第5話 冒険者ギルドへ
金貨を受け取って、店をでようとした時、初老の男が声をかけてきた。
「エルフのお方、俺はこの街の冒険者ギルドで、ギルドマスターをやっているアントーニオ・タルティーニだ。少し俺の話を聞いてくれないかね。」
「私はエルフのエミーリエ・レヴァンドフスカ。」
少し警戒はしたが、杖を買ってくれた店主とは顔見知りのようなので話を聞くことにした。タルティーニは、私の名前を聞いて少し驚いたような表情をした気がしたが、気のせいだろうか。
「結論から言おう。あんたに冒険者ギルドの出資者になって欲しいんだ。もちろん無理にとは言わないが、ギルドの出資者の一人が故郷の国に帰ることになって、新たな出資者が必要なんだ。」
「話が読めない。もう少し丁寧に説明して欲しい。」
タルティーニは謝ると、冒険者ギルドの仕組みや出資金が必要な理由を説明してくれた。
冒険者ギルドは、街の住民や商人などから依頼を受け付けて、依頼を冒険者に斡旋する組織のことだ。依頼の種類は様々で、都市間の移動の警護、重要な荷物の警護、出没したオークや魔物の討伐などがある。作物の収穫の手伝いや荷物運び、煙突掃除など簡単な依頼も受け付けている。
冒険者は、地方領主の3男、4男が多いと聞く。土地を相続できなかった領主の息子は、生まれた場所を去り、このような都市で冒険者になることが多いそうだ。彼らは識字率も高く、武術に優れる者も多いので難易度の高い依頼があてがわれる。
ほかにも人間の魔法使いや元猟師、オークや魔物の襲撃で土地や生活基盤を失った者など多様なバックグラウンドを持った冒険者がいる。また、依頼を引き受けるにはパーティーを組む必要がり、冒険者ギルドにはパーティーとして冒険者の登録する必要がある。
冒険者ギルドの主な収入源は、依頼主から依頼を受け付ける際に徴収する依頼の受付料、依頼主から冒険者に支払われる報酬からとる手数料、冒険者がギルドに登録する際に徴収する冒険者登録料などである。
冒険者ギルドは、組合員と呼ばれる出資者の資金によって運営されており、組合員はギルドマスターを選任する権利、出資比率に応じてギルドの活動で得た利益を受け取る権利がある。ギルドの職員は、出資者である組合員と、ギルドに雇われている一般職員の2パターンある。組合員は、ギルドの活動のための資金を出資するだけではなく、基本的には職員としても働くそうだ。
冒険者ギルドの事務作業は多い。冒険者の登録を受け付ける際は、技術や経験の確認、冒険者名簿への登録などを行う。依頼を受け付ける際は、依頼主に依頼内容の詳細を確認し、報酬額、支払いの条件などを調整する。受け付けた依頼は、依頼の特性や難易度に応じて冒険者パーティーに仕事を斡旋する。依頼主と冒険者間のトラブルの解決も冒険者ギルドの仕事だ。
そして、タルティーニが出資者を探している理由は、ギルドへの出資と利益の分配は毎年行われており、ここ10年くらいは同じ組合員が出資をしていたが、出資者の一人が故郷に帰ることになったため、次の年はギルドに出資できないからとのことだ。
「話は分かった。どのくらい出資してほしいのかと、今年はどのくらいの利益が見込まれているのか教えてほしい。」私は、杖を売って手に入れた資金を眠らせておくものもったいないと思い、もう少し話を聞いてみることにした。
「故郷に帰ることになった組合員は、毎年、帝国金貨700枚を出資していたから、同じだけの金額を出資してくれると助かる。今年の利益は、目下計算中だが、例年、出資金の2%くらいだ。」
来年も同じ利益が見込めるかはわからないが、悪くない話だと思った。なにより冒険者ギルドという名前にそそられるものがある。「冒険者」、その言葉から感じられる自由な雰囲気に私は惹かれたのであった。
「その話、のった。」
「感謝するよ、エミーリエ・レヴァンドフスカ。早速ではあるのだが、明日の午前にギルド会館で、今年分の利益の分配があり、午後には出資金の徴収がある。」
こうして、私は冒険者ギルドの出資者となることになったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます