07. 形而の破壊と再生
「やっぱり、初めから監視されていたんじゃない?」 「そうか? それなら、地下通路の出口で待ち伏せされていたはずだぜ?」 「2人とも、口より手を動かしなさいよ。」
パディマティスの案に従い、輸送機で返り討ち―――したいが、どうも動かし方・・・入り方すらも分からない。輸送機と云うのだから、扉ぐらいは存在するはず・・・一体、どこが入口だ?
「クソッ、奴に聞いてみるか?」 「あの仕打ちで、パラモが協力するはずないでしょ。」 「畜生、魔法を無効化する《グリッチ》があるなら、その逆も存在しないのかよ!?」 「そんな都合の良い――― 「・・・あ。」 「・・・あ?」
「パディのスランプと関係しているのか分からないけれど、何というか・・・最近、石の光の強さを制御できている気がする。」 「制御?」 「こう―――熟練の老人みたいに―――」 ビィィィ
「ほら。」 「・・・はぁ!?」
何と、マエレが手先の一つで容易く扉を開けてしまった。それどころか、続けて機械が動き始めて―――恐る々る、中に入る。彼方此方が光り、謎の図形が正面に描かれたと思えば、そこに外の景色が映し出された。正面の木に縛り付けたパラモとフェドの姿も確認できる。
「何だよ、俺たちに教えろよ!?」 「だって、使い道がないんだもん。」 「・・・。」
彼女は敵の魔法を、扱えてしまうのか? いや、元を辿れば共通した技術なのかもしれない。
「ついに、お前の能力が役に立つ日が来るとは・・・ 「コラッ、今まで役立たずみたいなッ!」 「まあまあ、【存在には価値と意味がある】っていうじゃない。」
この世界に無駄な能力など、存在しない。摂理ではなく、それは―――遺産として存在している。
マエレとパディマティスが前方の椅子に座り、板面に描かれる文字と図形を眺める・・・しかし、眉を顰めた2人が私を見る。こちらを見られても、私だって何も分からない!
「それにしても何なんだ? この読めそうで読めない文字は?」 「濁音はないし、代わりに変な文字があるし、うーん・・・。」 「・・・ねぇ、この機械を動かす線というか・・・〝全てを司る部分〟って、見つけられる?」 「脳みたいな?」 「そんな感じ、入力と出力ができる場所に行きたい。」 「脳っていうなら、重要な部品だぜ? 容易に手出しは・・・ 「フフフ、私の数少ない得意分野よ?」 「・・・?」
私は目に見える〝魔法〟を持ってはいないが、それなりに使える〝能力〟が2個ある。一つは世界の法則が表される〝数字〟を利用する力であり、もう一つは結果から歴史や過程を考察する力―――何と形容するべきか・・・ カンッ
「ほら、外れた。」 「マジかよ!? お前まで覚醒したのか?」 「私もマエレと同じ、直感で分かるの。〝これが何を意図して作られたのか〟ってね。」 「もう、レアに惚れちゃいそう。」
機械も、魔法も、明確な規則と構造が存在する。それを呟いたのはパディマティスだが、私は初めから知っていたのかもしれない。機械は如何なる状況も想定して造られている。単純であり、多様であり、頑丈であり、その全てを満たす構造―――おそらく、魔法も同じなのだ。
自分とパディマティスは下がり、部品を取り除いた箇所にマエレが手を突っ込み、そして・・・硬直した。目を閉じたまま、何かを深く考えている。
「何しているんだ?」 「集中している―――私もレアと同じ、機械の原理を読んで、機械に呪文を与える。」 「・・・。」 「何か、地味だな。・・・そうでもないか。」 「シッ!」
30秒が経過しただろうか、マエレが姿勢を戻すと同時に、輸送機の何かが作動した。継続的な駆動音が唸り、所々の金属が軋む。
「おおっ?」 「これよ。これが、敵を返り討ちにする―――武器!」
前方に投影される外の景色と重なり、新たに図形が出現した。それは、まるでパラモとフェドに照準を合わせている。外から内に響く重々しい音は、相当な威力を持つ武器だと推察できる。
「これは・・・本当に輸送機なの?」 「輸送機だって、襲われないように対策するはずだぜ?」
「・・・どうする、試し打ちでもしてみるか?」 「・・・何か、こう・・・少し卑劣な気がするような 「・・・。」 「それなら、隣の輸送機を破壊しましょうよ。」
