10. 平安と呼ばれる戦争の間

 黒雲が舞い上がる森林の奥地―――そこには、空気や大木に打ち負けた鉄の残骸が散乱していた。戦闘機を空中に固定して、備え付けの《経銃》とサイロの《情報端末》を手に持ち、下部の離席装置を開いてはエレベーターに手を掛け、慎重に地へ足を下ろす。

 自分は軍人でもあるが、本職に勝てるほどの技能はない。ましてや《フォルタグルンドゥ》の民に対しては傷すらも付けられないだろう。両手に握る《経銃》は、何のために存在するのか―――もしかすれば、握らないほうが生存確率は高まるかもしれない。それでも、手放せないのは・・・戦争という禁忌に片足を踏み入れた人間の宿命なのかもしれない。

 約207メートルはある道程―――僅かに斜陽が溢れる視認性の悪い森林は絶え間なく恐ろしく、同時に美しかった。それだけではない、ストレスが視界の彩を下げる一方でホルモンが鮮やかな世界を魅せて、再開された攻撃が生み出す轟音は静寂を作り出す。嗚呼、矛盾した感情を挟まず、純粋に《フォルタグルンドゥ》を感じたかった。この地に初めて訪れた父と母は・・・どちらの感情で地に足を下ろしたのだろう?

 平穏・・・平和・・・いや、こんな戦争の〝間〟が、続いてほしかった。しかし、現実は概念など映し出してくれない。地面に突き刺さる部品が、段々と大きくなったとき・・・半壊したコクピットの先に、人の影を発見した。

 それは、《フォルタグルンドゥ》の民であろう女性だった。自分よりも薄い水色の髪の毛で、自分と同じぐらいの背丈で、服や肌は擦り傷だらけ―――しかし、身構えながら彼女の身体を仰向けに起こしたとき・・・その顔面に過去が空回りした。




 「やめ―――! 俺たち―――兵じゃない!」

 「手を降していい! 気―d―――私たちの指示に――g―――い!」

 青空が見える。陽射に照らされた身体は不思議と生気が漲っており、微風に吹かれた草木の揺らぐ音、そして大人たちの叫喚が飛び交っている。何の言葉なのか理解できず、しかし考える間もなく、全ての音が一瞬にして消え去る。月が映える青空には、赤い液体と赤い彗星が飛び交っている。

 その景色が恋しいわけでもなく、なぜか悲しい。そう思うと青空が段々と遠く離れていき、やがて自分が闇の中へ落ちていることに気が付く。キャンバスに描かれたような四角い青空へ手を伸ばすが状況は変わらず、一方で――― ガッ

 伸ばした手に、何かが引っ掛かる。そこには、男性・・・いや、少年が私の腕を強く掴んでいた。

 「やっと、出会えた。」 「・・・貴方は?」 「―――こっちへ、戻ってきてくれ。」 「?」 「時間が、ないんだ!」 「・・・?」

 少年は、突如として涙を流した。その理由は分からないが、とても悲しそうだった。・・・ふと、気付けば、彼は大人の風貌に、・・・その姿は、私の―――

 私は全てを思い出した。私は〝本当の〟両親を知らなかった。なぜなら―――私が生まれて1年も経たずに死んでしまった。私は揺籠の中で目撃していた。私の横に立つ、父と、母と、多くの人々が―――青空から降り注ぐ赤色の爆音に包まれる光景を。

 私はママやパパの宝物であり、2人の遺産であった。《ティロディアクボ》が仕掛けた戦争を証明する、唯一の遺産。・・・私、いや、私たちは同族に―――《海の民》に裏切られたのだ。

 一度も思い出すことができなかった記憶を、どうして、今更? ・・・そうだ、私は敵の居留地を破壊したと思えば、地上に落下して・・・ここは、何処? 貴方は、何奴?

 戻らなければ。父や母は二度と戻ってくれない、それでも、私は現実に戻らなければ。

 彼は、今も私の手を握り続けている。私も、私も・・・己の生を、噛み続けなければ―――


【 ☯ 】


 自分は、泣くことすらもできなった。この瞬間、身元も分からない少女の手を無意識に握っているのは、彼女が〝ここにいるはずのない母親〟だと認めたい故だろうか。遠い昔に存在する記憶は曖昧だと、―――いいや。今年も一人の部屋で、朧げに映る両親の写真を眺めていたのだ!

 ふと、彼女の身体が動いたような気がした。・・・いや、息をしている。上半身が僅かに揺れると水色の瞳が思い切り姿を現した。その視線は、明らかに〝敵〟を認識しており―――自身の本能から解放されたとき、自分は自然と《経銃》を握りながら距離を取っていた。

 『・・・私を殺しても・・・無意味よ。』 「そうさ、僕は殺すために来たわけじゃない。」

 フラフラと体勢を立て直す彼女に、僕の言葉は通じない。たとえ意思疎通が行えたところで、言葉は無意味だろう。

 『・・・銃・・・下ろしてくれないね。』 「・・・。」

 途切れる口と併せて、徐に右手が差し出されたとき―――〝何か〟が始まる。手首から黒色の塵が浮かび上がると、〝それ〟は間もなく自分が握る《経銃》へ襲い掛かった。この身体を溶かすつもりか、蝕むつもりか―――しかし、引金に力を加えられない。それは、自分の意志による反発だった。

 その数秒後、塵は彼女の手首へ収束を始める。しかし、その多くは―――自分が握る《経銃》を、彼女の拳の中で構築していた。有り得ない・・・これが、魔法と呼ばれた力なのか?

 『・・・どうやら、私は《無能》じゃなかった。・・・嬉しい、でも、少しだけ悲しいわ。』

 その言葉に、妙な共感を憶えた。目の前にいる少女は、母でも、妹でもない。・・・《フォルタグルンドゥ》の民なのだ。・・・少しでも期待した自分が、馬鹿なのか? それとも、これが〝運命〟なのか?

 〔僕/私〕は、互いに銃口を向け合う。―――ただ、この瞬間が続いてほしいと思った。轟音と微風に囲まれた今の空間で、そこに聳え立つ〔彼女/彼〕が妙に懐かしく、それが安定して存在する。この気持ちは―――銃口の先にいる相手へ伝わらない、しかし、〔彼女/彼〕は指に力を入れないと確信している。何故? ・・・ただ一つ、諺を知っている故だろうか?

 「残念だけれど、君は僕が求めている人間じゃなかった。」 『・・・貴方は〝何か〟を探すために、この地へ降りたのね―――きっと、そんな感じがする。』 「逆に君は、どうやら《ティロディアクボ》へ行きたそうだ。」 『《ティロディアクボ》と? そうよ、私も、そこで〝何か〟を変えなくちゃいけない。この戦争を、終わらせるために。』

 ―――皮肉だ。〔僕/私〕たちの目的は同じ気がするのに、方向が真逆だなんて。〔僕/私〕たちは同じ気がするのに、その〝何か〟が違うだなんて。もう少し時間があれば、もう少し平和が続けば、互いを深く知り合えたのに。嗚呼―――どうして〔彼女/彼〕は泣いているのだろう。

 2人は、同時に《経銃》を下ろした。そこから近づくこともなく、ただ、別れを告げた。

 『・・・また、会えるかしら?』 「・・・ああ。その時は、別の武器がいいな。」

 2人は、背を向けて森へ消えた―――今から少女が向かう先は分からないが、何時かは《ティロディアクボ》で会うかもしれない。きっと、彼女は〝この戦争〟が複雑なものであると理解している。

 自分は、何を探しに来たのだろうか。父と母は、何か残したのだろうか。・・・いいや、ここまで来たのだ。何としても、探さなければ。父と母が殺されるだけの理由が存在しなければ!


【 ☯ 】


 「―――そして、魔法が消えると無数の蝗は一斉に命を絶えました。その体は地面の栄養になり、枯れた大地には再び作物が宿ります。」 「―――魔法の王様が持っていた杖は、賢者だけが知る秘密の場所へ、土の中に埋められた杖は、今も王様を待ち続けていたのでした。」 「・・・なんで、賢者は杖を壊さなかったの? もしかしたら、王様みたいな悪者が見つけちゃうかもよ?」 「そうねぇ、きっと、賢者は杖を壊したくなかったのよ。王様だって、最初は皆のために魔法を使っていたでしょ? 杖が必要になる場合へ備えたのかしら。」 「そんな、手に持ったほうが安全じゃん!」 「・・・そうじゃないの。大抵の人は、大きな力を恐れている。使うには覚悟が要る。覚悟がないと、悪者になっちゃうのよ。それを賢者は知っていたから、隠したと思うわ。」 「・・・お母さんなら、杖をどうするの?」 「うーん。ママなら、新しい王様に預けるわね。その人は、杖の恐ろしさを知っている。その知識も、子や孫に引き継がれる。安全でしょ?」 「・・・生まれてきた子供が自分だったら、イタズラで使っちゃうかも?」 「フフフ、オクディヴみたいなヤンチャ坊主のために、鍵ぐらい掛けるわよ。」

