




 「『月のキッチン』はね、ただの場所じゃないの。みんなが自然と集まって、自分のことや相手のことを話せる場所なの。それが絆を育てるのよ。」


 その言葉にカイはハッとさせられた。ただおいしい料理を提供するだけではなく、そこに集まる人々が本音を語り合える場であること。それこそが「月のキッチン」の真の価値だったのだ。


 カイは村人たちの中に溶け込みながら、彼らの話に耳を傾けた。それぞれがツキの料理をきっかけに抱えていた悩みを共有し、笑いに変えている。




 一人の男性が声を上げた。

 「覚えているかい?去年の満月の夜、俺が酔っぱらって川に落ちた話!」


 「そりゃ覚えてるわよ!あんたを引き上げるのに皆で力を合わせたんだから。」

 女性が答えると、周囲は爆笑に包まれる。


 「でも、あの時のことがあったから、俺はもっと村のために頑張ろうって思ったんだ。」


 その一言に、みんなが真剣にうなずいた。困難な出来事も共有することで、村の絆を強くしてきたことが伝わる瞬間だった。


 「ツキさんの料理は、ただお腹を満たすだけじゃないんですね。」

 カイはふと漏らした。


 ツキは柔らかく微笑むだけだった。




 その夜、カイは村の絆の深さを目の当たりにし、「月のキッチン」が持つ特別な役割を改めて感じた。そして、ここで見た光景が、彼の心の中に新たな温もりを灯していった。

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