昭和の狂った遊具の思い出スレ
鬱ノ
昭和の狂った遊具の思い出スレ
十数年前の話だ。
暇つぶしにネットを見ていた時、ふと匿名掲示板の興味深いスレッドに遭遇した。
昭和の狂った遊具の思い出スレ
当時大学生だった自分には加齢臭の強いスレだったが、知らない遊びの話は面白かった。箱型ブランコや回転塔、遊動円木など、昔の危険な遊具の話題で盛り上がる中、一人の名無しが「残酷棒ってあったよな」と投稿した。反応は薄く、誰もその遊具にピンときていない様子を見て、彼は詳しく説明を始めた。
「回転ジャングルジムの横に立てられてた棒だよ。高さが2メートルくらいの太い鉄のポール。俺の小学校では残酷棒って呼んでたけど」
回転ジャングルジムとは、中心軸で回転する球形のジャングルジムだ。グローブジャングルとも呼ばれている。その横にポールがあるという話は、誰にも理解されなかった。
彼は証拠として、画質の悪い古い写真をアップした。小学校の校庭の写真だ。球形のジャングルジムが写っていて、その外周ギリギリの位置に、確かにポールが立っている。しかし、スレ民たちの反応は冷たい。
「そんな危険な場所にポールがあるわけねーだろww ジャングルジム本体とほぼ接触してんじゃねーか。そもそも用途不明すぎww 釣り乙」
画像は雑コラ扱いされた。だが、彼は諦めず「残酷棒マン」とコテハンを付け、その危険な遊具について熱く語った。
「だから狂った遊具なんだよ。回転中、外側の鉄パイプの一部が、ポールに当たって音を立てるんだ。それでポールの一部は傷だらけになってる。ジャングルジムの中に入ったら、回転中に手や足や顔を絶対出しちゃいけない。残酷棒にぶつかるからな。ジャングルジムの外側につかまる時も、一周する前に手を離さないと残酷棒が衝突し、持っていかれる。とにかく、危険極まりない遊具だった」
さらに、彼はある事件について語り始めた。
「放課後の校庭に、野良犬が迷い込んだ時の話だ。ガキ大将が、犬を回転ジャングルジムに放り込んで、勢いよく回したんだ。犬はパニックになって、ジャングルジムから跳び出した。ガコン!って、すごい音が聞こえた。遊具がブッ壊れたのかと思ったよ。残酷棒と鉄パイプの間に犬の首が挟まり、そのまま千切れていた。この事件をきっかけに、遊具が危険だと急に問題になり、回転ジャングルジムは撤去されてしまった。でもなぜか、残酷棒だけが残ったんだ」
残酷棒マンの話を信じるスレ民はいなかった。ネタとはいえ、犬を殺す胸糞話は嫌悪感が強く、スレ民たちの声は荒々しい。「あった、あった。残酷棒なつかしい!」という、空気を読まないネタレスもあったが、スルーされていた。僕はスレを閉じた。
残酷棒の話を信じたわけではないが、不意に近所の老朽化した公園が頭に浮かんだ。狭い敷地内の不自然な位置に、正体不明の太いポールがぽつんと立っているのだ。
翌日、好奇心に駆られてその公園を訪れてみた。周りをマンションと倉庫に囲まれ、一日中薄暗い雰囲気が漂っている。遊具もベンチもなく、利用者もいない。その一角に立つ、ペンキの剥がれた古いポールは印象的だった。僕は、ポールの写真を一枚だけ撮った。スレがまだ残っていれば、残酷棒マンに見せるつもりだ。
写真を確認すると、ポールの後ろに黒い影が写っている。なんだろう。拡大してよく見ると、人の後頭部だった。坊主頭の子供の後頭部が、ポールの後ろからはみ出している。慌てて周りを見渡すも、誰もいない。おかしい。それに後頭部だけ出ているのも変だ。ポールの太さでは、身体を隠せない。
まるで、頭部しかないみたいだ。
心臓が、キュッと縮こまった。僕はすぐに写真を削除し、その場を離れた。
スレは、すでにdat落ちしていた。
(了)
昭和の狂った遊具の思い出スレ 鬱ノ @utsuno_kaidan
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