 ―――『蝗の王様』は、僕が4歳のときに気に入っていた話だ。彼女の魔法を間近で見たから思い出したのか、黒色の塵が蝗を連想させたのか、とにかく、そういう大きな力は隠される運命にある。それが魔法でも、情報でも。・・・父と母は殺されると分かっていたなら、何を残す? それは地面に隠されるのか、新しい王様が隠すのか。結局は―――

 ふと、茂みから一人の大男が飛び出してきた。土塗れの軍服を纏った彼は調査隊の一人だろうか、仮設本部へ急いでいる様子だった。

 「ッ! 同士よ、ここで何をしている?」 「!? えっと・・・ここ辺りに墜落した敵員を追跡しています。」 「〝奴〟か・・・貴様の身分は?」 「え、B2飛行隊の〝オクディヴ〟です。」 「失礼した、先を急いでいる。」 「・・・。」

 彼は、再び茂みへ消え去った。《統銃》も持たずに、一体、何が起こっているのか。少なくとも、戦闘機を奪われている時点で仮設本部は全く機能していないだろう。・・・敵員へ興味も持たずに、仮設本部へ行く理由は? むしろ、彼の後を追って現状の把握と情報の入手をするべき―――

 再び、彼が現れた茂みから気配を感じた。先程よりも乱暴な走りは、大男を追っている様子だろうか。《経銃》を構える余裕もあり、音に向けて照準を合わせる。次は、誰が来る?

 「・・・ッ! 止せ! 俺は味方だ! 敵の衣服を借りて・・・、・・・。」

 その声は、羽のように軽かった。歳を経て喉仏が垂れ下がろうと、3年間も音信不通であろうと、数少ない友人の声を忘れるはずがなかった。

 「・・・パラモ!?」 「・・・まさか!? オクディヴ・・・どうして、お前が!?」


【 ☯ 】


 科学省の中で働く自分とは対に、パラモは軍事省の中に存在する科学者の一人だった。優秀な彼は若くして部長を務めているらしく、そして〝様々な事情〟により第3調査隊へ参加しているらしい。

 「―――少なくとも数時間は、大丈夫なんだな?」 「ああ、電波施設を持つ仮設本部を無視して飛行隊が指揮を執るぐらいなら、予備の《人工衛星》が来るまでは何も報告できないはずさ。」

 彼は饒舌で人付き合いが上手く、調子に乗っているようで本当は慎重に物事を考えている。・・・嗚呼、自分とは対なのだ。人生の目的も忘れて〝武器〟を作り、無鉄砲に惑星を移動する自分とは。

 「そんなに重要なのか? お前の身分を通報することは。」 「俺だけじゃない、他の人間・・・いや、科学省と軍事省が本気で戦争を始めるぞ。段々と、事態が悪化している・・・ここから情報の一つでも狂えば、収拾できなくなる。」 「また・・・繰り返されるのか、第1調査隊のように。」 「・・・オクディヴ、俺だって〝何〟の抹消が狙いだったのか、分からないんだ。事実なのは、賢者が命令を下したことだけ。・・・ここへ来るよりも、向こうで賢者か関係者を探したほうが――― 「いいや、それほど重要な情報をここに残さないはずがない! 戦争の発端を察した調査隊なら、どうする? 友好的だった《フォルタグルンドゥ》の民なら〝鍵〟を―――情報でも人間でも、何か隠したはずだろ?」 「第2調査隊の同志が全てを引き継いだ。それでも、何も見つからなかった。大抵の情報は〝雲の上〟に送信される。発見した情報に、それ以上の価値はなかった。」

 「・・・《上級社員》か誰かは、《前人類》が〝魔法〟を宿して存在したことに危機感を覚えた。そのリスクに対処するべく、一旦は真実を闇の中に葬った。・・・それが通説さ。」 「・・・何の罪もない両親は・・・調査隊は、それだけのために殺されたのか?」 「いいや、認めなくていい。ただ、生きても、死んでも、俺たちの親は〝歴史〟に大きな出来事を書き記した。」 「・・・。」

 自分は、恐れていた。父と母は意味もなく死んだのではないかと。・・・だが、歴史に〝意味〟は存在しない。大地の一部と化した2人は、今の結果を創ってくれた。《フォルタグルンドゥ》という故郷を守ろうとする科学者と、そこに遭遇した自分を。今の自分が〝良い〟歴史を作らなければ、自分が見出そうとしていた〝意味〟は消えてしまうのだ。

