第2話 布石開始

 メイドさんが部屋を出てから、部屋で一人、紙とペンを持ちながら時系列ごとに状況を整理する。


 まず、どうやら現在は西暦1315年らしい。

あのゲームも確か1315年がスタートだった。


 つまり...この後、俺は序盤のかませ犬として主人公にかみつく予定だ。


 確か...接点は主人公がここら辺で有名なとある薬を探しにやってくるんだったか。


 ゲームの中ではただの平民が貴族の家に何しに来たと、ひどい言葉を浴びせて門前払いにし、それ以降俺の出番は一瞬だけでこの時のことを後にざまぁされる瞬間に登場するくらいだ。


 現時点での主人公はどこにでもいるただの平民だが...のちに名門貴族になるのは確定している。


 だからこそ、このスタートが全てだ。

協力的に接し、あわよくば右腕クラスのムーブをかませばとりあえず長期的に見て後悔することはない...。


 いやいや...でもここであっさり薬を渡していいものなのか?

そうしたら物語の前提がおかしくなってしまうかもしれない。


 よし...決めた。

薬は渡さない。その代わり有益な情報を渡すとしよう。

これは本来なら別の人間がすることではあるが、いずれ知るのも今知るのもさほど違いはないはず。


 大まかな道筋は間違えず、規定ルートのままサポートに徹する...。

これがベストな選択だ。


 そう思っていると、再び部屋の扉をノックされる。


「...アイン様。お客様が来ています」

「おっ...来たか。客室に通してくれ」

「...ただの平民に見えましたけど?そんな知り合いいたんですか?」

「おう。俺の交友関係なめんなよ」

「...なんですか?そのしゃべり方は...。まぁ、わかりました」


 相変わらずの冷たい対応...嫌いじゃない。


 そうして、準備を整えて、俺は客室に向かった...。って、客室ってどこなんだ?


 部屋を出ると、同じような部屋がずらりと並んでいる...。


 もちろん、主人公がこの城の中に入ることはないので、客室の場所など原作には出てこない。


 よし...ここはもうやるしかない。


「おーい!メイドちゃーん!客室ってどこだっけ~!!!」と、大声で叫ぶ。


 そう...よく考えると俺はメイドの名前も知らないので、メイドちゃんと呼ぶしかなかった。


 すると、やや顔を赤くして走ってやってくる。


「おっ、いたいた!いやぁ~、客室の場所を忘れちゃって」と言いかけた瞬間、お腹にパンチをぶち込んでくる。


「いっった!?」

「馬鹿ですか?いくら部屋がいっぱいあるから生まれ育ったこの城の部屋の場所も忘れるとか...!お客様も苦笑いしてたじゃないですか...!私に恥をかかせないでください」と、怒りながらそう言った。


「...ずびばべん...」


 謝ったのちに客室の場所を教えてもらった。


 そうして、部屋に入るとそこには予想通り、主人公とその妹が座っていた。


 この時はまだ主人公は12歳で、妹さんは10歳だ。

いやぁ...さすがは乙女ゲーの主人公...イケメンである。

そして、妹さんもなんともかわいらしい。


 俺の姿を見ると勢いよく立ち上がる。


「あっ...あの...ありがとうございます...。自分たちをこんな立派な部屋に招いていただき...」と、深々と頭を下げる。

それに合わせて妹さんも頭を下げる。


「いやいや、うちはただの没落貴族ですから。そんなに畏まらなくて結構ですよ。それで...今日はどうされたんですか?」

「えっと...実はとある薬を探していまして...。ここら辺にあるとは聞いたんですが...。城下町でもあまり有力な情報を得られず...失礼だとは思ったのですが...何か情報を知っていればと思い...」と、すごく申し訳なさそうな顔をする。


「...なるほど...。そうですね、話には聞いたことがあります。しかし、自分もその薬については見たことがないので...。情報を提供するだけに留まりますが、いいでしょうか?」

「...は、はい!ぜひお願いします!」


 そうして、ゲーム内で取ることができる薬の場所をざっくりと地図を使って説明する。


「多分ここら辺にあるとは思います」

「...なるほど...ありがとうございます!」と、またしても深く頭を下げてくる主人公。


 ここでもう一つ恩を売っておくのは大きいだろう...。


「...ですが、ここに向かうとなると到着するころには夜になっているかもしれません。なので、今日は1日ここで泊まって、翌朝早朝にここを断つのが良いかもしれません。薬を取った後ももう一度ここを経由して元の村に帰るのがよいと思います」


 突然のお泊り提案に子供ながらに「いや...!そこまでは...!」と、遠慮の動きをするも、妹さんのほうは既に疲労困憊の状況に見受けられた。


「気にしないでください。どうせ空き部屋はたくさんありますから」と、ちらっと妹さんのほうに目を移してそういった。


 すると、主人公も妹の様子をみて状況を察し、「あ、ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」と、頭を下げる。


 うんうん、いい流れだ...。一生忘れてもらっては困るからな。


 そうして、一晩彼らを泊めて、翌朝旅立った。

翌々日に薬をもって、再び我が城に泊まってから村に帰っていった。


 当然、このことは俺の母には内緒である。

現在進行形で没落している家に平民を泊めるなんてバレたらどうなるか...。

しかし、メイドちゃんがうまいことやってくれたのでバレることなく無事にミッションを成功させた。


 そうして、二人を見送った後、メイドちゃんは俺に質問する。


「...いきなりどうしたんですか?ただの平民にあんな優しくするなんて...。遠くない未来に自分も平民になるから、事前にいい顔でもしておこうっていう作戦ですか?」

「ちげーよ。いったろ?俺はこの家を名門貴族にするって。これはそのための布石だよ」

「...布石ですか。ただの捨て石にならないことを祈ってます」

「...辛辣だなぁ」

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