「いい案、だけれど・・・これ、どうやって動かすの?」 「俺の勘も目覚めてきたぜ? この棒を動かせば――― ビビッ
「・・・何も起きないけれど。」 「・・・これは、あれだ。多分、武器を動かす入力だな。」
確かに、・・・パディマティスの言う通りだと思う。無茶な操作に冷汗を掻いたが、彼が棒の上部に付属する〝引金〟を押したとき、照準が赤く点滅した。・・・何とか誤射は免れた、しかし・・・何故、発射されなかった? ―――嫌な予感がする。
「空を飛ぶなら立体的な動きが必要になるから―――右の座席にある2本の棒で動かすのよ。ここが〝操縦席〟で、そっちが〝攻撃席〟かな?」 「なるほど。」 「操縦は2人に任せる。俺はここで特大の銃をお見舞いしてやるぜ。」 「頼むから、冷静に対処してよ?」 「重々承知さ。感情に流される無闇な人間じゃぁないさ。」 「嗚呼・・・不安だわ。」
結局、私が右側で操縦を、マエレが中央で色々な操作を担当することになった。座席と身体を固定する装置に両腕を通して―――これより、試験運転を始める。
無駄な入力が想定外の事態に繋がることを忠告して、私は慎重に2本の棒を握り締めた。これは、同時に動かすものだろう。まずは上昇して、地上と水平に旋回する。つまり・・・内側に傾ける!
「―――おおお!?」 「・・・浮いた。」 「・・・ハハハ・・・もう、負ける気がしねぇ!」
「さて、次は、旋回よ。」 「頼んだぜ、レア!」
段々と入力の感度やコツが掴めた。少しだけ浮き、少しだけ離れ、機体の正面を右隣りの輸送機に向けた。続いて、パディマティスが照準を合わせる。自動で対象を認識するらしく、図形が輸送機を囲んだ。
「行くぞ、3、2、1、0!」 「・・・。」 「こっちか? いや、違うな。」 「マエレは、何かできる?」 「待っ――― ズンッ
唐突に、何かが衝突した。鳥? いや―――
「西に敵! 援軍だ!」 「了解!」
機体を左へ向けると、地上には6人程度の、銃を構える黒い服装の敵が確認できた。時間に余裕はないと分かっていたが、これほど――― ズンッ
「駄目だ! 何も出ねぇ! ・・・明らかに撃てるはずだろ!?」 「―――味方に攻撃できない・・・味方を、識別しているんだわ!」 「な!? マエレッ!」 「分かっているッ!」
嫌な予感が当たってしまった。銃は無差別に攻撃できるが、これは何かしらの方法で敵を識別している。機体は自軍の武器で壊れるほど軟ではないが、それでも、耐えられるのは時間の問題だった。
「マエレ! 早くしないと不味いわ!」 「あと少し、あと少しで―――見つけた! 〝規則〟を壊すッッッ! パディ!」 「行くぞ!」
パディマティスが引金を押した刹那、新たな音が、銃よりも低く鋭い轟音が断続的に放たれる。地上には援軍・・・だった赤い物質が、木々と草原の狭間に散乱していた。
「・・・嗚呼・・・残酷。」 「・・・奴らは、無駄だと思ったんだろうな。・・・無防備な自分は絶対に殺されないと。」 「・・・いや、賢い〝2人〟は、この場を去ったらしいわ。」
樹木に縛り付けたはずの紐は解かれており、肉片と血痕は6人分―――輸送機の扉を解錠したことに怖気付いたのか、パラモとフェドは森の奥底へ姿を晦ましていた。
「追う?」 「いいや・・・どうせ、何れは出会うだろうよ。」
脅威が過ぎ去り、機内には鈍い駆動音だけが響き渡る。3人は無言で、ただ、同じ思考を巡らす。興奮状態が冷めてしまえば、心には罪悪感だけが残り続けた。敵という同じ人間を殺した事実―――過去は、元に戻らない。殺されることには慣れても、殺すことには慣れていなかった。しかし、受け入れなければ。覚悟したはずだ。
戦士・兵士は、命を奪う。必要なのは信念や正義ではなく、本能だった。しかし文明人は、これに最大の敬意を払う。それを教えてくれたのは・・・味方と敵の両者だった。共通する要素か? おそらく、僅かに違う。それは・・・能力を持つ〝私たち〟だからこそ、敬意の本質を知っている。
「ここから、どうする?」 「・・・分かっているだろ? ・・・行くんだ。仮設本部に。」
手先で武器が弄られると、引金で残りの輸送機は派手に爆発した。―――過去は、元に戻らない。今を生きて、過去を憶えなければ、あるいは、活かさなければ。
「俺たちが行ってやろうじゃねぇか。・・・空に浮かぶ拠点に。・・・天に浮かぶ惑星に。」
