何もない日
「お兄ちゃん、おはよう!」
目が覚めると、結希の声が聞こえてきた。
俺は声がした方向へ振り向くと…
いたのは結希ではなく神だった。
「なんでわざわざ結希の声なんか使うんだ?何がしたいんだよ。」
こいつは本当によくわからない。
「まあまあ。それで、学校はかなり順調らしいじゃないか。」
俺は上体を起こし、伸びをしながら話し始める。
「まあ、勉強もスポーツも頑張ったからな。」
「わざわざ声に出さなくても会話できるよ。」
「人間ってのは音を聞いて、声を出して会話する生き物なんだ。」
「分かった。それで、今日の悩みは…結希が家に来ることだね。」
ああ、そうだ。
「じゃあ、一つアドバイス。パソコンの電源を切れ。」
神はよくわからないことを言ってきた。
まあ、こいつはなんだかんだ言って信用できるからな。
起きたらとりあえず電源切るか。
「じゃあ、もう結希が来る五分前だし…」
え!?ちょっ、え!?
五分前!?
お前なんでそんなギリギリな時間に俺に話しかけてくるんだよ!
はやく起きないと!
…
「はっ!!」
やばいやばい!!
早く準備しなきゃ!
男子ってのは好きな子のこととなるとこんなに焦るのか…
俺は一瞬でパソコンの電源を消して、着替えて、結希を待った。
「入っていいよ」
「おじゃましまーっす!」
結希はニコニコで俺のアパートに入ってきた。
ドタドタと足音を鳴らして、子供のように部屋の中を歩く。
可愛い…
彼女は子供のようであるが、貴族であるためか、大人びている。
部屋に入った結希は荷物をお茶の間の机に置いて何かを探し始めた。
俺の布団の裏、タンスの引き出し。
物を収納できるすべてのものを確認し始めた。
俺の参考書を開いてみたり。
「ない…」
「何が?」
もしかして、かなり重要なものか?
「えっちな本がない!」
予想の3.14倍はしょうもなかった。
昨日は数学の勉強を夜遅くまでしていたせいで円周率が出てしまった。
「まあ、そういうのを持っている人間なんて言うほどいないからな。」
最近は電子化が進んでいるからな、だなんて絶対言えない!
「へぇー。私が読んでた漫画だと、男子はそういう本を毎日見て、それに使う道具を最低15個持ってるって言ってたよ。」
結希はわりかしヤバめの漫画を読んでいたらしい。
「だ、男子はそんなに獣じゃない…」
「そぉなんだー?私は男が獣でもお兄ちゃんが相手だったら別に嫌じゃないよ..」
マジか!?
結希は頬を真っ赤にして無理矢理笑顔を作っている。
今日は、ラノベとかでよくあるエロイベントか!?
「あ。そうだ。パソコンも確認しないと!」
そして、結希は俺のパソコンの方へ手を伸ばし…
待て!
昨日、夜一人でシたあと、そのまま寝てしまった!
つまり、画面を持ち上げた瞬間俺は死ぬ!
俺の足の筋肉には必要以上に力が入った。
何としてでも止めなくては!
だが、俺の抵抗もむなしく、結希の手は、俺よりも先にパソコンにたどり着いた。
「なんだ、電源が切れてる。」
電源が…切れてる?
あ!?
神に言われた!
あっぶねー!
神様、ありがとうございます!
あなたに命を救われました!
「じゃあ、検索履歴を確認していきましょう!」
それはほんとにダメ!
俺は何とか結希を止めることができた。
俺はトイレの中でこっそり履歴を消した。
「夜ご飯は何がいい?」
俺はエプロンを着ながら、ソファーに寝っ転がっている結希に聞いた。
「えーとー、じゃあ、チャーハンで!」
結希は子供のような大きな声で答えた。
「やっぱチャーハン美味しいね!」
結希はバクバク食っていた。
女子のこういうところはあまり見たくない。
でも結希だけは違う。
結希がどんな姿を見せても俺は気にしない。
古い電球が食卓を薄暗く照らしている。
沈黙の中、食器に蓮華がぶつかる音と咀嚼音だけが聞こえる。
貧乏くさい風景だが、俺には丁度いい。
前世も結希は貧乏だったからこのボロアパートもそこまで嫌ではないようだ。
夜ご飯を食べ終わった後、結希は歯を磨き始めた。
流石に貴族の娘なので、泊まるわけにはいかない。
それに、結希は俺とかかわることを、親父に禁止されているので、女友達の家に行っているということになっている。
早めに帰らないとバレる可能性がある。
歯を磨いた結希はそのまま荷物をまとめて、玄関に向かった。
「じゃあ、またね!」
結希は笑顔で挨拶をし、どこかへ行ってしまった
久しぶりに何もない日だったな。
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