第15話 月光の真実
カイは夜の食堂に一人残っていた。ツキが忙しそうに厨房を片付ける音が心地よいリズムを刻む中、彼は窓の外に広がる満月の光景に目を奪われていた。その光はまるで村全体を包み込むように優しく、しかしどこか神秘的な力強さを持っていた。
「月って不思議ですね。」
カイがポツリと呟くと、ツキが手を止めてこちらを振り返った。
「どうしてそう思うの?」
彼女はエプロンの紐を解きながら、カウンター越しに腰を下ろした。
「都会ではほとんど意識することもなかったけど、ここに来てから月がこんなにも強い存在感を持っていることに気づいたんです。それに、ツキさんの料理も月のリズムに合わせて作られている…まるで月に導かれているような気がして。」
ツキは微笑む。その表情にはどこか懐かしさと切なさが入り混じっていた。
「月は、ただ光を照らすだけじゃない。私たちの体や心に、目には見えない影響を与えているのよ。例えば、新月は始まりの力、満月は完成の力…そのリズムに寄り添うことで、私たちは自然の流れに乗ることができるの。」
カイは頷きながらツキの言葉を聞いた。
「でも、それだけじゃないわ。」
ツキの声が少し低くなる。
「月には、記憶があるの。」
「記憶?」
カイは驚き、彼女の顔を覗き込む。
「ええ。月は何千年も前からこの地球を見守ってきたわ。すべての出来事、人の感情、そして願いを。だから、私たちが月に祈るとき、その願いは月の記憶に刻まれる。そして…その記憶が必要なときに力を貸してくれるの。」
「じゃあ、ツキさんの料理にその力が宿るのも…?」
ツキはそっと目を伏せた。
「それはまだ秘密。でも、カイ。あなたがこの村に来たこと、月が教えてくれたのかもしれないわね。」
その瞬間、カイは胸の中に温かな何かが広がるのを感じた。それは、彼が都会で失ってしまったもの――自分が自然の一部であるという感覚だった。
ツキの言葉に込められた深い意味を噛みしめながら、カイは窓の外に輝く月にもう一度目を向けた。月光は穏やかで、それでいてどこか懐かしい。ツキの秘密の一端を知り、彼の心の奥底にまた一つの灯がともる。
そして、カイは思った。
「月とツキ…その繋がりをもっと知りたい。」
ツキが明かす秘密は、まだほんの入り口に過ぎない。しかし、それはカイにとって新たな一歩を踏み出す鍵となるものだった。
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