【 ☯ 】
取引の材料か、最後の切札か、とにかく、自分は100人を超える村人たちと歩みを合わせる。彼らに奇襲を仕掛けた兵士は催眠でも掛けられたのか、みっともない姿を屈強な男たちに担がれる。装備を合わせたら80キログラムは超えるというのに、村人は誰一人として疲れた表情を見せない。
怒りや憎しみを燃やす若者、強い口角で涙を堪える子供、戦争を理解している熟年は理性と能力を満遍なく制御している。無邪気な児童が自分に絡もうとするが、間もなく母親が引き離す。今の僕は子供にすら負けると思うが、残念ながら〝村〟が〝国〟に勝つことは難しい。
この戦争が終われば、自分とパラモは少なからず罰を受けるだろう。《フォルタグルンドゥ》の民に最大限の情報を与えようと提案したのは彼だが、それも実は嘘で、パラモには他の命令が下されていたのかもしれない。いや、それよりも前に使命感を持つフェドが僕について報告するだろう。
大気圏外に浮かぶ《人工衛星》は常に仮設本部を追従しているが、そこから《ティロディアクボ》へ情報を送信するためには物理的な輸送船が必要になる。往復には平均して20日を要するため、今は愛する母と娘の安否を考える必要はない―――いや、それも考え過ぎか? 《ティロディアクボ》は高潔を装った残酷な〝生命〟だが、野蛮ではない。これぐらいの不正で、世界が揺らぐなど―――
《人工衛星》を見上げたとき、何かの音に気付いた。自分よりも早く察知していたであろう村人は、自分と同じく北を向いていた。唸るような、力強い低音。しかし誰よりも早く、その正体を理解した。
「―――《中型層行輸送機》か!」 「ッッッ!」
鋼鉄を纏った黒い鳥は、我々を発見したのか、徐々に減速していく。あれに乗っているのは・・・もしかして、パラモか? いや、仮設本部に向かった村人たちを駆逐するためか? いいや、こんなに時間が掛かるとは思えないし、そもそもアレではなく《小型庸行戦闘機》が使われるはずだ。
そんな長考をしている最中、輸送機は何度か照灯を点滅させた後に過ぎ去ってしまった。攻撃でも、接触でもなく? あれは自分か、誰かに向けた合図だったのか? 混乱する周囲の様子から察するに、正体不明の飛行物体か、そもそもアレが何か分からないのかもしれない。・・・浮遊する村人は稀と聞いている、つまり、この戦争は空を制圧する――― ガサ ガサ ザンッ
「うわ!? ・・・!?」 「ッッッ!?」
しかし、自分は村人以上に混乱を引き起こした。鉄の鳥に巻かれた雲のように、全ての仮説が吹き飛んでしまったのだ。なぜなら、高低差のある茂みから〝2人の兵士〟が滑り落ちて―――
「パラモ! それと・・・フェド!?」
【 ☯ 】
町長が率いる組の生存を確認して、操縦〝桿〟の操作にも慣れてきたころ、ついに仮設本部の姿を目視した。生まれて初めて地上を俯瞰する―――そこには沢山の気付きがあり、同時に彼らの魔法へ嫉妬した。
仮設本部は、《三ッ子山》の山頂でも行かなければ視認できない場所に建設されている。それだけ相手は深く考えている。・・・私たちの思惑など、更に分かりやすいのだろう。確かに、今のように空を飛べば誰でも存在を認知して、攻撃も可能である。だが、その時点で既に遅いのだ。
「・・・マエレ、昨夜の奇襲、憶えている?」 「そりゃ、嫌でも憶えているわよ。」 「敵の姿は、目視どころか能力を以ってしても察知できなかった。もしかすれば、彼らはカメレオンのように姿を眩ます魔術を所有していると、思わない?」 「・・・嗚呼! 奴らは、もう一つの組を丸々と隠したのか!」 「そう、そして―――この機械にも搭載していると、思わない?」 「流石、何がしたいのか分かった。」 「流石、お願いしたわ。」
相手の知識と技術を使い、裏を掻くことが勝利に繋がる。両者の魔法は互角だとしても、彼らの魔法は普遍性があり、活用や応用が易い。・・・【全ての種は確実性よりも確率性を選ぶ】という諺は間違いだったのかもしれない。
「うーん、カメレオンみたいな機能はなさそう。・・・でも、これは?」
マエレの言葉を区切りに、外の景色が一変した。全体的に色が変わり―――しかし、ぼんやりと何かの影が―――人影だ。・・・もしかして、これは《入力型》の女性が見ていた視界? それとも、それ以上?
