第10話
「東条さん、サラダばかり食べてるけど、ピザは好きじゃなかった?」
上水柳くんが気遣うような口調で話しかけてきた。
「いえ、好きです」
「はい、どうぞ」
取り皿に乃亜がピザをのせてくれた。
「ありがとう」
上水柳くんと乃亜を見ながら、手にとってピザを食べた。
「美味しい!」
「だよね! ここのピザ好きなんだー。パスタも美味しいでしょ?」
「美味しい」
「優海禾って、パスタ食べる時スプーン使わないの?」
「あ……うん……」
「ふうん」
「兼房さぁ、どんなふうに食べようと本人の自由だろ?」
「はいはい。ごめんね、いちいちうるさくて」
家族で外食に行く時は、いつもフォークやナイフを使うところばかりで気が重かった。
その中でも特にイタリアンは苦手だった。
『優海禾、ピザを手で食べてはダメよ。ちゃんとナイフとフォークを使って』
取り分けられたピザに手を伸ばしてしまい、ママに注意された。
『ごめんなさい……』
チラリとパパを見ると、上手にナイフとフォークを使って食べていた。
ピザをあきらめて、またサラダに手を伸ばした。
サラダなら右手にフォーク持って食べられる。
パスタが食べたかったけれど、上手くフォークに巻きつけることができない。
フォークとスプーンを使ってパスタを巻くのは正式なマナーじゃないと言われたけれど、そもそも両手をうまく使うことができないのだから、使いようもない。
『フォークを時計回りにして巻きつけるの。海梛を見習って』
ママに言われて隣に座っている兄を見ると、フォークを斜めにして、お皿の端で器用にパスタを巻き取ったものを口に運んでいる。
同じようにパスタをフォークに巻こうとして、真っ白いテーブルクロスの上にソースをこぼしてしまい、食べるのをやめた。
どうやったって言われた通りにはできそうにない。
『おなかがいっぱいになっちゃった』
そう言ってパパとママに笑ってみせた。
『優海禾は少食だけど、栄養はちゃんと取れてるのか? 体を壊したりしたら大変だ』
『女の子だから、海梛の食欲と一緒にするわけにもいかないでしょ?』
どうしよう……
自分のせいでパパとママが言い合いになってしまうことに、どうしたらいいのかわからず、おろおろするばかりだった。
『ねぇ、俺もうデザート食べたい。早く帰って塾の宿題やんなきゃいけないし』
兄が自分に注意を向ける。
『あ、そうね。ごめんなさい』
『海梛、この間の模試、算数が少し下がってたな』
『だから早く帰って勉強したいんだよ』
いつも……いつも……兄は助けてくれた。
そしてこんな日は必ず、みんなが寝静まった後、部屋にやって来てくれた。
『優海禾、おむすび持って来た。お腹空いてるだろ?』
『でも……おにぃちゃんの……』
『内緒』
兄は、勉強をしながら自分が食べると嘘をついて、夜食を作ってもらっては私に持って来てくれた。
『具は俺の好きな物だけど、そこはあきらめろよ』
『ん。ありがとう。うめぼしもおいしいよね』
私がおむすびを食べる間、兄はいつも優しい顔をしていた。
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