第4話 メイドちゃんはベッドで眠る

「...その薬はただの応急処置にしかならない。きちんとした薬を処方しない限り治ることはないし、既に長い時間一緒に過ごしているなら、君や他の家族にも同じ病が感染している可能性がある」


 あの後、彼女の家に一晩泊めてもらうことになった俺は、流れでそのままお母さんの容体を確認することになったのだが、かなり状況は悪そうだった。


 物語補正なのか、それとも彼女の体に抗体があるという設定なのかは知らないが、彼女にはこの病が感染しないことはわかっている。

だが、彼女の家族は違う。

放っておけば、きっと彼女を残して全員死んでしまう。


 これはゲームの中では既定のルートであり、過去の話であるため変えることはできなかった。


 しかし、今の俺なら変えられる。

迷っていたが、やはり金儲けより目の前の命...というか、彼女にも何らかの恩を売っておくことがなんらかの意味を持つだろうと考えていた。


「...どうしたら治りますか?」

「ワクチン...いや、この病にピッタリな薬を作る必要がある。というか、俺はその薬を作るためにこの街に降りてきたからね」

「...そうなんですね。身内の方に、この病気にかかった人がいるんですか?」

「...まぁね。ということで、その薬の材料を明日の早朝山に取りに行くから。ついでに君のお母さんの分も取ってくるね」

「あ、ありがとうございます!なんとお礼を言っていいか...」

「あくまでついでたから。別に感謝されることでもないよ。そもそも材料を知っているだけで、薬の調合なんて俺にはできないから...あまり期待されても困るかもだけど」


 すると、彼女は少し閃いた顔をする。


「親戚に薬の調合について詳しい人がいます!その人に声をかけてみますね!」

「うん。そうしてくれるとありがたい。悪い...ちょっと眠くなってきたからもう寝るね。薬のお代は宿代とご飯代でちょんちょんってことで...」

「そ、そんな!それだけでは足りないです!」

「そう?まぁ、まだ治るかも分からないしそういう話は治った後にするとしよう」


 そうして、旅の疲れもあったかすぐに眠りについてしまった。


 ◇翌日


 早朝、早速山に出かけた俺だったが、特に山賊に出会ったりするハプニングもなく、無事に材料を獲得することができた。


 山を降りて彼女の家を再び訪れると、見知らぬおじさんが居た。


 どうやら、この人が薬の調合ができる人らしい。


「どうも...」

「あぁ、君が...。話は聞いています。それで?どんな材料を使うんですか?」


 俺は事前に町で買っていた材料と、山でとってきた材料、更に薬を飲みやすくためのはちみつ等を使って丸薬を作る。


 流石は薬のプロ、手際よく薬を調合し、あっという間に薬が完成するのだった。


 そうして、お母さんに飲ませる。


「...1粒で全快になるってことはないので。これを毎日3回、ご飯の時に合わせて飲んでください。そうすれば、数日で完治すると思います。私は一度家に戻りますが、また数日後の様子を見る来ますね」

「本当にありがとうございます...」と、彼女は深々と頭を下げる。


「いえいえ。感謝なら薬を調合してくださったあちらの方に...」

「いえ、自分は言われた通りにしただけですから。しかし...こんな病気見たことないですし、こんな薬も知りません。よく知っていらっしゃいましたね」

「えっと...実はすごく昔に同じ病が流行ったことがあったらしくて...その文献をたまたま読んでいたので...」と、適当に嘘をつくと納得してくれた。


「じゃあ、自分は帰りますので。また後日」と、予定より遅れてしまっていたため、急いで帰宅をする。


 事前にとある窓だけ施錠しないでと頼んでいたので、その窓から入り、そそくさと自分の部屋に戻る。


 すると、部屋に入ると、メイドちゃんが俺のベッドで気持ちよさそうに寝ていた。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093091500878815


 ご主人様が不在のタイミングで、ずいぶんお楽しみのようだった。


 そっと、布団をかけてから俺は椅子に座り、一応薬を作り始める。


 恐らく第1の感染源は彼女の母で間違いないが、すでに他から感染している可能性もある。

というか、俺が感染している可能性も否定はできない。

念の為、薬を用意しておこうと、あの人の見様見真似で薬の調合を始める。


 そうして、10分ほど経過したタイミングで、むくっと起き上がるメイドちゃん。


「...帰っていたんですか...」

「うん。ついさっきね」

「...ふーん。こんな可愛いメイドが自分のベッドで寝ていたのに欲情して襲ったりしないんですね」

「しないよ」

「...そうですか。まぁ、いいですけど。それで?それが言っていた薬ですか?」と、俺に近づき薬の調合の様子を覗いていると、俺の服の匂いをくんくんと嗅ぎ、「...女の匂いがしますね。一体、どこに行っていたんですか?」と、見下しながらそう言い放つ。


「絡まれてるところを助けたら一晩泊めてくれたんだよ...」

「...ふーん?泊めてくれた。そうですか。それはさぞかし、良い一夜だったんでしょうね」

「...疲れて寝ただけだよ」

「...まぁ、そういうしかないですよね」


 全然信用されない。


 そうして、薬を作り終えると、調合の仕方と作った日付を書いて薬箱に保存しておくようにメイドちゃんに頼んだ。


 結局、これでお金儲けをする作戦は失敗に終わったが、まあいいかと、次の案を考えるのだった。

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