第3話

「明後日の狩猟日もさっきの編成で行くぞ。武器はそれぞれに調整してやるから、俺に貸せ」

 ギルドハウスに着くなりレオンは姉妹に言った。


「だから! アンタは誰なのよ! あと、説明が少なすぎるのよ!」

 クロエはむくれて言う。

 エレノアの方も怪訝な顔をしている。


「ごめんね。コイツはレオンで、私が助っ人で呼んだのよ。斥候レンジャーで装備の調整もできるの。いい腕なんだけど、無口なのが玉にキズなのよ」

 ヴァネッサが横から説明を入れた。


 説明終わりにレオンは姉妹に手を差し出して武器を要求する。


 エレノアとクロエはしぶしぶといった様子で武器を手渡した。


「ここはギルドハウスだろ? 武器庫はどこにある? 余っている武器を部品として使わせてくれ」

「あ、は、はい」

 エレノアはそう言って、武器庫へとレオンを案内した。


「ここが武器庫で。使わない武器と防具はここに……」

「わかった」

 レオンはそう言うと、武器庫の中を物色し始めた。


 その背中にエレノアは話しかける。

「あの~、父のお知り合いなのですか? どうして、私たちの助っ人を?」


「……君たちのお父さんには世話になった。助けるのは当然だ」


「そ、そうですか」

 他にも何か聞きたそうなエレノアだったが、それ以上話しかけるのが憚られて、武器庫を後にするのだった。


 それからしばらくして、トレイに料理を乗せたエレノアが再び武器庫に現れた。

「あ、あの、夕食時なので、お食事をお持ちしました」


「すまない、そこへ置いておいてくれ」

 背中を向けて振り向かずにレオンは答える。


「レオンさん? 今日はどちらにお泊りですか? 宿は取られているのですか?」

 レオンは微かに逡巡する。


「別に、その辺の安宿なら空いているだろ」


「い、いえ、狩猟日前ですので、どこも満室だと思います」


「そうか、なら、どこかの馬小屋でも貸してもらうさ」


「そ、それでは、ここに泊まられてはいかがでしょうか? 幸い部屋は余っていますし、ご助力頂ける方におもてなしをさせて下さい」

 レオンは手を止めて首だけをエレノアに向ける。


「分かった、世話になる」



 武器庫から出てきたエレノアをクロエはジト目で見る。

「お姉ちゃん、あの無口野郎に随分とつくすじゃない?」


「そ、そんなことは無いわ。ただ、助けてくれる方に、これくらいしてもいいでしょう」


「そんなこと言って、忘れたの? お父さんが死んで言い寄ってくる男がどんな奴らだったか」


「そ、それは……」

 エレノアは俯く。


「ま、いいわ、何かあったら私が守るから」


「ありがとう。クロエ」

 クロエはずいっとエレノアに顔を寄せる。


「好きになっちゃだめよ」


「な、ならないわよ」

 その言葉とは裏腹にエレノアは頬を赤らめるのだった。



◇ ◆ ◇ ◆



 夜更け過ぎ、武器庫に酒瓶とグラスを持ったヴァネッサが現れた。

「一杯どう?」


 レオンは汚れた手を拭いてグラスを受け取った。

「随分優しいじゃないかレオン。アンタにも庇護欲があったのかい?」


「別に、あのハーグラスのオッサンには世話になったからな」


「恩返しってわけだ」


「こんなんじゃ、


 そう言ってレオンはグラスを煽った。



◇ ◆ ◇ ◆



 次の日――。

 レオンが調節した武器をそれぞれ持って二人は訓練をしていた。


 魔力の安定性には難があるものの瞬発力があるエレノアを前衛として、エレノアよりも魔力を扱う才能があるクロエを後衛として、レオンを相手にして模擬戦を繰り返していた。


 レオンのナイフがエレノアに襲い掛かる。

 強打がエレノアの剣に打ちすえられるが、エレノアは体勢を崩さずに打ち返してくる。


 その攻撃はレオンには当たらないが、彼に隙を作るのには充分だった。


光矢レイアロー

 複数の光る矢がレオンに襲い掛かる。


 レオンはそれを叩き落とすが、その内の一本が腿をかすめた。


 クロエは絶好の機会と見るや膨大な魔力を練り込む。そして特大の爆裂魔法を放とうとするが――慣れていない魔法行使に一瞬魔力の加減を間違えた。


 クロエの手元で爆裂魔法が弾けようとする。動揺した彼女は棒立ちだ。


 次の瞬間、レオンはクロエに突っ込んで来た。彼はクロエの爆裂魔法を素手で払い飛ばした。


 数歩離れたところに着弾した魔法は大きな爆発を起こした。しかしそれさえもレオンがかばったことでクロエは無傷で済んだ。


 クロエの足元に鮮血が散る。素手で爆裂魔法を弾いたレオンが負傷したことは明らかだった。


「大丈夫!?」

 クロエがレオンを見るが、彼は何くわぬ顔で手を押さえている。


 しかしその手には血がついているものの、傷はすっかりと無くなってしまっていた。


「え? 傷は?」


「問題ない」

 彼は背を向けた。


「休憩だ」

 そう言って彼はひとり模擬戦場から出ていった。


 ぽかんとその背中を見つめるクロエに、エレノアがすり寄ってきてささやく。


「好きになっちゃだめよ?」


「ならないわよ!」

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