Chapter 1-3 そっちかーい!
というわけでやって来ました冒険者ギルド(推定)。
まだ確定ではないので一応〝推定〟。
しかしカウンターには美人受付嬢――そして壁には依頼書らしきものが貼られた掲示板。全体的な雰囲気も、ハコモノが砦チックなところ以外は概ねイメージ通り(創作に準処という意味で)。
これはもう冒険者ギルドで間違いないはず。
むしろこれで違ったらなんなんだ。
さてと。じゃ、さっそく受付嬢のお姉様方にお話を伺うといたしましょうかね――
広い部屋は中程をL字型のカウンター(入口から見て正面がL字の長辺、左側が短辺)で仕切られており、カウンター内のオフィスエリアでは大勢の職員が忙しそうに働いている。
――ちなみにそのカウンター。質感はかなり高く、地元の市役所のそれよりも遥かに立派……というのは完全に余談である――
カウンターには総勢十五名にも及ぶ受け付け嬢がズラリと控えている。しかも全員が美人。絵力がすんごい。
彼女たちの前には一人につき一つの〝カウンターサイン〟が置かれており、サインの種類は三人一組で五種類に分かれているようだ(読めなくたってそれぐらいは判る)。
あれはおそらく『新規受付』『依頼受付』『報告受付』『買取受付』『案内受付』のようにそれぞれに与えられた役割が表示されているものだと思われるのだが……
「………………うん、わからん」
そりゃそうだ、だって読めないし。
こうなると一発目は勘に頼るしかない。
勘に頼るというか、単なる当てずっぽう――ザ・適当である。
まあ一人目で聞いてみて、違ったら正しい窓口を教えてもらえばいいだけだ。気楽にいこう。
……気楽に……?
(いきづれぇー……)
いや、なんで皆さんそんなに美人なの?
アイドル系からモデル系までよりどりみどりじゃないですか。
もしかして顔採用なの?
……まあそれは実際ありそうだけど……
何にしたって年齢=彼女いない歴の十八歳には眩しすぎるよ……
誰を選んだところで――はっきり言って気後れしかしない。
……仕方ない。こんなときはアレの出番だろう。
俺は受付嬢全員が視界に収まる位置に立つと――
「だーれーにーしーよーおーかーなー、かーみーさーまーのーゆーうーとーおーりー、鉄砲撃ってバンバンバン、もひとつオマケにバンバンバン――っと」
うむ。左から四番目のあの人に決めた!
(……いや子供か)
我ながら何をしてるんだろう……
もちろんめちゃくちゃ小声だったが……
当然、実際に指を差したりなんてそんな失礼なことはやっていないが……
(だからって……)
我ながらいまのはちょっとアレだよなあ……
コホンッ。
……ま、まあ選定方法は置いといて……
とにもかくにも話しかける相手を決めた俺は、男女カップリング番組の告白シーンよろしく、キリリと表情を引き締めると、普段よりも数段スマート(当社比)な動作でもって一人の受付嬢に歩み寄った――
なお。いまさらだけどこの世界――なぜか言葉は通じるのである(お互い日本語で会話しているようにしか思えない)。ご都合主義ここに極まれり。
「――すみません」
と、スマート(当社比)に声を掛ける。
それに対し、
「はい」
金髪をツインテールにしたアイドル系受付嬢さんは最高の営業スマイルで応えてくれた。キラッキラである。
「こちらは冒険者ギルドの受付ということでよろしいでしょうか」
「えっと……冒険者……ですか?」
声もプリティなツインテアイドル系受付嬢さんは怪訝そうに小首を傾げた。
(――あれ?)
何その反応。
彼女は言いにくそうに続ける。
「……あの、大変申し訳ございませんが、こちらは探索者協会の受付となっております」
「え」
〝探索者〟――
それは冒険者と双璧を成すファンタジーラノベのお約束。冒険者が何でも屋に近い立ち位置なのに対し、探索者は〝ダンジョン攻略の専門家〟という色合いが強い。なお、冒険者よりも若干マイナー。片方がマイナーじゃ双璧を成せてないじゃん。というツッコミはナシで。
――って、
(そっちかーい!)
……どうやら俺は世界観を読み誤ったらしい。
「え、えぇ……と」
……き、気まずい……ていうかめっちゃハズい……
顔から日が出そう。
こういうときは――
「すみません!」
ガバっと頭を下げ、
「また来ます!」
「あ」
――三十六計逃げるにしかず。
アイ・アム・ア・脱兎――
俺はスマートからは程遠い所作を晒しつつ、その場から速やかに離脱するのであった。
ピョーン!
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