第4話 あれはまさに! 貪欲に幼女を求める眼光!
赤と青の歪んだ世界を、一台のロードバイクが駆け抜ける。人っ子一人いないので、前傾姿勢でドロップハンドルの下の方を持ち、思う存分スピードを出すことができる。
ライダーの名は本間充。『白きリア充』と呼ばれる男だ。
しかし彼自身は、そのような恥ずかしい呼び名がついているとは知らない。
その街のシンボルであるケーティータワーが見え始めたところで、彼は春物ジャケットの懐に手を入れる。取り出したのは白翼の仮面。
「『現実武装』――リアライズ‼」
まばゆい光が疾走する彼を包み、瞬間、道路を走る一つの流星のようになる。
光の軌跡を残して現れたのは、白銀の装甲を身にまとった一人のリア充。
「『純白の両翼』――イノセント・ホワイト!!」
その名を聞いてか聞かずか、タワーを背景に、鳥の形を成したDTが不格好に飛び立つ。彼の白い光に反応したようである。
充はロードバイクから颯爽と降り立ち、目標を見据えた。
「今日も何とか団は来ないのかな。まぁ、僕がいれば彼らは必要ないわけだけど」
充は一人呟く。
たしかに、そこにリア充銃士団の姿は見当たらなかった。
「『リア銃システム』――オン‼」
偽りの天井を突き破り、馳せる二つの輝き。
凛と立つリア充の、その手中に収まったのは二つの拳銃。
「さて――懺悔するなら今のうちだぜ」
そう言って銃口を向ける。
DTは巨大な翼を不器用に動かし、タワーの周りをぐるりと旋回した後、充のいる方向へ首を向けた。
巨大な翼、鋭い鉤づめ、少し長い首、禿げた頭、獲物を探す眼光。それはあたかもコンドルのようだった。
そして、くちばしを開き、喉を震わせ発する叫びは……
「ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
……である。
「まさかお前……」
「ロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオリィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ‼」
今度はよりはっきりと、強く発音した。ギロリとその眼が充を見据える。
(「あれはまさに! 貪欲に幼女を求める眼光! 名づけるならば、あのDTは――ロリコンドル‼」)
どこかそれほど遠くない場所で、あの団長がハイテンションで解説する声が聞こえたような気がした。
「かかって来い! ロリコンの権化‼」
意気込む充。
迫りくる怪鳥。
「ヨォォォォォォジョォオオオオオオオオオ‼」
しかし突如、その怪鳥は奇声をあげて進路を変更した。
充の頭上を飛び去り、どこかへ向かう。
「え? ちょ、どこへ行く⁉」
困惑する充に見向きもせず、ロリコンドルは一目散に何かを目指す。
そして、奴が降り立った場所は――
「しょ、小学校……だと⁉」
そう、小学校であった。たくさんの幼女があつまる場所。今はまだ2.5次元空間なので人間の姿はないが、このロリコンドルが3次元へ侵入してしまってはどう考えても危険である。
危険を感じると同時に、ある人物の顔が脳裏に浮かぶ。「小学生は最高だ!」と声高にのたまった高山さんである。
「グヘヘ……ヨウ、ジョ……」
くちばしの端からネトネトとしたよだれを垂らす。それは充に、言いようのない嫌悪感を与えた。
「教えてやろう、DT……というか当たり前だが、未成年に手を出すと犯罪だ!」
充は変身後の軽快なステップで再度敵に向かい合った。
「ヨウジョ……カワイイ……」
DTはくちばしを開閉し、喉を震わせ、不器用に声を出す。
「オデ……ワルクナイ‼」
怪鳥は再び飛び立ち、キエェエエエエという叫びを発しながら、白濁したよだれをまき散らした。
「クッ……‼」
充は咄嗟に身をかわす。
白濁液はつい先ほどまで彼のいたところに落ち、ジュッという短い音をたてて地面を溶かした。
「ヨウジョ‼ ヨウジョ‼」
怪鳥は歓喜しながら白く濁ったよだれをまき散らし続ける。
「確かに――」
充はゆっくりと立ち上がる。片方のリア銃を使い、迫りくる唾液を撃つ。液は空中で蒸発した。
「――確かに、小さい子どもはかわいい。しかしそれは保護欲の類だ。お前の言っているものとは違う」
充は、己の可愛い生徒たちのことを思い浮かべる。彼ら彼女らが、下種の性欲にさらされると思うと、居ても立っても居られない。
「ウルサイ‼」
怪鳥の爪が充を襲う。しかしもう、充にその攻撃は届かない。真のリア充スピードが、DTを上回っている。
「その白濁液は、お前の歪んだ性欲だ! それは2次元の中に留めておけ!」
リア充エナジーに満ちた弾丸が、降り注ぐ液体を弾き飛ばしながら走り、DTの顔面を穿った。
「キィイイイイイイイイイイイイ」
悲鳴を上げた怪鳥が地面に不時着し、のたうちまわる。
鉤爪がコンクリートにめり込み、振り回された翼が風の暴力を生み出す。
しかし、白銀のリア充は、あくまで凛々しく立っていた。
「かの『ロリータ』の主人公、ハンバート・ハンバートは愛しい少女のことをニンフェットと呼んだ。親しみと愛と、その幼くも悪魔的な魅力への羨望を込めて……」
リア充は語りかける。ロリコンの祖――ハンバート・ハンバートに思いをはせながら。
「ヨォォォォォォジョォオオオオオオオオオ‼」
DTは再び舞い上がる。
ヘドロのような羽が乱舞し、まき散らされた唾液が周囲を溶かす。
充は近くの高層ビルに駆け込み、その嵐を回避した。
「貴様にそれほどの情熱があるのか! 禁忌を犯す悦びを、本当に求めているのか!」
ビルの中から、充の声が反響する。
DTは混乱してビルに突撃し、窓ガラスをバリバリと砕いていくが、あいにく充は捕まらない。
「ニンフェットを手に入れるため、その母親と結婚し、且つその母親を抹殺しようと目論むだけの、邪道なまでの愛欲が、貴様にはあるのか‼」
その声は、今度はDTのはるか上から聞こえた。
「それが無いなら、その下種な性欲は2次元に封じ込めておけ!」
歪んだ世界の太陽が、ビルの屋上に仁王立ちするリア充を、後ろから照らしていた。
あまりの神々しさに、DTは彼の姿を直視することができない。
「こめるは
その声とともに、充はビルの屋上から身を躍らせた。
『リア充エナジーマックス――ヴァイスライン・カスケイド』
機械音声が告げるのは、上空からの攻撃に優れた二つ目の必殺技。必殺技がそういくつもあるのはズルだと思われるかもしれないが、リア充はそれすら可能にする。
空中で、彼はDTめがけて銃を構える。
天空から降ってくる銀の奔流がロリコンドルの体を包み、浄化していく。
白きリア充がコンクリートの地面に颯爽と降り立ったとき、そこにはもう、怪鳥の姿は無かった。
ただDTのコアであるErogenous Coreすなわちエロゲが浮遊していた。
「ふぅ……」
充はあくまで、あくまでクールにそのエロゲへ手を伸ばした。
内心では「今回はロリコンモノかなぁ、あんまり耐性ないけどワクワク」と思っていたかもしれないが、あくまでクールに。
――パァン‼
突如鳴り響いたそれは銃声だった。
その音とともに、充の目の前でエロゲが砕け散った……。
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