任務:殺しの仕事休んで学校通え「…は?」

ばぐひら

第1話 職業

ときに、職業とはどのようなものを思い浮かべるだろうか


作業員、清掃員、シェフ、パイロット、警察官、消防士。一概に職業と言っても多種多様な、様々な職業が存在しているだろう。しかし中には、表立って言えないようなものも含まれている



「待て!待ってくれ、私はまだ―――



“パァン”



―――………ぁが、あ」



室内に発砲音が響き、目の前の男が倒れ込む。胸の付近からスーツが赤黒く侵食されていき、えも言えぬ匂いが辺りに充満されていく


………俺の職業は殺し屋、文字通り人を殺すことで依頼者から金品を得る仕事だ

殺し屋なんてものはファンタジーや空想のものだって?実のところはしっかり実在している職業なのである。殺し屋だとかそういう裏の人間は大抵の場合、表舞台での活躍を奪われた者であったり救われなかった者であったり、この世界の人知れず犠牲となった名もなき者であったりと、表で生きていけなくなった者たちがそういう仕事についている。なにも望んでこうなったわけじゃない、皆が皆シリアルキラーではないのだ


倒れ込んだ男に近づき、死んでいるかどうかを確認した後懐からスマホを取り出して電話をかける



「………俺だ。ターゲットの始末、完了した」


『ご苦労、報酬としてのお金はきっちり全額振り込んどくよ』



かけたスマホから女性の声が聞こえてくる。この人は依頼人………というわけではない、俺の職場の上司に当たる人だ


俺は殺し屋をしているが、フリーでやっているわけではない。とある組織のお抱えで殺し屋をしているのだ。そもそも今どきフリーでやれている殺し屋なんてのはそうそういない、大抵の場合は力不足で警察などに捕まるか、他の組織から適当な理由をつけられ排除されるか………どちらにせよ、ほんの一握りだ


俺の属している組織は殺しだけではなく、情報屋のような連中や表の社会様々な事業を展開している者たちまで存在する。要はつまり様々な職の者たちが寄せ集まった組織


俺らのボス………つまりトップの人はかなりの自由人で気まぐれな性格らしく、様々なものに手をつけ続けていった結果が今の組織らしい。現に組織内でも派閥が存在している


その派閥を治める統括者がそれぞれ数名、この組織の幹部のような立ち位置を担い組織を運営していっているらしく、俺は主に殺しや暗殺を生業とした派閥に属している。まぁ下っ端のようなものなんだけど



『あぁそれと、この後時間はあるかい?』


「なんです藪から棒に、まぁこの後だったら特に予定は無いですよ?珍しいことに」



そう、なんとも珍しいことにこの日………というよりここ数週間ほどは依頼が入ってきていないのだ。何ヶ月ぶりの休日だろうか、詳しいことはもう覚えてないが、それでも喜ばしいことには変わりない

 


『そりゃそうだ、なんせ僕がお前のスケジュールを調整して予定が入らないようにしたのだからな』


「じゃあなんで聞いたんです?」



ほんとになんで聞いたんだこの人。分かってるくせにわざわざ聞いてくるとか、この人らしくないな



『まぁいいじゃないか、特に深い意味合いもない。それよりもだ、依頼は達成したのだろう?ならこの後僕の作業部屋に来なさい、伝えることがあるから』



そう言い電話を切られる。全く身勝手な人だ、まぁこの自由っぷりもいつものことなんだが

そう嫌な納得の仕方をしながら、俺はその場を後にする。あ、少し喉乾いたな………行くついでにそこら辺の自動販売機でなにか飲むもの買ってから行くか




















――――――――――



















「失礼します」


「あぁ君か、入りたまえよ」



ある一室の前で立ち止まり、扉を三回ノックすると中から声が聞こえ入るよう促される。そして俺は言われるがまま、慣れた手つきでゴム手袋を装着してドアノブをひねる。なぜゴム手袋が必要かって?実はこの人の部屋のドアノブ、超高圧電流が絶え間なく流れ続けてるんだよ。外部からの侵入者とかが来たときの対策とか言ってたけど、実際は俺ら部下の連中がたまに忘れて撃退されるだけの邪魔で面倒以外の何物でもないから早く取り外してほしいというのが本音なのだが



「ん、本物か。どうした、少し遅かったじゃないか」


「疑り深すぎだっての……飲み物買ってから来たんですよ、少しだけ探し回ったから来るのが遅れました」


「あー…またそれ?いい加減飽きないものかねぇ」



俺の手に持っているものを見て納得したような、呆れたような表情になる。



「いいんだよ、俺はコレが好きなんだ」


「ちょいちょい、敬語が外れてるよ?」


「いいでしょもう、この部屋には俺とアンタしか居ないわけだし…どうせアンタのことだ、防音対策、盗聴対策は万全なんだろ?」


「それは…そうなんだけどさ」



実のところ、俺とこの人は親子だったりする。血はつながってないけど

昔、俺が路頭に迷っていた頃この人に拾われて育てられた。その恩もあってこの仕事をやってるわけだけど



「はぁー、もういいや。それより君に伝える事があるんだよね」


「あぁ、そういやそれで呼ばれたんだったか」


「そそ、電話でも良かったんだけど、どうせなら僕の口から言っておきたくてね」



そう言い、どうということではない様に言い放つ



「君、学校に通うことになったから、よろしく!」


「………は?」





 

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