 「・・・僕は、どうしたらいい? 何をすれば―――未来は良くなる?」 「・・・〝ここ〟まで来たなら、俺と同じ〝科学者〟として協力してほしい。」

 「今するべきは、〝あの男〟を説得すること、それが無理なら―――。」 「・・・。」

 戦争は、たった一つの情報で全てが決まる。その要は彼であり―――今の自分も、含まれている。


【 ☯ 】


 予想通り、半壊した仮設本部と周囲は所々に焦げ跡や血の跡が飛散しており、黒煙を透かす電灯には小さな生物が纏わり付いている。一方で調査隊の無残な姿は見当たらず、物音の一つも聞こえない空間は妙だった。―――あの大男は、何処へ?

 ゆっくりと草の床を進み、構造物に侵入したとき、全てを把握した。そこには両手を上げた彼の他に、2人の男女が、僕よりも若い子供が《統銃》を構えていた。一人は、彼へ。一人は、僕へ。

 『・・・。』 「・・・。」

 その沈黙は、妙に長かった。彼らは言語が通じないことを知っており、《オンライン》の翻訳器が機能しないことに困っていた。この惨劇は彼らの手が作り出したのだろうか? 居合わせたのは偶然か? 少なくとも、自分たちは大男の仲間であると思われている。

 『・・・その服、どこで手に入れた? 〝パラモ〟?』 「!」 『親父の仲間を殺したのか? そうじゃないなら、頭を振れ。』

 パラモの代わりに自分が首を横に振る。少年は状況を飲み込んでおり、質問を自分に続けた。

 『・・・貰ったのか? 何故―――お前たちは、親父・・・いや、俺たちの誰かと手を組んでいるのか?』 「・・・ああ。」 『ッ、そうか。隣のやつは、知っているはずだよな、この下に〝箱〟があることを。』 「パラモ、地下に〝箱〟を隠しているのか?」 「・・・そうだよ。冷凍状態の《旧人類》が。俺たち〝科学省〟が魔法を使うために。」 「・・・。どうやら、お前たちの陰謀は想像以上に複雑らしい。」 「お前は現場ばかりに赴くから分からないだろう。集団の信頼を得ることが如何に難しいかを。」 「関係ない。魔法が目的ではなく戦争を阻止する手段である以上、お前たちは〝敵〟だからな。」 「戦争? 違うね、軍事省という――― 『黙れ。・・・俺たちは情報が欲しい。青髪の―――。・・・お前が持っている翻訳器を渡して、話して、失せろ。そうすれば、この人質も返してやる。』 「・・・。」

 自分は、徐に男へ銃口を合わせた。そして、設定を変えた《情報端末》と耳から外したインカムを左手に持ち、少年の元へ。彼が用意したとき、自分は呟いた。

 「・・・この男は、僕たち〝科学省〟の陰謀を〝軍事省〟に通報しようと企んでいた。頭が切れる君なら分かるだろう、ここ《フォルタグルンドゥ》を守ろうとしている陰謀が消えたら、状況が悪化することを。」 「・・・。」 「僕とパラモは、第1調査隊・・・〝彼〟の組織に親を殺された。だから、僕は彼の頭に狙いを定めている。」 「―――興味深いな。〝使い捨て〟にされた調査隊、それを恨む子供たち・・・悲劇的な物語だ。」 「馬鹿にしているのか?」 「いいや。俺も血縁の娘を持つ父親だからな。お前の気持ちが解る。」 「・・・。」

 「第2調査隊は、前の隊が《上級社員》の陰謀で消されたことを現地で悟った。今になって再び地へ降りたのは〝これ〟の為だと納得したが、ただ一つだけ、彼らの痕跡には〝異物〟が存在した。」

 大男は両手を下げて、首からチェーン状の装飾品を外した。ただし、それには見覚えがあった。

 「どうして、それを持っている!? 遺品は――― 「遺品は市販の偽物だ。・・・見掛けはただのペンダントだが―――これは、認証機能が付いた《情報蓄積装置》だ。」 「・・・。」

 長方形の金属板は二重になっており、特別な内面には極小の端子と入力が埋め込まれていた。これが〝鍵〟なのか定かではない。しかし、通信された情報が完全に抹消されていれば―――これは両親が残した最後の遺産であり、重要な証拠だった。

