第2話

 ヴァネッサとの話を終えたレオンは、姉妹に会いに行くことにした。


 姉妹の名は姉がエレノアで妹がクロエというらしい。今日二人は訓練所で戦闘訓練を行っているとのことだった。


 狩場は決められた狩猟日にしか開場せず、それ以外の日は立ち入ることはできない。その為、冒険者たちは禁猟期間は訓練にいそしむのだという。


 訓練所に着いたレオンが聞き込みをしたところ、彼女たちは他のギルドとの模擬戦を行っているとのことだった。


 レオンが模擬戦場へ行ってみると、二人組の少女が男の四人組と戦闘を繰り広げていた。レオンは二人の実力をみるのに丁度いい機会と考えて、そのまま遠巻きに見ることにした。


◇ ◆ ◇ ◆


「――ハァァァ!」

 小柄な少女が、裂帛の気合とともに剣を振り下ろした。


 相手にかわされた剣戟が地面を打つと爆発とともに土が爆ぜた。どうやら爆裂術式を仕込んだ魔法剣らしい。


 少女はその爆風にあおられて、たたらを踏んだ。彼女は自身の剣による攻撃で体勢を崩してしまっていた。


 そして相手がその隙を見逃すはずは無く、槍の一撃が彼女の胸当てを撃ち抜いた。模擬戦用の刃引きをした武器なので胸当てを貫通するには至らないが、それでも強烈な衝撃で小柄な少女の身体は宙を舞った。


 派手に地面を転がる少女の前に、もう一人の少女が立ちふさがる。

 彼女は後衛職らしく法衣に身を包んで先端に宝玉のついた杖を構えている。


 彼女の唇が呪文を紡ぐと大きく魔力が膨らんだ。その気配に相手の男たちは身構える。しかし彼女が杖を掲げた瞬間、ぷすんという音と共に魔力は霧散してしまった。


 いわゆる不発――魔法行使の失敗である。


 相手の横薙ぎの一撃が少女の横腹にめり込んで彼女は崩れ落ちた。

 模擬戦は彼女たちの自滅のような形で幕を下ろした。


 なるほど、と思いレオンは彼女たちへと歩を進めた。


◇ ◆ ◇ ◆


「――さぁ、お姉ちゃん、もう一戦いくよ!」

 小柄な少女がもうひとりの少女へと告げた。

 告げられた方の少女は脇腹をさすっている。


「ちょっと待ってよ、クロエ」

「モンスターは待ってくれないわよ!」

 どうやら小柄な少女がクロエで、脇腹を押さえているのがエレノアの方だ。


 クロエの方はまだやる気満々らしく、エレノアを起こそうとしている。


「止めておけ。また同じ結果だ」

 レオンが話しかけると、二人の少女の視線がこちらに向く。


「誰よ、アンタ?」

 怪訝にクロエが問うてくるが、レオンは返答もせずに彼女たちを、特に装備を観察する。


 クロエの方の片手剣――グレド製の98式ロングソード。旧式の術式埋め込みビルト式の魔法剣。埋め込まれた魔法は先程の戦いから察するに爆裂系の魔法。重くて使いづらい部類に入る剣だ。


 エレノアの方の杖――ロイゼン製のファイスモデル。今どき珍しい木の杖。耐久性と安定性には難があるはず。


 今や術式装填式カートリッジの剣や軽量金属を使った高耐久の杖、最新型でいえば特性変換式モードチェンジの魔法具でさえある中、二人共前時代的な武器を使っている。


「お前ら、武器を交換して前後衛を交代してみろ」


「何よいきなり。というか誰なのよ!」


「俺はヴァネッサの知り合いだ。言われた通り武器を交換しろ」

 その言葉に姉妹は顔を見合わせる。


 姉妹が戸惑っている間にレオンは強引に武器を取って、二人に持ち替えさせた。


「立て、俺が相手をしてやる」

 まくし立てられて、姉妹は困惑しながらも武器を持って立つ。


「前衛は攻撃をしなくていい。剣を使ってひたすら防御に徹するんだ。後衛は隙が見えたら魔法を撃て。行くぞ」

 レオンはそう言うと、剣を持つエレノアへ素手での攻撃を繰り出し始めた。


「わ、ちょ、ちょっと」

 エレノアは驚きながらも剣を左右に振り、レオンの拳打を受ける。


 尚もレオンは攻撃を繰り返す。少しずつ攻撃の威力を強めながら。


 最初は戸惑っていたエレノアは次第に剣の操作が滑らかになっていき、レオンの攻撃も余裕を持って捌けるようになっていった。


 そこでレオンはわざと間合いを開けた。

 その瞬間を狙って、クロエが呪文を紡ぐ。


爆光閃エクスフラッシュ


 杖の先端から発生した光の玉がレオンに迫る。レオンは腕を交差させて防御をする。腕にぶつかった光の玉は爆発を起こして、レオンの身体を数歩後ろへ跳ね飛ばした。


 それを見た姉妹は、二人揃って間合いを詰めてくる。

 油断せずに勝負を決めにきている。


 しかし――。


「待て、降参だ」

 レオンの言葉に姉妹は動きを止めた。レオンは腕組みをして二人に問う。


「どうだ? 戦いやすかったか?」


 姉妹は困惑した顔を見合わせて、二人揃って首肯した。


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