「・・・動物の位置が、全て見える。」 「【目には目を、歯には歯を】だな。」 「・・・少し違うと思う。」
「とにかく、あれが―――そうだ、20人分の影は、俺たちの組だ!」 「若干は逃げ切ったか、もしくは――― 「これ以上の犠牲が生まれる前に、行こう。」 「マエレ、まずは作戦だ。・・・敵は外に6、中に8人―――嗚呼、仲間は地下の空間に幽閉されているのか。」 「最初に、近くの小さな輸送機を破壊しよう。」 「駄目だ。あれは俺たちが利用するべき機械だ。あの形状は、おそらく戦闘向け・・・この先、必要になるぞ。」 ズンッ
「無防備な彼らを殺すのは気が引けるわ。」 「そんな情けを掛けるのは――― 「ねぇ! 全員を〝降参〟させればいいんでしょ!? だったら、私が説得する。」 ズンッ
マエレの言葉を堺に私たちは無言になり、その数秒後、機体の内側に無鉄砲な音が響き始めた。
「これを〝荠莃莓荬莋〟というのね、えーっと――― 『アー、アー。・・・降伏しなさい。これ以上の被害を出したくなければ。』 「・・・。」 『私たちは、この機械で攻撃できる。無意味に人を・・・殺したくない。』 「・・・。」
このまま、攻撃は止むと思われた。しかし、謎の言語が通信機を通じて飛び交うと―――再び攻撃が始まった。彼らは、何としても負けたくないようだ。何故? 何を原動力に? 機体の一部が損傷したのか、甲高い人工音が規則的に鳴り響く。
「・・・もう、・・・無駄なのね。」 「嗚呼・・・これが、戦争なんだ。」 ピピッ
歴史という書物には、我々と《海の民》の戦いが描かれる。その理由や意味は勝者の思惑によって左右されるが、戦いの本質までは描かれないだろう。なぜ、命を懸けて戦うのか。なぜ、軍を掲げて戦うのか。誰かは説明や考察を行うが、その中の一つだけが、正しいわけではない。その〝集団〟が作る〝意思〟を特定しなければ。対話しなければ。・・・今は、破壊しなければ。
【 ☯ 】
土や草に塗れた2人は、周囲の村人に構わず、体勢を変えながら殴り合いを続けた。
「おい、パラモ! フェド! 落ち着け!」 「うるせぇ!」
繰り広げられる謎の乱闘に呆れた村人たちは、2人を軽々と持ち上げ、身体を手足で縛り上げた。
「リゴン! こいつを殺せ! 俺たち、いや、《フォルタグルンドゥ》の敵だ!」 「恍けるな! お前たち、いや、何人が結託している?」 「いきなり、何なんだ! 何があった!?」
大声で飛び交う謎の言語に、人々は困惑している。ただ、自分も困惑している。
「リゴン! お前は俺の味方か? それとも奴の味方か?」 「・・・うーん、どちらかといえば――― 「公正に判断してやる。正式な役職を言え!」 「えっと―――軍事省・作戦実行部門・第18部隊です。」 「科学省との関係は?」 「特には無いけれど・・・はい。」
「奴の役職を知っているか?」 「いや、第3調査隊の編成時に知り合った――― 「本当だな? 家族と賢者に誓ってだな!?」 「は、はい・・・。」
フェドは、何か探りを入れている。対して、パラモは呆れた表情で僕を見詰め直した。そんな様子を、周囲の村人は不安な表情で見詰めている。
「はぁー、そうだよ。こいつは何も知らない。チームの雑談で俺の話に乗ってくれた、ただの〝善人〟だよ。」 「役職も知らないわけだな? 軍事省・経器研究部門・第1部長:パラモを。」
「・・・ん? 別に、普通じゃないですか・・・?」 「ああ、俺たちには馴染み深いな。だが、その部門は4年前に分解されて―――親元は〝完全〟に消滅した。そしてデータベースも更新されたはず―――だったが、コイツは何故か、矛盾した役職を今も所有している。」
「ただの間違いじゃ? 「コイツ〝だけ〟なら、そうだろうな! ―――12人。12人の野郎が存在しない役職、そして、存在しないIDを登録していたら?」 「!?」
