第11話

「優海禾? 優海禾ーっ? ぼーっとしてどうしたぁ?」


乃亜がテーブルに身を乗り出して、私の顔を覗き込んでいた。


「あ、ぼんやりしてた。ごめんなさい。なんだかいろんなことが全部初めてで頭が追いつかなくて」


「何だそれ?」


上水柳くんに笑われた。

そんな上水柳くんを見て乃亜も笑っていた。


「もしかしてホームシックとか?」


「そうかもしれない。恥ずかしいね」


そう言って私も笑った。




笑うのは得意。

どんな時でも笑うことができる。


兄が、冷たい目で私を見るようになっても、ちゃんと笑えていたしね。




「の、乃亜と、かみ……上水柳くんって仲良いんだね」


「いやいやいや、ただの腐れ縁だから。高2、高3と同じクラスだったからよく話すようになっただけで、仲良いとかそういうんじゃないっていうか」


「本人前にして否定しないでよ〜。傷つくじゃん」


「あ、悪い」


「そう言えば、江西覚えてる? この間偶然会ったんだけど、髪の毛緑にしててびっくりした」


「江西ってあの学年で1番、頭が良かったあの江西?」


「そう! 難関国立大受かって、すぐに緑にしたんだって」


「へぇ。今まで勉強ばっかりしてた反動ってやつ?」


「じゃないかなぁ。でね、森山さんってわかる?」



乃亜は高校の頃の話を上水柳くんにし続けたので、自然と聞き役になる。




今頃、兄は、私に会わないように気を使わなくてすむ分、自分の家を自由に過ごせているだろうか?


2人の話を聞きながらも、頭の中でそんなことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る