出発

「なんで僕に国際魔法警察からのスカウトが?」と竜太が萬屋に尋ねる。


「まぁ基本的に魔術持ってるやつにはスカウトが行くって決まりなんだよね。で、君が魔術を持っているのを知っている理由はこれだよ」


と言って萬屋は「遺書」と書かれた封筒を見せてきた。それは紛れもなく真斗の筆跡だった。


「話続けるよ、この遺書は俺宛に書かれた物だ。今からこれを読み上げるよ。『俺の孫の竜太は魔術を持っている。5年ほど前にその魔術が暴発してしまい、それが理由でこの村では竜太は避けられている。だからこの村に留まり生活することは難しい。だが、高校にすら行けてない竜太は都市部でも碌な仕事に行けないだろう。このままではいつか魔法犯罪を犯してしまうかもしれない。だから竜太を国際魔法警察に入れてやってくれないか』まぁ、あとは火葬代と墓代払ってくれって書いてあっただけ。 これで分かった?」


竜太は首を縦に振った。

すると萬屋は立ち上がり、荷物を片付けながら


「じゃあ俺そろそろ帰るから」


「分かりました」


「まぁとりあえず真斗の遺体はとりま俺が引き取るよ。火葬も済ませちゃうけどいい?」と萬屋。


「よろしくお願いします」


「じゃあ明日また来るからそれまでに墓の場所をランと話しといて。あと、荷物まとめといて」


「なんで荷物を?」


「この村出るからだよ。国際警察入るんだったらここにいちゃダメでしょ」


「分かりました」


萬屋は会話の間に身支度を済ませ、「じゃあまた明日」と笑いながら手を振った。


「また明日お願いします」と竜太も手を振る。


萬屋は真斗の遺体を乗って来た車の後部座席に寝かせ村を出て行った。


その後、ランと話し合い、墓は永代供養にすることを決めた。真斗はこの家を気に入っていたため、自宅墓にしてやりたかったが、これから村を出る以上、管理が出来なくなる。だからと言って見知らぬ人と一緒の共同墓地では流石に可哀想だ。そのためやむを得ず永代供養にしようということで話が固まったのだ。そして寺院に行き手続きを済ませた。


翌日、朝9時きっかりに萬屋が来た。


「おはよ〜、墓のこと決まった?」


「はい、永代供養にすることになりました。おおかた手続きは済ませたので後は骨入れれば大丈夫です」


「お、そこまでやってたんなら話が早いね。てか300万で足りた?」


「はい、あとこれ余ったお金です」と厚みが半分ほどになった封筒を差し出した。


「いや、余ったんだったら残りはこれからの生活費に充ててくれ」


「ありがとうございます」竜太は頭を下げる。


「じゃ骨入れにいこっか」と萬屋が骨壷を出した。


「そうですね」萬屋から骨壷を受け取り出発しようとした時、


「ちょっと待てぇい!」ランがいきなり間に割って入ってきた。

「萬屋!昨日の話の続きじゃい!テラパシーのできる野良猫を見つけた。これによりただの猫でもテレパシーが使えることが証明されたのだ!」と言い一匹の三毛猫を連れてきた。


三毛猫が「にゃぁ」と鳴くと同時に頭の中で「私は三毛猫のミケです。よろしくお願いします」という声が響いた。


すると萬屋が呆れたように「一匹じゃ証明にならないだろ」とランに言った。


「うっ…」とランが声を漏らす


「それになぁ、お前がタイミングよくテレパシー魔法使ってヘタクソ腹話術してんのも俺には分かるんだよ!舐めてんのか!」と萬屋が怒鳴るとその声に驚いた三毛猫は慌てて逃げて行った。


「チッ、バレたか」とランが不貞腐れたように言う。


「お前に付き合っただけ時間の無駄だったわ」とランに向けて萬屋が言い放つ。


「!? なんだとー!」とランが食ってかかる。そして言い争いが始まる。


言い争いは終わる気配を見せなかったため竜太は一人で寺院に行き納骨を済ませた。

竜太が帰ってきてもまだ言い争いを続いていた。竜太が帰ってきたことにすら、いや居なくなったことにすら気づいていないだろう。


流石にこの状況に苛立ってきた竜太は「いい加減にしろ!」と声を張り上げた。

すると二人(一人と一匹)はぴたりと言い争いを止めた。


「じゃあ出発するから車乗って」


「分かりました」と竜太はランを抱きかかえ車に乗り込む。


「しゅっぱ〜つ」とランが言う。


車が発進する。

車が村から出る。

だんだんと村が見えなくなっていく。



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