第3話 現れた守護騎士
そう告げられた瞬間、ポラリスは固まった。
ビアンカは言った。守護騎士が、ポラリスの婚約者となる男性がもうそこまで来ている、と。
会いたくない、と言うのは許されないだろう。
腐っても次期聖女となる自分が、いたずらに守護騎士となる人を拒むのは身勝手に当たる。
それでもポラリスの心境は穏やかで無い。
初恋は叶わぬものなのだと思い知る。
「必ずしも今日会う彼を選ぶ必要は無いんだ。ただ次期聖女のお披露目は守護騎士との婚約式も兼ねているから、とっかえひっかえという訳にはいかないけどな……」
ポラリスはその場に棒立ちする。
世は自由恋愛が当然の時代だ。性やパートナーシップの在り方の多様性を幅広く受け入れる、エテルノの法律と世論と逆行する扱いをポラリスは受けるのだ。
けれど。けれど、彼女は。
――決めなくては。前に進むと。
神殿での生活がどんなものなのかは未だ分からない。分からないゆえにそこで幸福を得る可能性だってあった。
どのみちいつまでもここで、ぐずぐずしている訳にもいかない。
「分かりました。その方にお会いさせてください」
ポラリスが意思を示すと、ビアンカがほっと息を吐いた。
「そうか。こちらも急に来てしまったし、神殿に行くのに荷物を運ぶくらいはするよ」
つかえた物がすっきりした様子で、神殿長と呼ぶには若いビアンカが言うと。
「お願いできるのですか?」
「ああ、騎士にも手伝ってもらおうかな」
「へっ」
思わずポラリスの
こうして他人から
心は真っ暗に塗りつぶされて、最早何が何なのか分からなくなっているけど。
「リヒト! この子の荷物を頼めるか?」
ポラリスの騎士の名はリヒトというらしい。
……………………リヒト? リヒト?
「神殿長、彼女本人は――」
言いながら現れた人物に、ポラリスの全身が
その人物は、
丁寧に撫でつけられた、少し長めの黒髪。聖女を守る守護騎士にふさわしく
紅を引いたような赤い唇が、弦楽器のような深みある声を紡ぎだす。
「次期聖女ポラリス・クライノート様。再びお会いできて光栄です。エテルノ王国王都シレンシオ市にあります、クレアシオン神殿から参りました。あなた様の守護騎士、リヒト・エーデルワイスと申します」
ポラリスの心にあった漆黒の画用紙が、黒いままで輝きを放った。
一瞬だけ、同姓同名の別人かとも思ったけれども。彼は言った。再び会えて光栄だと。
「リヒトさん…………? あなた、なの、ですか?」
「はい、リヒト、リヒト・エーデルワイスです。いつかシャボン玉が飛んだ日を、覚えていらっしゃいますか?」
それはまるで、夢を見ているかのような二人の再会だった。
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