女にモテないオイラがなぜか異世界で勇者扱いされ男の娘にモテまくる話

七七七(@男姉)

滑り台から異世界へ

「お、懐かしいな〜…まだあるんだ」


 10年ぶりに里帰りした日の午後、その実家の近所に散歩に出てきたオイラ(30)の目には、今、巻き貝を象った大きな滑り台が映っている。


「ちょっと滑ってくか」


 かつては、そこそこ賑やかだったものの、いまや寂れた地の広場とあって、人の姿も見当たらないことだし、ひとつ童心に帰って…ね。


 という訳で、まもなくオイラは、その子供の頃と何ら変わらぬ滑り台の下へ。鉄パイプで作られた、これまた懐かしい梯子を上り始めた。


 そして、6、5、4、3、2、1…はいッ。


 しゅ〜…!


 …っと、その巻き貝の中を滑り降りた…まではよかったものの、


「あわわわッ…ち、ちょっと、どうなってんだッ」


 そう言った時には、すでにオイラは、なにか得体の知れぬモノを下敷きに、仰向けの体勢で倒れ込んでいた。


 かと思えば、なんだかこの周りが騒がしい。


「一撃でザク…ではなく、あの怪物を…」


「もしや、このお方こそ、あの伝説の勇者様では…」


 伝説とかって、おそらく…否、絶対に違うと思うが、とにかく半身を起こすや窺えば、なにやら煌びやかなドレス姿の美少女を中心に、数名の女たちがオイラの前に佇んでいた。


 なんだなんだ…しかも、この周囲の景色たるや、いつの間にやら森のクマさんでも出てきそうな場に大変貌。


 んッと、ようやく立ち上がったオイラに向かって、一礼と共に例の美少女が何か言い出したぞ。


「危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございました、勇者様」


 と同時に、その周りの身なりの良い老若女たちも、また頭を垂れてくる。


 うん、あえて言わずとオイラには、そんな救った・・・とかの覚えはない。只あの滑り台を滑って辿り着いた先が、この眼下の(『半人半狼』っぽい)『怪物』とやらの上だったということで。


 ああ、そうだな。彼女たちは、これに襲われそうになってたんだな、きっと。


 で、ワイの下敷きになることによって、その怪物が失神=退治となったのだろう。


 言わば『業務上過失怪物退治』か。


「ぜひお礼をさせて頂きたいと思いますゆえ、いまから我が城へお越し願えませんか、勇者様」


 なにッ『城』ですと?


「あいや、そんな礼などと…それよりお嬢さん、ここは一体どこなのでしょうか。そして、あなたは…」


 ここへ来て初めて、極めてベーシックな質問をば。せっかく勇者扱いされたことだし、精一杯らしきジェントルな口調でもって、オイラは美少女に尋ねた。

 

「はい、ここは我がローゼン王国の王城近くは『静かの森』ですが…そして、私は同王国第2王女のジーラと申します」


 ははぁ、どうりで品があると思ったら、一国の王女様…って、その聞いたことのない国名といい、この急激な景色の変化といい、はたまた妙な怪物といい、どうやらオイラは、あの滑り台を滑り降りた拍子に、所謂『異世界』へ迷い込んでしまったらしい。


 よくは知らんが、たぶん『異世界転移』というやつだな、うん。


 しっかし、こうなるとオイラの職業が、マンガ家でエッチなだけどよかったかも知れない。


 でもなければ、こんなファンタジックな話には、とてもついていけなかっただろうし…


 まあ、それはともかく、結局オイラはジーラ王女様の求めに応じ、彼女が暮らすという城へ行くことにした。


 そう、とりあえずそれ以外、行くアテもないからである。

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