お兄ちゃんはモテモテ

 3時27分

 俺は結希と下校していた。

「そういえば、今日の朝…」

 結希が俺と目を合わせてくれない。

 ずっと少し下を向いている。

「可愛いって言ってくれたじゃん?」

 あー、それか。

「それって、私を異性として見てくれているの?」

 彼女は頬を赤らめていて、上目遣いで俺を見つめた。

 その瞳は、とろけたような雰囲気で、少女漫画ならハートが描き込まれていそうな瞳だった。

「いや、特に。」

「そうなんだ。あ、そういえば最近、小春って子と仲いいんだね。」

「まあな。」

「浮気…そういえば、紫陽花の花言葉に浮気ってあった気がする。」

 あるけど…

「でも、お兄ちゃんは私を選んでくれるって信じてるからね?」

 当たり前だろ。

 と、言いたいところだが、結希に好意を見せるのはこのタイミングじゃない。

 今はたまに可愛いって言って好意をちらつかせればいい。

「あ、はるかじゃん。」

 そこで、たぶん、今絶対に会ってはいけない可能性が高い人が俺に話しかけてきた。

「お、おう。小春か。奇遇だな…」

「どうしてちょっと声がかすれているの?」

 小春はさらに顔を近づける。

 横を見ると、結希の目は冷え切っていた。

 さっきまでの、ハートが描きこまれていそうな瞳はどこやら、今は目からハイライトが完全に消えている。

「あ、ごめん。俺今日ちょっと早めに帰らないといけない。」

 ふぅー、危なかったぜ。

 とりあえず一安心。

「分かった。じゃあメッセージ送っとくね。」

 その言葉に結希が固まる。

「え、お兄ちゃん私以外と連絡先交換してないんじゃないの?」

 あ、確かに言ったかもしれない。

「ま、まあ、ただの友達だし…」

「お兄ちゃんは、私と結婚するから浮気しちゃだめだよ?」

 こ、こえー。

 瞳の奥にえげつないほど深い闇が広がっている。

 そこで、さらに俺を追い込むものが来た。

『ピコン』

 通知。

 多分、日比野先輩だが。

「女子からのメッセージ…」

 もう無理、詰みじゃん。

「私、もうお兄ちゃん信用できないかも。」

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