第2話 親心、そして恋
何を言っているんだこのアホは
その言葉を聞いて真っ先に頭に浮かんだのはそれだった。それほどまでに意味がわからなかったし、あまりにも唐突だったからかもしれない
「…何を言ってるんだこのアホは」
「ねぇそれ思ったことそっくりそのまま僕に伝えてない?流石に傷つくと言うか辛辣すぎるというか」
「それくらい突拍子がないからなんだが?」
至極真っ当な事を言っているつもりなのだが、なにか間違ったことを言っているだろうか。つい先程まで殺しの仕事を請け負っていたのに帰ってきてそうそう上司から学校行けと言われたら誰だってこうなると思う
社会人として報連相くらいはしっかりしてほしいところである
「てかそれ今聞きましたけど」
「そりゃ今言ったからね。ついでに、これは決定事項だから、もう覆ることはないよ」
「は?」
本当に何を言ってるんだこの目の前のアホは
コレが上司のあるべき姿か?親の顔が見てみたいぜ………そういやこの人俺の親代わりだったわクソが
「抵抗権を行使させてもらう!」
「残念、国家相手だったら通用したかもしれないが…こんな反社にそれが通じると思うなよ?」
「ふざけんな!鬼!悪魔!人でなし!」
「この組織の奴らは皆ロクデナシさ!」
「開き直んじゃねぇ!?」
なんてさっきから反論してはいるものの、正直な話俺に従う以外の選択権は無い。立場的にも俺より上だし、この人相手に意思決定の自由なんてあってないようなもんだ。クッソ………詰みにもほどがあるだろ
「………なーんで行きたくないんだい?」
「………そんなもん、分かってるだろ」
そう、分かっているはずだ。任務とあらばなんでもするが、それでも嫌だと思うこともある。俺が言葉を返すと、小さくため息を付き俺にカードのようなものを投げ渡す
見るとそれは学生証であった
「…子どもには、少しでも青春感じて生きてほしいんだよ、僕は。それに君はここ最近働き過ぎ、ここらへんで息抜きしないと待ってるのは自滅だよ」
「………うぐっ」
「いくら君でも、いずれ限界が訪れる」
それっぽいことを言われ、押し黙ってしまう。これが悪意やただの思いつきなんかで言い渡されたのなら俺もとやかく言うが、それが好意的な、俺自身を思ってのことなら話は別だ。そういうのは断りづらいし、ここで断ったら後味が悪い
「…分かった、分かりましたよー」
「おぉ?つまりオーケーと言う事かな?」
「そう言ってんですよ、俺が居ない間の繋ぎよろしくな」
そうして俺は、学校に行くことになった。その時の諸々の改ざんをやっておいたらしいのだが、年齢はともかくとして、体や顔が童顔だったため案外楽勝で通ったらしい。………解せぬ
俺の外見はぱっとみそこらの学生となんら変わらない。主に身長と体型とこの童顔のせいだと思うが、俺だって気にしているのだ、しかしそれが役に立ったと言われて俺の心情は複雑だった
――――――――――
ここは光明高校。偏差値も外装も、特に変わりのない一般的な高校………なはず、うん
私は黒峰 塩楽、ここ光明高校の1年A組。なんら変わりのない一般人で、何処にでもいるようなごく普通の女の子である
「おはよう皆!元気にしてるか―?」
「あ、先生」
教室の扉がガラガラと音を立てて開かれ、一人の女性が姿を表す。この人は私達のクラスの担任である葦富先生。少し熱血なところもあるけど、それも含めていい人だと思う
「おら皆席につけ!今日は転校生がいる!」
「え!?転校生!?」「マジで!?」「よっしゃ!美少女こい!」「うっさいわね男子!」「騒がしい…」「イケメンが良いな―!」「やさしけりゃなんでも良いわよ」「ちくわ大明神」「おい誰だ今の」
先生の発言で教室中が騒がしくなり、一人一人各々が自由に喋りだす。もう誰がなんと言っているのか聞き取れない
「うるさいぞお前ら!良いことだ!」
「いや良くはないでしょ!」
ある生徒がツッコミを入れ、先生は豪快に笑う
「よーし、それじゃあ入ってこい!」
そう先生が教室の扉の方を向いて言う。多分、転校生くんは教室の扉の向こう側にいるんだろう、皆が静かになる。変に統率取れてるんだよねうちのクラスは
“ガラガラ”と音を立て、教室の扉が開かれる
「………」
思わず息を呑んだ。クラスの皆もそうなんだろうか、驚くほど静まり返った教室には転校生の靴音だけが嫌に鮮明に聞こえる。綺麗である程度整えられた黒髪が、教室の窓から差し込んでくる日光で輝いて見える。その顔は童顔でとても整っており、美少女にも美少年にもとれた。小柄ではあったものの、しっかりと、そして堂々とも言い表せる佇まいのまま教卓へと足を運ぶ
「あー、今日からこのクラスでお世話になる山田 太郎だ、よろ、しく……な………」
声からして男の子なんだろう。そしておそらくこの時、この瞬間に、私は恋をしたんだろう
ひどくいつも通りでつまらないと思っていた私の日常が、色彩で彩られたように感じた
だからだろうか。浮かれていたからなのか、頭が真っ白になっていたからなのか
私は気づかなかった
彼が私の方を向き、目を見開いていた事を
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