第13話 再び動き出す心 ~月のリズムが照らす希望~
山間の村に流れる静かな時の中で、カイはツキと過ごす日々を重ねていた。「月のキッチン」での手伝いや村人たちとの交流を通じて、少しずつ自分を見つめ直す時間が増えていった。
ある朝、ツキが庭先で摘んできたハーブを持ちながら、カイに声をかけた。
「今日は少し散歩しない?月のリズムを肌で感じられる場所があるの。」
彼女の提案に、カイは頷いた。
ツキが連れて行ったのは、村の外れにある丘の上だった。見渡す限り広がる山々と、そよ風に揺れる草花が心地よい場所だった。ツキはカイに、満月から新月へと移り変わる月のリズムと、それが自然や人々の心に与える影響を話し始めた。
「満月の光は心を満たし、新月の闇は心を浄化する。そして、その間に生まれるリズムが私たちを支えてくれるのよ。」
ツキの言葉に耳を傾けながら、カイは静かに目を閉じて深呼吸をした。風の音や鳥のさえずり、そして太陽の温もりが彼を包み込む。
「こうして自然と繋がっていると、自分の中に小さな力が湧いてくる気がします。」
カイは少し笑いながらそう呟いた。
その夜、「月のキッチン」で夕食の準備をしていたカイは、ふと自分の手元を見る。慣れない包丁捌きだったが、いつの間にか自然に動けるようになっていた。ツキが横で微笑む。
「少しずつ変わってきたわね、カイさん。自分の中にリズムを感じられるようになったんじゃない?」
カイは頷いた。都会での日々に追われ、失っていた感覚が少しずつ戻ってきているのを感じていた。
「ツキさんが言っていた『満たされる』って、こういうことなんですね。」
夕食後、満ち始めた月の光がキッチンを柔らかく照らす中、カイはツキと一緒にテーブルを囲んでいた。
「僕、昔は料理なんてただの作業だと思っていました。でも、こうして月や自然の力を感じながら作ると、心が穏やかになっていくんですね。」
ツキは優しく微笑みながらカイに言った。
「それがリズムよ。自然と調和することで、心が整い、新しい希望が見つかるの。」
その言葉に、カイの胸の奥で何かが動き出す感覚があった。
その夜、月明かりに照らされた窓辺でカイは一人、遠い過去の記憶を振り返った。挫折や失敗に心を閉ざしていた自分が、今は小さな希望を抱いて未来を見つめ始めている。
「まだ怖いけど……もう少し、この村でツキさんと過ごしてみよう。」
心の中でそう決意すると、月の光が彼の瞳に優しく反射した。
それは、再び動き始めたカイの心が、未来へと歩み出す準備をしている証だった。
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