シンデレラプリンセス

陽麻

シンデレラプリンセス

病気を患っている母は、自分で足の爪が切れない。

切る気もおきないのだろうか。

長くなってきても、放っておいている。


そんな母の爪の心配をしているのは、父だった。

母の足を見て、爪が長いと危険だからと、切ってあげるのだ。

もちろん、私も母の爪を切ろうとしたことがあるが、なかなか人の爪を切るというのはむずかしい。うまく切れないので父に任せた。


ソファに座って、母は裸足の足を投げ出す。

父はその足をしっかりと握り、肉を切らないように慎重に足の爪を切って行く。


パチン、パチン、と音が鳴る。


母は満足そうに自分のつま先が整えられていくのを、黙って見ていた。


それを見ていて、なんか夫婦っていいなあ、と思いましたね。

母は幸せ者ですよ。

足の爪を切ってくれる夫ってあんまりいないんじゃないかと思うんですよね。

綺麗に爪を切ったら、父が靴下をはかせておわり。


なんだか、母のつま先の手入れをする父の姿をみていたら、シンデレラに靴を履かす王子みたいだなっておもった。


そして、母はシンデレラプリンセス。


バカバカしい例えかもしれないけど。

本人たちはきっと絶対に認めないけど。


私にはそう見えた。


年老いた夫婦でも、王子とプリンセスなんだなあ、と思って。


このエッセイを書いている私でも、こそばゆい気分になってくる仲のいい夫婦なんだなと思った。


いや、年老いた夫婦だからこそ、そう思ったのかもしれない。

若い夫婦は生活していくのに大変だから。

仕事して、子供育てて、家や車のローンを払って、とか。


その全部が終わって、老後にひだまりのソファでつま先の手入れをしている夫婦は、ゆったりした時間が流れていて、ちょっと童話の世界の登場人物のようだ。


「あー! 今の痛かったよ!」

「ごめん、ごめん、ハハハ」


母と父が爪を切りながら会話してると。

仲良きことは、美しきかな。

なんて思い、あてられて苦笑する。

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シンデレラプリンセス 陽麻 @urutoramarin

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