 「・・・なぜ、隠していた?」 「そうだな―――誰も存在を知らない〝これ〟を渡して、これが禁忌であれば、俺は殺される。これが初めから存在しなければ、俺は殺されない。」

 「お前の信念は何だ・・・何を企んでいる?」 「何度も言ったはずだ。俺は兵士であり、父親であり、その為に働いている。・・・単純な行動原理だ、お前たちが考えるよりも。」

 「・・・どうして、今、それを僕に見せた?」 「8パーセント以下の確率で全てを変える最後の賭けだ。―――何を守るのか、兵士は、それを常に考えている。」

 男は僕にペンダントを投げた。その隙で照準は僅かに外れたが、男は動かず、僕も構え直すことはなかった。少年に《情報端末》を要求すると、彼は少しだけ複雑な表情を見せながら渡してくれた。

 ペンダントを接続して、自分の親指を翳すと、非破壊的に遺伝子が認証される。復号化されたデータの多くは書類であるが、それを完結に纏めているであろう、一つの動画が最後尾に残されていた。

 無意識に全員が顔を並べる中、音声出力を切り替えて、呼吸を整えた後に―――動画を再生した。


【 ☯ 】


 『アー。大丈夫だな?』 『これを見ている誰か・・・違う、オクディヴ、いや・・・クソッ!』

 『オクディヴ、いいか、お前にだけ〝情報〟を託す。本当は皆に共有するべきだが、今の状況じゃ偉い人間は〝情報〟の漏れを許さないらしい。』

 画面には、慌しい様子の父親が映っている。その後ろでは母親や《フォルタグルンドゥ》の住民が家内を走り回っており、更に後ろでは激しい銃撃や爆弾の鈍い音が響き渡る。

 『この《フォルタグルンドゥ》には、人が―――ただし、未知の技術を備え持つ《旧人類》が存在した。それは〝ロスト・テクノロジー〟で、おそらく無人探査が極秘で行われた段階から既に《上級社員》は存在を認知していた。総人口は2万人、町は5―――その機材は放置でいい。第4種のワクチンは絶対――― サッ 『ッッッ?』 『ッッッ!』 ザンッ 『えーっと、つまり、非人道的な行動が起きている。理由は分からない、ただ――― ドォォォォォン

 第1調査隊は《旧人類》に嫌悪されていたのではなく、歓迎されていた。そして、父のような科学者は《旧人類》を調査対象ではなく、隣人として友好を結んでいた。しかし、それは束の間だった。

 『―――大丈夫か? 行くぞ! ・・・行くぞ!』

 首から宙吊りになった端末は身体の動きに合わせて激しく揺さぶられる。僅かに映る視界から、両手に荷物を持っていること、間近で衝撃が放たれていること、そして、デジャヴする町が見える。

 『―――kの惑星を調査sた結果だ。《ティロディアkボ》と《フォrタグルンドゥ》は常に対で周っているわけzゃない。2000年以上前h互いの惑星が肉眼で確認dきるt度に接近していた。そしt、2000年後には再 ィィィン 近すると予想される。だが・・・だが、その後に《ティロディアクボ》の内部は崩壊するかもしれない。それどころか《ティロディアクボ》でも――― ドォォォォォン

 爆風により身体が弾かれると、首から外れた端末は昼間の空を映し出した。そこには、蒼い満月があり―――突如として現れた戦闘機が横切り、無差別に町を破壊する。人々も建物も、無茶苦茶に。両親は、軍事省に、いや、賢者に―――

 『ゲホッ、ゲホッ。クソッ、怪我は? 歩けるか? ―――こっちだ。』 『ェェェェェンッ。』

 端末は赤子が眠る籠に放り投げられたのか、大きな鳴声が時代を超えて端末を震えさせる。轟音を掻き消す声が止むと、父親は再び端末を取り出した。

 『ハァ、ハァ、―――。いいか、オクディヴ。お前には《フォルタグルンドゥ》で生まれた妹がいる。名前が、決まらない、そうだ。登録が必要ないと永遠に悩み続けてな、ハハッ、ほら、お母さんと並ぶと、瓜二つだ。』 「―――〝リクレア〟?」

 そこには、僅かな力で笑みを見せる母の姿と、薄い髪が生えたばかりの赤子が灰を被りながら涙を流していた。

 『全員が助かる保証はない。無理に《フォルタグルンドゥ》へ来るな。お前には、ここの〝真実〟を知っていてほしい。そして―――正しく〝武器〟を使え。・・・愛している。――― ザッ

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