第3話 なっ、なんだと⁉ 形が、整っている!
リア充銃士団の指令室。
壁中にモニターが並べられ、そのモニターの一つを、団長は真剣な面持ちで凝視していた。
「何を見ておるのかね?」
ウィーンというオーストリアの首都みたいな機械音とともに彼の背後のドアが開き、小柄な老人が現れた。
「先日の戦闘の様子を見返していたのです。あの『白きリア充』の正体に迫れないものかと……」
「ほほう」
博士は密かに意味深な笑みを浮かべるが、団長はモニターに夢中で気が付いていない。
「ずっとこちらを振り返らないし、仮面をつけて変身してしまってからも隙がない」
団長は先ほどから、例の戦闘シーンの録画映像を何度も繰り返し見ている。
コマ送りにしたりなんなりしているが、成果は無いようである。
「彼の正体を知ったところでどうするのだね? 変身前を襲って監禁でもするかね?」
博士はそんな団長に対し、咎めるような口調で言う。
「まさか、そんな……。我々は犯罪者集団ではありません。あくまでリアルワールドの平和とDTの殲滅を目的としているだけで……」
団長はしどろもどろになる。
「ならば彼の正体を探る必要はなかろう」
感情的な団長に対し、あくまで博士は冷静沈着といった態度を通す。
「しかし、我々の『リア銃システム』が奪われたのですぞ!」
「言ったじゃろう? 『リア銃システム』が彼を選んだのだ……と」
博士の言い方は、異論を許さないという調子だった。
「にわかには信じがたいですが、そうだというのであれば、そうなのでしょう」
ようやくクールダウンした団長は、やれやれといった様子でモニターから目を逸らした。
薄暗い部屋にモニターの明かりがチカチカと明滅する。
「彼の正体よりも、DTの方を分析したほうが賢明だと思うがね」
「もちろん、そちらについても抜かりはありません!」
団長はそう答えて、指をパチンと鳴らした。
その合図を受けて、何人かの団員がモニターの画面を操作した。一番大きなモニターに、先日の妹好きDTの画像が幾枚か現れる。ヘドロ状の球体はいびつで、触手を伸ばすさまはタコのようである。
「どうやらまだ形を整えられていないようですな。『非リアエナジー』が足りず、2.5次元にすら適応しかねているようです」
「そのようじゃの」
実博士は、見ればわかるというように肩をすくめた。
「あるいは……」
団長が言いよどむ。
「あるいは、何だね?」
博士は少し首を傾げ、先を促した。
「あるいは、認めたくないことですが、『白きリア充』の圧倒的『リア充エナジー』がDTの存在形成を阻害しておるのかもしれません」
「ふむ……それは、『あるいは』というよりは『且つ』じゃろうの。DT自身もこちらの次元に慣れておらず、そこに強力な『リア充エナジー』が近づいたものじゃから、形を保てなかったのじゃろう」
「なるほど……」
団長は腕を組み、モニターに映された白銀の銃士を見つめる。
(ウー、ウー、ウー)
その時、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
「む、2.5次元空間が近づいている! 総員ただちに仮面を装着しろ!」
実博士を除く団員が仮面を装着する。一般的リア充では、2.5次元空間を認識するために、この特殊な仮面が必要なのである。
「新たなDTが接近!」
「場所は……アヒル川デルタ付近!」
モニターを操作する団員が次々と報告していく。
「映像、出ます!」
先ほどまで団長が使っていたいちばん大きなモニターに、標的の映像が映し出される。
◆モニター映像
赤と青のチグハグな世界。二つの川が交わるデルタ地帯はちょっとした自然公園になっている。本来であれば人々がそこで語らい子どもたちが遊んでいるはずだが、今この瞬間には人っ子一人いない。存在することができない。
次元の狭間から現れたのは、四本のしなやかな脚、長い尻尾状のものを持ったDTである。
そのDTは自らのドロドロとした体に、徐々に明確な形を与えていく。
そして、首を伸ばし、牙を剥く。貫禄のあるネコ科のたたずまい。
◆リア充銃士団指令室
「なっ……なんだと⁉ 形が、整っている!」
団長が驚愕をあらわにする。
「以前より強い『非リアエナジー』を備えておるというわけじゃな」
実博士はふむふむと一人で納得している。
「くそぅ、リア銃システムが我々の手にあれば……」
団長がわかりやすく地団太を踏む。幼児のように足を踏み鳴らしたところで、それは戻ってこない。
「今回もまた、『白きリア充』のお手並み拝見といこうではないか」
実博士は対照的に、悠然と余裕を持ってそう言った。
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