第5話 新妹刑事ドキドキ潜入捜査!

 大学での講義が終わった充は、まっすぐ自分のアパートに帰った。そしてパソコンを起動する。挿入するのは例のディスク。


 実のところ、十八禁のコンピューター美少女ゲームをプレイすることは、充にとって、はじめてではなかった。しかし、怪物のコアとなっていたエロゲはさすがにはじめてである。ワクワクが止まらない。


 ポップな曲とともに、画面に現れた文字は『新妹しんまい刑事デカドキドキ潜入捜査!』というものだった。ミニスカポリス風の服を身にまとった美少女がこちらに向かって拳銃を構えている。


「ふむふむ、予想通り妹モノだったか」


 充はゲームを進める。

 現実と虚構の区別さえつけば、妹だって恋愛対象となりうる。というのが彼の自論だった。リアルにガールフレンドがいる充だったが、フィクションは別腹である。


   ◆新妹しんまい刑事デカドキドキ潜入捜査! ダイジェスト


『ハルカ:お兄ちゃん……わたしと、潜入捜査……しよっ!』

『ナツキ:兄貴、アタシと潜入捜査しようぜ!』

『アキコ:アキがにぃにと潜入捜査するの!』


 主人公フユキには三人の妹がいた。恥ずかしがりのハルカ。ボーイッシュなナツキ。精神年齢幼めなアキコ。兄妹そろって刑事である。もちろん登場人物はすべて成人済みだ。刑事だと言っているのだから当たり前だろう。


 四人はとある凶悪な事件を追っていた。


 ハルカとともに新郎新婦に扮して潜入捜査したり……

『ハルカ:ねぇ、おにいちゃ……じゃなかった……だ、だだだ、ダーリン……(うぅ、恥ずかしいよぅ)』


 ナツキとともにド派手なアクションシーンに挑んだり……

『ナツキ:行くぜ、兄貴! 兄妹合体技! ……って何赤くなってんだよ! 合体ってそういう意味じゃねェよバカ兄貴!』


 アキコと公園で遊んだり……

『アキコ:次はにぃにが鬼ね! わぁー逃げろー。ふふふふふ、あはははは!』


 ……そうこうしているうちに、ある組織にたどり着く。

 主人公と三人の妹デカは、協力して敵のアジトに忍び込む。


 なんやかんやでともに助け合い、ピンチをくぐり抜け、分岐を経てそれぞれの妹ルートに入り、なんやかんやで仲良くなりすぎて妹と一線を越えてしまう。


   ◆ダイジェスト終わり――充の部屋


 という設定だった。

 そしてゲームはあっという間にエッ○シーンに突入する。


「ほほう、ちょっと早すぎる感はあるがこれはこれで……」


 リア充で彼女がいるからと言って、こういう類のものが必要なくなるかと言えば、そうではない。

 それとこれとは話が別。何度でも言うが、別腹なのだ。

 男というのはそういう風にできている。もちろん翠には内緒だ。


「確かにエロゲは童貞たちの妄想の産物かもしれない。でもそれはそれで夢があっていいじゃないか」


 充は賢者モードでつぶやく。今日倒したDTに思いをはせながら。


「それを無作為に消滅させたり、規制するなんてことが、誰にできるっていうんだ……」


 彼は自分の戦う理由に苦悩する。

 自分の中にあるアンビバレントな感情が、彼を苦しめるのだ。


   ◆場面転換――リア充銃士団指令室


「く、くそぉ! 私は、彼が真のリア充だなんて……認めたくない!」


 団長は地団太を踏んで悔しがっていた。

 リア充銃士団指令室に団長の声が響き渡る。


「落ち着け、団長」


 背後から博士の声。

 博士は現場に赴くでもなく、ここのモニターで観戦していたのだった。


 ――否、本当は、観戦すらしていなかった。

 戦いの様子に興味を示すでもなく、ただ悠然と座っていたのだ。おおよそこうなるであろうことは、すでに予想していたとでもいうように。


「しかし博士! せっかくの『リア銃システム』が! どこの馬の骨ともわからん若造に奪われたのですぞ!」


 団長はバンバンと机をたたく。博士の方はいたって冷静にその様子を見ていた。


「奪われたのではない――何度も言うように、『リア銃システム』の意志が、彼を選んだのじゃ」

「し、しかし……」

「『リア銃システム』のバックアップは取ってある。君が今すべき仕事は、『適合者』を探すことだ……『リア銃システム』の意志に見合う――選ばれし『適合者』をな」


 博士は静かな声で、しかしはっきりと命令する。


「ハッ‼」


 団長は背筋を正し、敬礼して見せた。


「準備は、整っております」

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