第4話 こめるは現実《リアル》、砕けよ妄執《フィクション》
一瞬の、静寂。
団長はあんぐり口を開けて呆けている。
DTはぐにゃりと体をくねらせ、先ほど口に入れたお食事を完全に取り込んでしまおうとしている。
しかし――
「現実から目をそらすな! 僕の友達は妹からキモロン毛と呼ばれているんだぞ!」
怪物の腹の中から、充の声がした。
「うそ、だぁぁああああああああああああああああああうがうがうがぁああああああ!」
DTが悲鳴を上げる。
「キモロン毛……って、満を持して何を言っとるんじゃぁああああああああああああああああああああああッ!」
団長も悲鳴を上げる。
――ピシィ
何かが割れるような音。
異形の口から、神々しい光が漏れる。
「ついでに言うと、義理の妹に至っては都市伝説だ!」
――ズパァン!
破裂音とともに、白きリア充が飛び出した。
リア充の輝きによって爛れ、はじけ飛んだDTの破片が、団長の頭上をかすめていった。
「な、なんということだ……」
団長は力なく膝をつく。
「ああああああああああああああああああ」
DTは悲鳴を上げ、大量の触手を充に向かって伸ばした。
「体が、軽い!」
しかし充はその攻撃を軽々かわす。装甲が軽く感じるほど、今の彼には力がみなぎっていた。
その様子を見て、銃士団の団員たちはあっけにとられる。
「ま、まさか奴は、この『戦い』という行為すら楽しみ、リアルの充実へと変換しているというのか!」
再び団長が説明台詞を吐く。
まさに充は、スポーツでもたしなむかのように、この戦いを楽しんでいるのである。
迫りくる触手を、リズムよく避けていく。
時に上体を逸らし、時にバックステップで、時には跳躍して。
くるりと翻って銃弾を撃ち込む。
「ぐぬぬぬぅうううん」
DTは苦しげな声音である。
充はいよいよ、そのDTに判決を下す。
「どうやら言ってもわからないようだな。現実と妄想の区別がつかなくなった化け物を、僕らの現実世界へ行かせるわけにはいかない!」
ヒラリとまたひとつ、触手の攻撃をかわし、二丁拳銃をまっすぐ構える。
「こめるは
光が二つの銃身に収束していく。
『リア充エナジーマックス――ツヴァイストリーム』
リア銃から発せられる、やたら発音の良い機会音声。それが必殺技のトリガーだった。
二つの銃口から迸る白銀の奔流。
それは双星のように寄り添いながら、白の軌跡を残し、標的へ向かう。
それはあたかも、この歪んだ世界を馳せる流星のようだった。
「いもぉぅとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
断末魔の叫びとともに、DTは爆発離散した。
白き閃光は標的を貫いてもまだ勢いを絶やさず、さらに空へと昇っていった。
赤と青に染められた偽りの空に、光が衝突する。
『2.5次元空間』がガラガラと音を立てて崩れ、三次元の、リアルワールドが戻ってくる。
溢れんばかりの光の中、充は先ほどまで『次元超越体』が存在していた広場へ歩を進める。
そこには、桃色に輝く一枚のディスクが転がっていた。
「あ、あれは! DTの心臓部――Erogenous Core通称『エロゲ』だ!」
団長が背後で解説をする。充はそのディスクを拾い上げ、しげしげと眺めた。
「は、破壊しろぉ! そいつは危険だぁ!」
焦る団長。
「どうして?」
冷静な充。
「それは童貞キモオタの歪んだ性欲が作り出した負の遺産! 実在するはずのない美少女たちとイチャイチャして最終的にはS○Xまでするという、おぞましいモノなのだ!」
団長は顔を真っ赤にして充を説得しようとする。
しかし、
「ほほう、それは興味深い。これは僕がもらっておく」
そう言って充はロードバイクにまたがった。
すでに現実武装は解け、仮面だけが彼の顔を隠している。
「さようなら、おじさんたち。僕は三限があるので失礼するよ」
呆けた様子の団員らを尻目に、通りすがりのリア充は颯爽と姿を消した。
何事もなかったかのように、平然と大学の講義へ向かって。
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