第3話 『黒き非リア』について意見を交わそう

 リア充銃士団会議室では、団長主催の緊急会議が催されていた。


「今回緊急で皆を招集したのは他でもない。DTを生み出していると思しき『黒き非リア』について意見を交わそうと思う」


 個性を押し殺したようなモブ団員たちがざわつく。


「先日のレオパード型DT、通称ツンデレオパードが出現する前夜、あやしい人影が町に現れた」


 団長が傍らの団員を小突く。団員は慌てて映像を再生する。


   ◆モニター映像


「本間はホンマええやっちゃ。うふふ」


 人通りのない暗い夜道を、一人の冴えない酔っ払い大学生が歩いている。監視カメラの映像なのか、斜め上からのアングルである。画像も音声も荒い。


「つまらん……」


 その時だった。酔っ払いの背後から男の声。


「おぅふ。なんや誰かおったんか」


 学生は飛び上がって驚く。


「現実はつまらん。そうは思わないか?」


 暗闇から現れたのは、黒パーカーのフードをすっぽりかぶった瘦身の男。


「俺のダジャレがつまらんって言われたんかと思たわ」

「それもつまらん……」

「いきなりなんやねんおっさん。こちとら飲んだ後で膀胱パンパンやねん。ビビらせたらちびってまうぞ」

「解放せよ」


 黒の男はそう言って、彼にぐいと近づく。街灯の明かりのもとに出てきたが、フードの影が顔を隠している。


「え、膀胱を解放せよやて?」

「非リアエナジーを、解放せよ」


 黒い男は懐から何やら細い棒きれを取り出す。


「あーはいはい。ひりあえなじーのほうね。ってなんやねんそれ!」


 渾身のノリツッコミを無視して、男はステッキをかざす。


「うわああああああああああああああああああああああああ」


 ステッキから飛び出したのは、黒い稲妻のようなもの。それは学生の身体をつらぬく。彼は感電したように体をビクビク痙攣させて、気を失った。


 同時に、黒フードの男は再び暗がりへ姿を消す。


 カメラは倒れたままの大学生を映し続ける。

 映像はまだ終わらない。

 動き始めたのは、彼の影である。


 本体がぐったりして動かないのに、その影が自らの意志を得たかのように動き始める。

 やがて影の一部がレオパードのような形になって、本体から独立する。それはムクムクと膨張しながら、己が主を置き去りにして闇へ消える……。


   ◆モニター映像終了――再びリア充銃士団会議室


 会議室は静寂に支配されていた。驚愕のために誰もが息をのんでいた。


「『次元超越体‐Dimension Transcender‐』はかくのごとくして生まれるということがわかったわけだ」


 団長は、皆が驚いている様子に満足してそう言った。


「彼は、何者なのでしょうか?」


 団員の一人が言った。


「調査の結果、あの酔っ払い大学生は西村というツンデレ幼馴染好きの童貞であることがわかった」


 団長はタブレットを操作しながらレポートを読み上げる。総員がそっちじゃねえよと考えていたが、モブ団員たちは声を上げることができない。団長のパワハラが怖いからである。


「黒フードの男については、何かわかっておるのかの?」


 ここで助け舟が出された。団の年長者、実博士の登場である。


「奴については、現状情報が少なすぎるのです……」


 団長は悔しそうに言った。


「あの黒フードの男、呼称『黒き非リア』はそのステッキでもって童貞を襲い、DTを生み出している。あのステッキはおそらく、我々の『リア銃システム』と真逆のシステムによって非リアエナジーを具現化するものであろう……という感じかの?」


 博士がまとめてくれる。


「そ、その通りであります」


 団長は再び近くの団員を小突き、博士の言をレポートにまとめさせる。ちょっとは自分で考えろよ、と団員各位は思っているであろうが、誰も口に出したりはしなかった。このようにして団の秩序は保たれている。


「あの『黒き非リア』については、監視カメラと偵察ドローンを増やして情報収集を続けよ! 今日の緊急会議は終わり!」

「はッ」


 団長の指示を受け、団員たちは各々の仕事に戻る。


「それはそうと、キミ。『リア銃システム』に適合できる者――『真のリア充』は見つかったかね?」


 実博士は団長に近づき、そのように話しかけた。むしろこの話をしに来たようでもある。


「現在厳選しているところです。良質なリア充が集まっていますよ」


 団長は鼻高々にそう言う。


「ふむ、『リア銃システム』のお眼鏡にかなうといいのじゃがの……」


 対して博士は少しばかり思案顔である。


「ええ、ええ。大丈夫ですとも。特に、テニサーの中のテニサーと豪語するリア充。就活に完全勝利した将来安定のリア充。良家の生まれでそもそも不自由をしたことがないというリア充。この三人が最有力ですな」


 団長は自信ありげに語った。


「ほほう、期待しているよ。わしの発明品に見合うリア充でないと困るからね」


 博士は不遜な態度で笑みを浮かべた。


「ええ、ご期待ください」


 団長も負けずに胸を張る。


(ウー、ウー、ウー)


 その時、けたたましいサイレンが鳴り響いた。


「総員ただちに仮面を装着しろ!」


 団長、博士、その他団員はぞろぞろと指令室へ移動する。無数のモニターがそれぞれに状況を知らせている。


「新たなDTが接近!」

「場所は……ケーティータワー付近! 市街地です!」


 モニターを操作する団員が次々と報告していく。


「映像、出ます!」


 いちばん大きなモニターに、標的の映像が映し出される。


   ◆モニター映像


 赤と青のチグハグな世界。

 次元の狭間から現れたのは、二本の脚、二つの翼状のものを持った次元超越体である。


 そのDTは自らのドロドロとした体に、徐々に明確な形を与えていく。

そして、首を伸ばし、くちばしを開く。


「ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 その叫びが大地を揺らす。


   ◆モニター映像終了――再びリア充銃士団指令室


 団員らは恐怖のあまり絶句した。


「今度は声も形もはっきりしているようじゃな」


 博士は冷静に分析する。

 団長は武者震いしていた。


「例の三人を呼び出せ! 新たな『リア銃システム』を試すぞ! どこのどいつだかわからん『白きリア充』などに後れを取ってはならん!」


 団長は高らかに宣言した。

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