来客

眠れぬ夜を明け、ランと朝食を食べていると


「あっ、萬屋が村に来た」と唐突にランが声を上げた。


「なんで分かるんだよ」


「気配とかだね〜。あいつ魔力量多いから分かりやすいよ」


「へぇ〜、てか萬屋さんはランが喋ること知ってんの?」


「知ってるはずだよ〜、忘れてなければだけど」


そんな話をしながら朝食を食べ終えた時、インターホンが来客を知らせた。


「あっ来た来た。じゃ竜太早く出てやって」


「今食器洗ってるからランが出てくれない?」


「無理無理、僕猫だもん」


(そういえばこいつ猫だったな)竜太は食器を置き、玄関のドアを開けた。


そこに立っていたのは、焦茶色の髪のショートカットにやや幼さの残る顔立ちをした、やや背の高い若い男だった。(だいたい20歳前後くらいかな)と見当をつけた。


「あなたが萬屋さんですか?」と竜太が訊く。


「そう、俺が萬屋だよ」顔に見合った声だった。


「萬屋ってあだ名とか職業名ですか?」


「いや、俺の苗字」


「あっ、すみません。どうぞ上がってください」


「ども」と短く言い萬屋が靴を脱ぎ家に上がった。


「真斗の遺体ある?」と萬屋が尋ねる。


「居間に寝かせてあります」と竜太が返す。


「おっけ。あとこれ火葬代と墓代」といって萬屋が分厚い封筒を投げてきた。


竜太がキャッチすると「だいたい300万入ってるから」と萬屋が言う。


「300万!?でもこんな大金を貰うわけには‥」


「遺書に書いてあるだろ」と萬屋がぴしゃりと言い放ち、遺体の前に座り手を合わせた。


「まぁてんきゅ〜萬屋」と竜太の横にいたランが言う。


萬屋が一瞬顔に驚きの色を浮かべ


「まだ生きてたんかこの化け猫」と言った。


「誰が化け猫じゃい!」と言ってランが萬屋に猫パンチを喰らわせる。


「えーっと、萬屋さんはじいちゃんとどんな関係だったんですか?」と竜太が話を変える。


「あー真斗とは同僚だよ」萬屋はしっしっと手を振ってランを追い払った。


(じゃああんたは何歳なんだよ)と思うがランの例もあるし口にはしない。


「だけど」と萬屋が話を続ける「正直、俺真斗のこと嫌いだったんだよね。自分の利益のためには何でもしたからね、あいつ。金と保身のためなら人も見殺しにするし違法行為も働く、何人もの女と関係持った挙句相手の数人を自殺まで追い込む、ほんっとにどうしようもないクズ人間だったからね」


竜太は頭に血が昇り、腑が煮え繰り返るのを感じた。が、それらの感情はすぐに別の違和感に押し流された。


「嘘ですよね、その話。」と竜太が萬屋に言う。


萬屋は一瞬動揺したような素振りを見せ「なぜ断言できる」と言った。


「だって、ランが何も言わないじゃないですか。数年前、僕がじいちゃんにこっぴどく叱られたことがあったんです。叱られた後ににランにじいちゃんの愚痴を漏らしたらランが激怒して滅茶苦茶引っ掻いてきたことがあったんですよ。じゃあなんでそこまでじいちゃん思いのランがここまでじいちゃんを貶されて何も言わないのかと思ったんです。そしたらあなたが嘘をついているとしか考えられなくなったので」


萬屋は話を聞き終わると「まさかここまで頭が回るとはな…」と呟き、「ラン、ちょっと来い」と言った。

ランが萬屋の方に来ると、萬屋はしゃがみランと視線を合わせると小声でランと言い争いを始めた。


「このクソ猫!俺がせっかくあいつのことを試すためにあんなこと言ってたんだから察してそっちも演技しろや!」


「だれがクソ猫じゃい!第一そんなことするんだったら予め僕に言っとけよ!」


「だからそれを察して演技しろって言ってるんだよ!」


「ただの猫にそれを要求するんなよ!」


「お前はただの猫じゃないだろ!」


「僕はただの猫だよ!」


「ただの猫はモンスター食えねえし、テレパシーで話してこないんだよ!」


「…うるせぇ!」


「お、負けを認めたなじゃあ少し黙ってろ」


言い争いを止め萬屋が竜太の方に向き直り


「正解、君の魔法を試すための嘘だよ」


「なんで僕の魔法を試す必要が…」


「言い遅れたね、はいこれ」と言ってた名刺のようなものを渡してきた。


「国際魔法警察日本支部…第一課長 萬屋真しん…」


「そう、僕は国際魔法警察第一課長 萬屋真だ。ここにきた理由は一つ、国際魔法警察に君をスカウトするためだ。」

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