流遷のグリムエッジハンター

沢城侑

第1話

 魔王軍の侵略を人が退けて100年が過ぎた。


 世界に魔物はまだ多く残っているが、それは統率を失った獣に成り下がっていて、もはや人の存亡を脅かす脅威では無くなっていた。

 そして今や魔物は世界に素材として存在している。

 その希少な素材を求めて人々は、競い合って狩りを行うのであった。


◇ ◆ ◇ ◆


 狩場街――シュテン。

 馬車から降りた男は、古びた一軒家の前に立っていた。


 男は地図を見る。場所は確かにここで合っているが、こんなボロ屋敷が本当に待ち合わせ場所なのだろうか。そう思いながらも扉をノックした。


「やぁ、よく来てくれたね、レオン。ようこそギルド・ロトンウィンドへ」

 出てきた女が快活に言う。


「来てやったぞ、ヴァネッサ。こんな街まで呼びつけやがって」

「まぁまぁ、私とアンタの仲じゃないか」

 そう言うと、女――ヴァネッサは蠱惑的な笑みを浮かべた。


「意外だなお前がギルドに所属しているなんて」

 レオンは木造りのギルドハウスの中を見渡しながら言った。


「正確にはギルド所属じゃないわ。ちょいと縁があってね、お世話になっているのよ。それにアンタも縁があるはずだよ」


「俺にも?」

「ここはハーグラスの造ったギルドさ」


「……あのオッサン辞めてギルドなんか造っていたのか……。それで俺を呼び出した理由はなんだ?」


「せっかちだね。もう少し思い出話とかをする気はないのかい?」


「これでも忙しくな」

 呆れ気味に息を吐いてヴァネッサは口を開く。


「ここのギルドの姉妹を助けて欲しいの」

「姉妹を助ける?」


「そう、ハーグラスの娘、今はここのギルドマスターよ」


 ヴァネッサの話を聞く所によると、姉妹は病死したハーグラスに代わって、若くしてギルドを継いだのだが、ギルド経営能力、戦闘能力共に未熟であった。そしてかつては数十人いた所属員も次第に数を減らし、ついには姉妹だけになったという。


 そしてさらに追い打ちを掛けるように――。

「買収される?」


「そう、ギルド・イグナイトって大手のギルドがあってね。そこにライセンスもろとも買われちゃうの」

 ライセンスとは認められたギルドのみが所有を許される狩場での狩猟の権利である。これが無ければ、そのギルドはいくら実力が高かろうと、狩場に出ることすら許されないのだ。


「なんでまた、そんなことに?」


「経営が苦しい時に作った借金が原因ね。でもまだ買われると決まったわけじゃないわ。明後日の狩猟日の稼ぎで借金をある程度返せばいいんだけど」


「メンバーが居ないのに、どうやって稼ぐんだ?」


「そこで貴方の出番ってわけ」


「断る」

 レオンは即答であった。


「……そう言うと思ったわ。でも、断っていいのかしら?」


「どういう意味だ?」


「今度行く狩場、の噂があるわ」


 レオンは鋭い眼でヴァネッサを見つめる。


「いいだろう。詳しく話を聞かせろ」

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