第3話 薬でお金儲け?
「...本当に人が変わったようですね」と、メイドちゃんがジト目でこちらをみながら呟く。
ここ最近、俺はメイドちゃんが起こしにくる前に起き、その度に意外そうな顔で俺をみていた。
更に今までの俺は家のことなど気にせず、ぐーたらで傲慢な態度をとっていたようだが、メイドちゃんへの態度も軟化し、常に勉強をしている姿が意外なようだった。
実際、人が変わったのだからそう思われるのは仕方ないのだが...。
あれから、無事に薬をゲットした主人公たちを再び一晩泊めて、帰してから数日が経過していた。
ビットコインでもあればもっと簡単に儲けられたんだが...こればっかりは仕方ないと言わざるを得ない。
しかし、この国のお金が暴落し、隣国のお金の価値がどんどん上がることはわかっている。
なので、自分の持っているものを売って、とりあえず隣国のお金と変えておけば間違いはないだろう。
だが、俺の持ち金なんていうて高が知れている。
出来れば、うちの持ち金も丸ごと変えられれば相当な利益を得られ、莫大な損失を避けられるが...そのためには我が母を説得しないといけない。
この城を売ることさえ考えている母にこんな話をしたところで、納得してもらえるとは思えない。
逆の立場で考えてもそんなギャンブルするわけがない。
さて、どうやって説得したものか...。
ちなみにこの数日でいろんなことがわかった。
まず、アイン・ルーベルトは現在16歳であること。
続いて、父は病気で亡くなっていること。
母とは仲が悪くあまり話をしていないこと。
...逆にメイドちゃんの名前はいまだに分からないままである。
本当にお金のことだけを考えるなら、これから半年後に流行る疫病のための薬の開発を行うのもありだ。
材料はわかっているのでそれほど難しいことではない...。
だが、薬の調合の仕方なんて俺は知らないし、それが簡単なのかも分からない。
ゲームの中ならボタンひとつで終わることも、現実ではそれなりに作業が必要なのだ。
てか、乙女ゲーのくせに一丁前にRPG要素があるのが生意気である。
ということで、一つメイドちゃんに質問してみる。
「あのさぁ、メイドちゃん」
「...なんですか?ご主人様」
「えっと、薬の調合って結構難しかったりする?」
「...それは物によりますね。材料を混ぜ合わせるだけでいいなら簡単ですが、丸薬にしたり、飲みやすいものにするためにはそれなりの腕が必要かと」
「メイドちゃんは出来たりする?」
「最低限なら出来ますけど...。何ですか?薬屋でも始めるつもりですか?」
これから流行る疫病のためなんて言えるわけないよな...。
「まぁ...ちょっと興味があってね。とりあえず、材料を買いに下町に行ってくるわ」
「お一人でですか?危険では?」
「いやいや、流石に大丈夫っしょ。一応、変装をするつもりだし、正体はバレないって」
没落貴族とは言え、貴族の人間が下町に護衛もなく行くのはそれなりにリスクがある。
しかし、護衛を雇うお金も今は惜しい。
「...分かりました。私は奥様にはバレないようにすればいいんですね」
「まぁ、そゆこと。よろしくね」
「...わかりました」
◇
ボロい布を身にまとい、夕方ごろに城から出る。
お金を持っていない旅人を装いながら、下町で材料の買い出しに向かう。
もちろん、下町で買える材料のみであればメイドちゃんに頼みたいところではあったが、実際には山奥でしか取れない材料も必須なため、どちらにせよ俺でないと詳しい場所は恐らく分からない。
山となると山賊とかがいる可能性も跳ね上がるが、そこはもう何とか躱すしかない。
そう思いながら、無事に下町に到着し、買い物をしていると、路地裏から声が聞こえてくる。
「な、何ですか!?あなたたち...!」
「嬢ちゃん、可愛い顔してんねぇ」
「俺たちお金に困っててさ〜...そういうお店にも通えずに困ってんだよ」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093091463571763
囲まれていたのは将来の主人公の嫁になる女の子、エリス・リュージュだ。
...うわぁ...マジか...。
こんなシチュエーションは当然ゲームにはない。
多分、放置していても誰かが助けに来るんだろうが...。
ここで恩を売っておくのもありか。
落ちていた何本かの木に火をつけて、そちらに向かって放り投げる。
「や、やめてください!離してください!」
「いいじゃんかー。気持ちよくしてあげるぜー...あっ?うわっ!なんだ!」
男たちが服に引火した火に慌てている間に、彼女の手を引いて路地裏を縫って走る。
「待てー!」と言う声を無視して、なんとか奴らを振り切ると彼女に「あ、ありがとうございます...」と、感謝される。
「全然いいよ。でも、夜に1人で暗い路地裏を歩くのはあんまりお勧めできないな」
「...すみません...母が体調を崩してしまっていて...急いで薬を買わないといけなくて...」
「...風邪?」
「いえ...それがよく分からなくて...。高熱が数日続いているのと、体に斑点みたいなのができて...」
そんな言葉を聞いて、とあることに気づく。
まさか...疫病の最初の被害者は...。
「...そうか」
もし、ここで見殺しすれば確かに俺は薬で金儲けができるだろう。
しかし、逆にここで最初の感染者とその家族に薬を処方すれば、疫病が流行ることもない。
(※ちなみに彼女には感染しないようになっているから放置していても大丈夫)
つまり、世間的には薬も不要になり、金儲けはできない。
どうする...。
何も知らないふりして、この場から去ることはそんなに難しいことではない。
いや、そうじゃねーだろ...。
「もしかしたらその病...俺なら治せる薬を作れるかもしれない」
「...え?」
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