第3話 僕は小説の匿名性を理由に彼女の誘いを断る

 不意に耳元で、眼鏡女子から声を掛けられてしまった。


「佐藤君、さっき私のこと見てたでしょ?」


 その時の僕はきっと恥ずかしさのあまり、茹でダコのように顔を真っ赤にしていたと思う。

 僕は口も利けないくらいに緊張して、必死に首を横に振っていた。


「ふぅーん。じゃあ私の勘違いだね」

 隣の眼鏡女子は、アッサリと見逃してくれた……って、いつの間にか当たり前のように、並びの席に腰掛けていた。

 やっぱり、見逃してはくれないようだった。


(もういっそのこと、素直に謝ってしまおう。キモがられたって、ウザがられたって、僕の立場が変わるわけでもない……)


 そして僕が勇気をふり絞って、謝ろうと口を開けかけた瞬間に……。


「あれぇ、あれあれぇ?佐藤君って小説書いてるんだ」


 僕は謝る暇すらなく、開きっぱなしにしていたノートを慌てて閉じた。

 しかし彼女の視線は、その更に奥に注がれていた。


「しかも有名な投稿サイトでしょ?ニィーッシィシィシィシィシ……w」

 こっちか!って、慌ててスマホ画面を裏返した……が、既に手遅れだった。


「佐藤君にお願いがあるんだけど、良い?」

 きっと、良いわけがないお願いが来るに決まっている。


「文芸部に入ってくんない?」


「僕は投稿サイトが匿名だから、安心して小説が書けるんだ。文芸部に入ったって、なんの活動もできないよ」

 僕は即座に断った。

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