6話 多すぎても良くない
腰にさしていた剣を鞘から抜く。
その刃に、薄く自分の魔力を纏わせる。
これで切れ味が何倍にもなる。
まあ、強度はそこまで上がらないから、気休めではあるんだけれども。
準備が出来たら、彼方のデカブツを見る。
並み居るメスたちとの情事の真っ最中らしい。
そりゃあれだけの数が居たら、それのボスとしての仕事を全うしようとしても、そう簡単には終わらないんだろうな。
自分で集めたんだろうから、羨ましいとも不憫とも思わんが。
「さて、やると決めたならさっさとやっちゃいますか」
走り出す。
そこら中に居るワイルドバイソンたちの間を。
時には、体の上まで足場にしながら駆け抜ける。
できるだけ静かに目立たないようにしているから、俺の全力疾走程ではないけれど、それでも割とすぐにデカボスの所まで辿り着いた。
交尾に夢中で、相手は全くこちらに気が付かない。
別に待ってやる筋合いも無いためそのまま首の血管や気管を纏めて切り裂く
頭を落としてしまうと、持って帰る時に面倒だけど、かといって血抜きをしないと肉の味が落ちるから、最終的にこの形が俺にとってベストだと考えた。
結果、デカボスはあっけなく死んだ。
血が噴き出し、何が起きたのかを悟りながら、何をすることもできず、幸せの絶頂から死なせてしまたのはちょっと可哀想だったかもしれん。
まあ、人間で言えば腹上死みたいなもんだろう。
許せ。
そして、旨くないかもしれないが肉になれ。
デカボスが死んだことに気が付いたワイルドバイソンのメスたちが、突然の事態にパニックになった。
蜘蛛の子を散らすように逃げてくれるかと思ったんだけれど、流石に数が多すぎたらしくて、逃げることもできずにそこらでぶつかり合っている。
このままだと、死体がどんどん増えそうで困ったな……。
「しゃーない、傷だらけになったら肉の価値落ちそうだし、近くの奴らを仕留めて風通しよくしてやるか」
デカボスと同じように、周囲のメスたちの首を落とさないように切っていく。
最初の予定だと、多くても20頭くらいで良かったんだけど、それじゃあ治まりそうにないな……。
最終的に、200頭近くのワイルドバイソンを狩ってしまい、俺の周りは血の海になっていた。
これは……まずいなぁ……。
衛生的にも、見た目的にもかなり酷い。
一応集まっていた万を超すであろう群れは散り散りになってくれたけれど、この死体の山はなんとかしないと……。
血はまあ……土と混ぜて何とかするとしても、体の方は如何ともしがたいな……。
しょうがない!時空魔術で粗方しまっておくか!
時間も停止させられるから、必要な時に取り出して捌いていくか。
肉自体は間違いなく人気の商品のはずだし。
俺は、20頭を残して、残りのワイルドバイソンを時空魔術で別次元に収納した。
近くに人の気配は無いし、多分見られていないだろう。
見られていたとしても、忘れられるだけだろうから問題ない……って事にしておく。
ワイルドバイソンの体が無くなったので、血まみれの地面を土魔術で起こし、下の土で覆ってしまう。
何もしないよりはマシだろう。
これでやっと、見た感じ20頭だけの狩猟で終わらせられたように見えるかな?
1万越えの群れについては、残党が沢山だから説明が必要だろうけれど、200頭も倒したことまで言う事もないさ。
「何はともあれ!ステーキゲットだ!」
夕食は豪勢にいこう!
この時、俺は気が付いていなかった。
俺の英雄としての能力でも気が付けない程にひっそりと、双眼鏡で俺の事を盗み見ている存在が居ることに。
そしてそいつが、俺の事を忘れずにいられるという致命的な問題に。
「わぁ……お肉が一杯……いいなぁ……」
あと、その女が、お腹をぐーぐー鳴らしながら、涎をダラダラ垂らしていたことに。
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