第6話 冒険者ギルドは赤字でした

 翌日の午後、私は金貨700枚をもってギルド会館に向かった。出迎えてくれたのは、ギルドマスターのタルティーニの他に、30から40歳くらいの女性が1人、隻眼の男性、白髪の男性がいた。白髪の男は、冒険者ギルド設立の契約書を作成する公証人だろう。


 タルティーニは、少々気まずそうな表情をしていた。


 「来てくれて感謝するよ、エミーリエ。こちらの女性は、アンナ・ブランシャール、眼帯をしているのはルチアーノ・マルコーニ、そして公証人のカルロ・コルツァーニだ。そしてこちらがエルフのエミーリエ・レヴァンドフスカだ。早速、ギルド設立の手続きをしたいのだが、厄介なことがあってな。。。」


 「紹介、ありがとう。厄介なこととは?」


 「実は利益を分配しようと、金庫内の資産を数えたところ、1年前に出資した時よりも資産が5%ほど減少していたんだ。例年は、2%くらいの利益が出ていたのだが。。。もし出資したくないというのであれば、引き止めない。」


 私に出資する意思があるかを確認するために、タルティーニは、改めて私に冒険者ギルドの仕組みを教えてくれた。



 彼の説明をまとめると、冒険者ギルドの運営は、次のように行われるそうだ。


 ①:年に1度、出資者が集まってギルドの運営資金を出し合い、金庫に保管する。


 ②:運営資金を使って、職員を雇用してギルドの運営を行う。


 ③:ギルドの活動で得た資金はすべて金庫に保管し、必要な資金も金庫から取り出す。


 ④:「①」の一年後、金庫の中の資金を集計し、出資比率に応じて分配する。



 出資した金額より、分配された金額が多ければ、利益が出ていて、少なければ赤字というわけだ。


 「分かった。出資するよ。」大赤字というわけでもない。


 「ありがとう、感謝する。それでは、コルツァーニさん、ギルド設立の手続きを始めてくれ。」


 全員が席に着くと、公証人のカルロはこう切り出した。


 「それでは、皆さんの出資金の確認をいたします。まず、タルティーニ様、ギルド設立にいくら出資しますか?」


 「帝国金貨700枚だ。」


 「かしこまりました。それでは、ブランシャール様はいかがですか?」


 「帝国金貨400枚よ。」


 「かしこまりました。それでは、マルコーニ様は?」


 「帝国金貨300枚。」


 「かしこまりました。レヴァンドフスカ様はいかがなさいますか?」


 「帝国金貨700枚。」


 「承知しました。それでは今年、帝国歴975年度のギルドの運営資金は、帝国金貨2,100枚といたします。次に、ギルドマスターの選任を行います。投票権は、出資比率に応じてを割り振ります。タルティーニ様は700票、ブランシャール様は400票、マルコーニ様は300票、レヴァンドフスカ様は700票とし、過半数の1,050票を獲得した方がギルドマスターといたします。1回目の投票でギルドマスターが決まらない場合は、上位2名の決選投票を行います。異論ある方はいますか?」


 「異論なし。」4人が同時にこう言った。


 投票の結果、ギルドマスターはタルティーニになった。全会一致だ。


 公証人はこう続けた。「続いて、利益の分配方法についてです。一年後、帝国歴976年の本日、金庫内の資産の棚卸を行い、出資比率に応じて資産を分配いたします。一年後、金庫内に出資したよりも多くの資産があった場合、つまり利益が出ていた場合も、出資した資産が減少していた場合、つまり赤字になっていた場合も、出資比率に応じて分配いたします。期日前に出資金を引き出すことは認められません。異論ある方はいますか?」


 「異論なし。」4人が同時にこう言った。


 「それでは、契約書を作成しますので、少々お待ちください。」こう言って公証人は席を立った。



 タルティーニの提案で、改めて自己紹介をすることになった。


 「俺は、アントーニオ・タルティーニ。もともと近くの都市のギルドマスターをやっていたんだが、訳があって15年ほど前に、この都市移住してきた。ここには冒険者ギルドがなかったから、アンナさんとルチアーノ、そしてもう一人と金を出し合って冒険者ギルドを設立したんだ。よろしくな。」


 「アンナ・ブランシャールと申します。ずっと西の国の生まれで、結婚をきっかけにこの地方に移り住みました。夫はオリーブを育てる荘園の経営をしていたのですが、夫と死別した後、荘園の経営権を夫の弟夫婦に売却しました。その資金で、冒険者ギルドを設立することになったんです。私は、ギルドでは依頼の受付業務を管理しております。エミーリエさん、今後ともよろしくお願いいたします。」


 「私は、ルチアーノ・マルコーニ。魔物との戦いで負傷したことをきっかけに元冒険者を引退してこの街に移住してきた。冒険者をやっているころから面識があったアントーニオに出資することになったんだ。ギルドでは主に冒険者の登録や冒険者への依頼の斡旋をやっている。よろしく。」


 タルティーニは、少しアンナさんとルチアーノさんの経歴を補足してくれた。アンナさんは西方諸国の貴族の4女で、読み書きができ数字にも強いそうだ。荘園の経営も実質彼女が取り仕切っていたらしい。そしてルチアーノは、領主の3男で、土地を相続できなかったから冒険者になったらしい。かなり腕がたつ冒険者だったそうで、魔物や薬草、地理にも詳しく、今でも冒険者にアドバイスをしているらしい。


 「私は、エミーリエ・レヴァンドフスカ。エルフだ。得意な魔法は筆記魔法で、素早く正確に文字や図を書くことができる。色々あってしばらくは人間の国で暮らそうと考えている。どうぞよろしく。」


 「よろしく。」


 こうして、私は冒険者ギルドの出資者として、ギルドの運営に携わることになったのだ。

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