軍事省と科学省は今世紀最大の力を有しており、《移住計画》に際して協力する―――が、実際は思想の相違で仲が悪かったりもする。曰く、科学省が既に乗っ取りを始動していると云う。そんな、馬鹿な話はないと信じたい。しかし《移住計画》の不信に乗じて、フェドは更に口を開けた。
「《フォルタグルンドゥ》を侵略する目的は、名の通り移住するためだ。問題なのは、そこで何が得られるか? 資源、環境、そして―――原住民の血と骨だろう。」
「《保存者》は、それを〝歴史〟と呼ぶ。《科学者》は、それを〝技術〟と呼ぶ、だろう?」
パラモは、図星だった。だからこそ、不気味な笑みを浮かべた。彼・・・いや、彼らは第1調査隊の意を敢行していたのだ。《フォルタグルンドゥ》の民を監視すると同時に、彼らが持つ―――魔法という未知の技術を知るため、盗むため、・・・おそらく、作るため。
「俺は《保存者》でも《科学者》でもないが、この惑星に関する情報は〝大きな何か〟が欠落していてな。人類を《フォルタグルンドゥ》と《ティロディアクボ》に分断した〝災害〟が何だろうが、《新人類》の知る〝科学〟よりも《旧人類》の持つ〝魔法〟が優勢なのは、矛盾していると思わないか? 〝科学者〟よ。」 「まぁ、それを調べるのが俺たち〝科学者〟の役割だな。」 「その為に《旧人類》を拉致したのか?」 「拉致とは言い掛かりな、《ティロディアクボ》の招待だよ。」
「沈静化する方法を前代から引き継いだのか、それは良かったな!」 「怒鳴るなよ、寿命が縮むぜ? 《ロー・ボイス》でベラベラと喋る姿は、らしくねぇな!? 観衆にでも訴えているのか?」
彼の言う通り、妙に演説口調なフェドは、様子が変だった。それは、気が違っているというよりも―――言葉で何かを誘っているようだった。それは、自分よりも―――大勢の村人を。
「そうだな、俺たちの文化を知らない彼らには、何の話か分からないだろう。」 「どうやら頭の打ちどころが悪かったらしい。翻訳機もなしに――― 「翻訳機なら、これのことか?」
フェドは、胸のホルダーから、基盤が剥き出しのデバイスを取り出した。即席で作られたらしく、スピーカーと思われる大型の円盤が取り付けられている。
「何故、起動させない?」 「いいや、起動しているようだ。」 「おいおい・・・〝敵〟ながら心配になるぜ?」 「・・・。」
おそらく、パラモよりも先に自分が気付いた。村人たちは話者に顔を向けるが、その表情は明らかに言葉を・・・数秒の遅れで理解していた。
「そういえば、調査報告書に纏め忘れていたな。・・・《旧人類》は《新人類》よりも、広範囲の音域を知覚できるという特性を。」 「・・・嘘だ・・・嘘だッ!」
青褪めたパラモがフェドに向けて足を動かすが、それも虚しく村人に抑えられる。暴れる彼を横目に、フェドは基盤のボタンで周波数を調整する。
『アー、アー。そういう――― 「わけで、俺は〝誰かの陰謀〟により機密情報を吐いてしまったようだ。』 「茶番は止せッ!』 「パラモ、お前は諺を知っていたな。それなら分かるだろう? 【未知は目の敵、無知は己の敵】の意味を。』 「おいッ! 何処へ行く!』
フェドは背後の村人へデバイスを託した後に、森の闇へ堂々と進み続ける。しかし、村人は誰一人として彼を追い掛けなかった。おそらく、《フォルタグルンドゥ》の民は戦争について知り始めた。 去り際に、フェド―――いや、第2調査隊の上長は、小声で僕に呟いた。
「どうやら、お前の説得に負けたようだ。だが、今から平穏を求めるには・・・血が流れる。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます