ふわふわ

@nonoharupapa

ふわふわ

ふわふわは孤独だった。

だからふわふわは歌を歌った。

昔誰かに教えてもらった歌だ。


ふわふわはおかしいな、と思う。

歌は覚えているのに、どこで誰から教わったのか思い出せないからだ。

ふわふわは歌うのをやめて考えてみたけれど、しばらくして考えるのを辞めた。

この歌まで忘れてしまう気がしたからだ。


ふわふわは、そうだ、この歌をうたうたと呼ぼうと思い付いた。

ねえ、とふわふわはさっそくうたうたに話しかけた。どうしてここにいるの?


うたうたは、どうしてだろうね、とのんびり答えた。

ふわふわはその話し方がすっかり気に入って、どぉぉしてだぁぁろうねぇぇ、と真似してみた。

そうして、ふわふわとうたうたは仲良くなった。


いろいろな話をうたうたとした。

うたうたはいつも、どうしてだろうね、とのんびり答えた。

その度にふわふわは真似をして笑顔になった。


ふわふわは孤独だった。

だからふわふわは道を歩いた。

まっすぐなのか曲がっているのかわからなかった。

まっすぐ歩いていたらいつか地球を一周するように、大きなからっぽの中を一人で歩いた。


ふわふわは目の前にある小さな空間をまえまえと呼ぶことにした。

まえまえはいつもふわふわの前を一緒に歩いてくれた。

逆を向いて歩いても、後ろ歩きに歩いても、ちゃんとまえまえはそこにいてくれた。


ふわふわはまえまえに話しかけたことがあるのだけれど、まえまえは何も話をしてくれなかった。

でも、とふわふわは思った。声が聞こえなくたって一緒にいることが大切なんだ。

そう思う度に、道を歩くだけでふわふわは笑顔になった。


ふわふわはどこまでも歩いていけそうな気がしたけれど、どこまで歩いても、どこにもたどり着けず、やがて消えてしまうことを知っていた。


実際、ふわふわは随分遠くまで歩いてきたし、くたびれていた。

ふわふわは歩いているうちに、足がすり減り、ついになくなってしまった。

それでも、ふわふわは転がりながら進んだ。

体がすっかりなくなってしまうまで。


うたうたの声はもうふわふわに聞こえなかった。

まえまえの存在はもうふわふわに感じ取れなかった。

ふわふわはもう、うたうたやまえまえを思い出すことさえできなかった。

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