第2話 トーキック初級

 やあ、俺だ。

 トーキックの伝道師だ。


 そういえば、前回はどこまで話したっけ?


 ああそうだ。

 俺が初めてのサッカーシューズを買ってもらって、ボールを無くした話だったな。


 いやはや、あれはしばらくの間夢で見たんだよ――ってその話はもういい?

 チッ、そんなに急かすなって。


 分かった分かった。

 確かに、俺もそこまで時間がある訳じゃない。


 手早く本題に入るとするか。


 今回は、ちょっと時間を先に進めて俺が中学生の頃の話だな。

 俺の中学は、地元じゃそこそこ大きな学校だったんだ。今はもう統廃合で無くなってるらしいけどな。


 ああいや、中学校自慢じゃないって。

 んで、俺は当然中学校でもトーキックの練習を続けた。


 入学三日目にして付いたあだ名は、トーキッ君だ。

 トーキックと君を混ぜ……あ、解説しなくても分かる? じゃ、いいや。


 当然、学校にサッカーシューズとスパイクまで持ってきてるんだから、サッカー部に勧誘された。


 だけど、当時の俺は何を血迷っていたのかその誘いを断ったんだよ。

 いや、俺も意味が解らないんだけどさ、多分当時はトーキックを極めようと思ってたんだろうな。


 その頃、ようやく十本シュートを打てば2本か三本くらいはいいシュートが打てるようになってたんだ。


 これならサッカー部でも通用するかも、なんてと思ってた俺の甘い考えは一か月後に粉々に砕かれた。


 人数ギリギリだったサッカー部に、怪我人が出たから俺は急遽助っ人として、試合に出る事になったのだ。


 いや、止めろ!

 当時の映像とかいらんから! おい、お前らふざけんなって!


 チッ、なんつー黒歴史を発掘して来やがった……。


 これで俺が炎上したら、お前のせいだからな!?

 今は何でもすぐに炎上するんだって、本当に分かってるか!?


 まあいい。とにかく小学生の頃からほとんど壁当てしかしてこなかった俺が、まともに練習もせず中学生にして初めての公式戦に臨んだんだ。


 オフサイド、何それ。

 ディフェンスラインのスペースを突け、何それ。


 てな感じで、俺はただそこに立ってるだけのカカシだったんだよ。

 あー、今思い出しても恥ずかしいって……顔あっち~~~。


 あ、この後俺ゴール決めるよ。

 いてっ! 先にバラしたからって叩くなよ!


 ったくよぉ、俺が怪我したらどうすんだって。

 あ、この時の事を覚えてるか?


 もちろん覚えてるに決まってんじゃん。

 俺の中学生活、最初で最後のゴールなんだからさ。


 あ? 怪我したのかって?

 いやいや、違う違う。単純に人数足りなくて試合に出れなかったんだよ。


 俺もようやく部活に入るかーって思った時には、サッカー部は人数不足でほぼ廃部に近い状態だったんだよ。


 時すでに遅し、とはこの事だと思ったね。

 まあこうして俺の中学校生活は終わりを告げたってわけだな。

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