第4話 よぉDT……知ってるか? 幼馴染同士の結婚確率は……2%なんだぜ?

 しっかり石鹸でお手々を洗い、清潔なハンカチでもって水分をぬぐい、トイレから出たところで2.5次元空間の到来。充はげんなりしてしまった。今はそんな気分じゃないのに。


「そうも言ってられないか」


 本間充は誰もいなくなった街を駆け、現場へ急行する。同学生たちの憩いの場でもあるアヒル川デルタへ。今回はデートのためロードバイクが近くにない。したがって自らの足を地につけダッシュである。


「tんdれええええええ」


 四足歩行のDTは言葉にならない叫びを発していた。


 しなやかな四肢。長い尻尾。その動きはネコ科の動物を想起させた。ネコ? トラ? ライオン? 否、しっくりくるのはヒョウ。レオパードである。


「やれやれ」


 息を整える。


「あまり長くかかると、ウンコ長いやつだと思われかねない」


 本間充はガールフレンドのためにも、短期決戦を決意する。


「デカいな」


 ウンコの話ではない。近づいてみると、そのDTは見上げるほどの大きさであった。本物のレオパードは動物園の檻越しにしかお目にかかったことがなかったが、それより一回り二回りも大きい。


「『現実武装』――リアライズ‼」


 あれ、と思えばそこにあった。

 白き仮面が懐に。


 本間充はリア充銃士団が言うところの『白きリア充』に変身する。またの名を『純白の両翼――イノセント・ホワイト』。


「おsnnjいmいいいいいいいいいいいい」


 相変わらず、レオパード型DTは何を言っているかわからない。


「よくわからんが、今日は巻きで行くぞ!」


 二丁拳銃に、リア充エナジーを装填。弾はその意味で言うと無限である。

発射。


「ttttttんんんんdddrrrrrえ」


 異形の者は身をひるがえして弾を避ける。さすがネコ科。俊敏である。先日のDTとは違い、ヘドロ状ではない。柔軟ではあるものの、確固たる形がある。そこには筋肉があり、その躍動がある。


「それなら!」


 そこに筋肉があれば、動きが予測できるというものだ。


 ――ドン、ドン。

 

 左右のリア銃から、時間差で発射。


「おssnjj???」


 一発目で誘導して、二発目を当てる。だが、浅い。

 DTは驚いたような声を上げる。


 収縮したバネがどちらに向かって伸ばされるのか。それはよく観察すればわかることだ。中山くんとの筋トレの日々は伊達ではない。


「おっと」


 前足による爪の斬撃を避ける――ザン。大地が抉れる。


「なにを」


 続いて迫りくる牙に向けて、弾丸を放つ。レオパードはキャンと嘆いて顔を背ける。ちょっとかわいい。


「お前、まさか……」


 ヒョウ型のDTは、顔面に弾丸を受けて、しかし喜んでいるようにさえ見えた。


「まさか、ちょっとMっ気があるのか?」

「b、btnい!」


 DTは言葉が分かっているのかいないのか、牙を剥いて再び襲い来る。


「ちょっと失礼!」


 銃弾で牽制しつつ、距離を取る。

 どうしてだろう。この次元超越体――DTは、他人の気がしない。

 そう、思い出されるのはツンデレ幼馴染について熱弁する友人――西村の顔だ。


「そこか!」


 レオパードとは逆方向、充は背後に向けてノールックで弾丸を放つ。チュンという音がして、何かを撃ち落としたことがわかる。


   ◆場面転換――リア充銃士団指令室


「映像、途絶えました……」

「何が起こった!?」


 司令部のモニターが突如砂嵐状態になる。熱心にモニターを凝視し、白きリア充とDTとの戦いを手に汗握り観戦していた団長はヒステリックに怒鳴る。


「いいところだったのに!」

「え……」

「あ、いや、ゴホン。状況を報告せよ!」


 通信係がカタカタカタ、ターンと無暗にキーボードを操作する。


「ドローン係より報告あり! 白きリア充のリア銃によってドローンが撃ち落とされたとのこと!」

「ぬぁにぃ! あの野郎! 十七万八千二百円もするんだぞ!」


 団長は悔し気に机を殴りつける。


「何をぼさっとしている。動けるものは続きを見に行くぞ!」


 幾人かがすっくと立ちあがる。


「や、違う。戦いの続きが気になるとかではなくて、戦闘データを集めるためだ! 勘違いするな!」

「ラジャー」


   ◆場面転換――再びアヒル川デルタ


「ん、何か間違ったな」


 白きリア充こと本間充は自分が撃ち落としたドローンの残骸を確認しつつ、言った。


 何かの視線を感じて撃退したのだが、充が想定していたのはあの、黒フードだった。西村の話に出てきた黒づくめの男。奴がそのイメージカラー通り黒幕なのではないかと疑ったのだ。DTを生み出す力を持った者がいるのであれば、そいつはどこかでDTの暴れるさまを楽しく見ているのではないか、と。


 しかし、このドローンはたしかに監視が目的のものだったが、リア充銃士団のものらしかった。なぜ充にそれがわかるのかと言うと、しっかり名前シールが貼られていたからである。サインペンでくっきり『リア充銃士団』と。


「カメラではなく、たしかに人間の視線を感じたんだが……」


 リア充エナジーを脚部に集中させ、あたりで一番高い木に駆け上る。


「逃げたか……」


 怪しい人間の姿は確認できない。おそらくはリア充銃士団の連中もこちらに向かっているだろう。黒フードはよほど人見知りらしい。


「chyおおおおt、mshsnなああああ!」


 レオパードは黒い身体をくねらせ、器用に同じ木を登ってくる。


「そうだ。巻きで終わらせるんだった」


 二つの銃口でもって、眼下のDTに狙いを定める。


「こめるは現実リアル、砕けよ妄執フィクション!」


 光が二つの銃身に収束していく。


『リア充エナジーマックス――ツヴァイストリーム』


 リア銃から発せられる、やたら発音の良い機会音声。それが必殺技のトリガー。


「よぉDT……知ってるか? 幼馴染同士の結婚確率は……2%なんだぜ?」


 どういう計算によって求められた数字なのかは知らんけど。充は告げる。


「tndれおsnnjmy!!!!!!!!!!」


 二つの銃弾が白の軌跡を残してレオパードDTを引き裂く。断末魔の雄叫びが反響し、やがて消える。2.5次元空間がガラガラと音を立てて崩れ、三次元の、リアルワールドが戻ってくる。



 リア充銃士団の面々が現場に到着した時には、すでに事後であった。白きリア充の姿はどこにもなく、レオパード型DTのErogenous Coreすなわちエロゲは回収されてしまっていた。

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