第5話 べ、べつに、アンタのために転生したわけじゃないんだからネ!

「ちょっと、どこまで行ってたの?」


 さて当の本間充はすみやかに緑川翠のもとへ戻った。懐にエロゲを隠し持っている背徳感もまた、リアルを楽しむスパイスになる。とか言っている場合ではない。ヒロインはご立腹である。


「最寄りのトイレが故障中でさぁ」


 とかなんとか言い訳しつつ、ご機嫌回復に努める。


「ふーん」

「荷物、お持ちしますよ」

「もう、調子がいいんだから」


 彼女の手から買い物袋を奪い取り、空いた手をスムーズに握る。大丈夫。DT戦の後にも手はしっかり洗っている。


   ◆場面転換――翌朝


 二人は充の部屋から仲良く月曜一限へ向かう。


 昨晩はいっしょに鶏肉のトマト煮を作って、ワインを飲みながら映画を見て、それぞれシャワーを浴びてぐっすりと眠った。機嫌は十分に回復したはずだが、彼女の気が乗らなかったのか、今週の夜のお楽しみはおあずけであった。


 相手は生身の人間なのだから致し方ないことだ。気分もあるし体調もある。そう理性的に考えて己の内なるリビドーを抑えようとするが、一般的二十代男子である充は正直なところ色々と消化不良である。


 しかし、今日の充にはお楽しみがあった。トレーニングは昨日やったし、授業が終わったらすぐに帰って、回収したエロゲを起動することにしよう。


◆べ、べつに、アンタのために転生したわけじゃないんだからネ! ダイジェスト


胡蝶こちょう:勇者なら、わたしの心ぐらい……討ち取りなさいよ』

双葉ふたば:見たいんやもん……勇者が魔王倒した時の、あのギラギラした顔……』

京依けい:魔王から逃げるなって言ったじゃない……守ってくれるんでしょ?』


 主人公は勇者である。現代日本から剣と魔法のファンタジー世界へ転生してきた系の……。

 彼には三人の美少女幼馴染がいて、なんと都合の良いことに三人が三人とも、主人公の魔王討伐をサポートすべく後を追って転生してくるのである。


 メインヒロインの胡蝶は女格闘家。攻撃力に全振りして主人公をサポートする。主人公は「この暴力女!」とか言ってスグ喧嘩になるが、はたから見ると夫婦漫才である。ちなみに彼女はツンデレである。


 関西弁の双葉は女魔物使い。彼女がいれば、倒した魔物を一時的に使役することができる。魔物を使役できるということはすなわちエロ方面への応用も効く。スライム系とか触手系とか……。ちなみに彼女もツンデレに分類して良いだろう。


 クールな京依は女魔法使い。いつもあやしげな魔法薬を調合している。得意な魔法薬は身体を小さくする薬。身体を小さくするということはつまり、オネショタイベントを期待できるということになる。ちなみに彼女はクーデレ寄りのツンデレである。


 三人のツンデレ幼馴染とともに魔王討伐へ向かう主人公。真面目に魔王を倒すのか、ヒロインたちとのイチャイチャにのめりこんで戦闘を放棄するのか。

 それはプレイヤーであるあなた次第……


   ◆ダイジェスト終わり――充の部屋


 欲求不満気味で意気揚々とゲームをプレイし始めた充であったが、うっかり大変マジメに魔王を討伐するルートに入ってしまった。エッチなシーンはおあずけである。


 しかし、意外と重厚なストーリーにハマり、魔王との決戦では手に汗握り、ヒロインたちとの絆に涙を流した。


「こういうのも、いいな……」


 勇者を通り越して賢者の境地であった。


「この感動を、誰かに伝えたい!」


 充はエンドクレジットを眺めながら、すでに電話をかけていた。

 ちょっくら自家発電しようと始めたエロゲが実は感動超大作だった……なんて、もちろんガールフレンドに言うことはできない。となればコールする先は決まっている。


「お? 本間か。どないしたん?」


 ツンデレ幼馴染が大好き……だった西村である。


「実は、ちょっくら自家発電しようと始めたエロゲが感動超大作でな……」

「お前から下ネタふっかけてくるなんて、めずらしいやん」

「なんとヒロインが全員ツンデレ幼馴染なんだ」

「な、なんやて本間!」


 黒フードの男に突っつかれてから、ツンデレ幼馴染に関する記憶を失っていたはずの西村だったが、やはりもとの西村に戻っている。

 あのレオパードDTを倒したからだ……充は確信した。


「今からそのエロゲを迎えに行く! 待っとれよ!」


 電話が切れた。


 迎えに行くってなんやねん……と思いかけたが、それは言い得て妙かもしれなかった。このErogenous Coreの本来の持ち主はきっと、西村なのだから。

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