05. 単調な事象と混沌の世界
黄昏は消え去り、木々の隙間から見える夜空には無数の星と虹色の幕が広がっている。しかし奇妙なのは、一つの見慣れない、赤色の星だけが流されず―――あれが、彼らの居留地なのだろう。14年前に彼らは浮遊する移動手段を利用して、この地へ降りた。逆も然り、それを利用して、私たちは居留地まで行けばいい。情報の入手と脅威の制圧が、この戦いを決めるのだ。
仮設本部へ襲撃に向かうのは、パディマティスやマエレといった《入力型》の民を含めて25名。こちらには〝気配を感じる男〟や〝暗闇を見る女〟も付いているのだから、敵地を掌握するには申し分ない。敵は既に8・・・いや、7名も確保している。あの男・・・フェドという名前らしいが、連絡手段が絶えた彼も仮設本部に向かったと考えるべきだろう。
「先が開けている、迂回するぞ。」 「了解。」 「―――今の音は!?」 「大丈夫、ただの小動物だ。他に・・・! 微かに気配が見えるぞ。あれは敵というより・・・仮設本部そのものだ!」 「本当か?」 「嗚呼、慎重に行こう。」 「・・・この銃、意味あるか?」 「ハッタリでも、使えればいいのよ。」 「爺! 口を開けるな! バレるぞ!」 「すまんのぅ・・・眠い。」
私は・・・町長と比べれば頭脳は劣るが、数術の力は誰にも負けない。こうして隊に入っているのは―――嗚呼、私を止める者・・・私を留める者がいないのか・・・。家族と合流していれば、私は来なかった。本当は家族に会いたい、しかし、今―――それ以上に私の好奇心は強かった。故郷と隣人を壊した憎しみは、好奇心の動力源なのか、好奇心が抑止力なのか、とにかく利用したかった。
私たちは警備を一人、また一人と静かに気絶させる。こうして、私とパディマティスは先程と少しだけ形の違う銃を手に入れる。ただ、その重量は―――人を殺すには充分だった。
仮設本部の周囲は粗方、音もなく制圧することに成功した。次の段階では《入力型》の民が少人数で偵察を行い、それ以外の《出力型》の民は遠方で待機する。しかし―――ここからが難題だった。
「つまり、貴女と同じく奴らも暗闇を見ることができるのか?」 「ええ、確実ではないけれど、明らかに普通ではない光が一面を照らしている。」 「・・・うむ、まるで分からん。」
彼女の助言に従い施設の周りを慎重に探索するが、何処にも抜け穴はない。気付かれずに奇襲は不可能・・・そうなれば、如何に迅速な制圧を―――
「上はどうだ?」 「上?」 「木々を伝って天井から侵入するんだよ。上に光はないんだろ?」 「そうだけれど・・・。」 「その木々は、この有様だぜ?」 「・・・。」
パディマティスの妙案に、皆は意見が分かれた。目の前にある仮設本部は普遍の森林を無理矢理に開拓した場所であり、その周囲13メートルは木や草が綺麗に刈り取られている。樹木の頂上から飛び降りても届きそうになく、金属のような素材に包まれた天井を突破できるかは未知数であった。
「内側から突撃できる、唯一の方法だぞ。」 「だよねぇ・・・僕たちの行動が筒抜けだったということは、今も警戒しているはずだよねぇ・・・。」 「ここ辺りで倒した敵を考慮しても、残りは14人。向こうからすれば、自陣を全力で死守しないと間に合わないはず。」
「人質を盾に正門から入るのは?」 「躊躇なく味方の頭を撃ち抜く連中だぞ?」 「内部が見えないから、情報もなしに突入は――― 「皆! 一度、待機している組に合流するべきよ。ここで議論しても埒が明かない!」 「・・・。」
マエレの意見に全体の熱が下がり、私たちの組は戻ることにした。既に外部は制圧したのだから、今では怯える必要もない。それでも早く―――だが、男の声を境に全員の肝は冷え切った。
「―――いない。」 「?」 「もう一つの組が、見当たらない!」 「は?」 「私も発見できない!」 「・・・道を間違えt 「いいや、何かが、起きている!」
確かに約束した場所は、蛻の殻だった。抗争した痕跡は見当たらず、連絡役を担う双子は―――
「・・・違和感・・・これだ。」 「な、何がだ?」 「ノイズだ。僕の感覚を捻じ曲げている。本当はいるんだ! 奴らの技術でぇ――― ザンッ 「!?」
突如として、男は地面に膝を落とした。この一瞬で何が―――
「逃げろッ! 分散だッ!」 「!」
誰かの指示に、私を含めた全員が四方八方へ走り出した。攻撃されている。昼間に見た派手な攻撃ではなく、静かに人を―――いや、殺されたとは思いたくない。思いたくなかった。
ィンッッッ ィンッッッ ィンッッッ 「レア! お前も反撃しろッ!」 「無駄! 直進よッ!」
後ろを走るパディマティスだろうか、彼は逃げながら、標的も分からず銃を乱射した。おそらく敵は私たちの能力に検知されない何かを―――とにかく、ここは初めから敵の掌であった。
フェドだ。尋問を受けた彼が《入力型》の能力を伝達したのか分析したのか、その弱点を利用している。彼は既に潜んでいた。先を読まなければ―――このままでは、一方的に不利だ。
「パディ! 湖に!」 「えっ、えっ!?」 「とにかく!」 「ハァ・・・ハァ・・・待ってよぉ!」 「マエレも! 早く!」 「えっ。ええっ―――、」
私たちは水面を靡かせないよう慎重に、少し冷たい水に全身を沈ませた。暗闇を見ていた彼女が気付いた光―――それを〝利用〟しているのならば、その〝弱点〟も同じはずだと予想した。森林の中よりも更に暗い空間を、未だ、未だ、刻々と―――嗚呼、―――違う、私は闇の中へ落ちているのではない。何もできないのではない。今は・・・間違いではない!
「―――プハッ。」 「・・・。」 「マエレ、抱き着くと泳ぎにくいだろッ。」 「・・・泳げないんだもん。」 「・・・寒い。」 「・・・行き成りで、ごめんね。」
対岸へ辿り着き、ゆっくりと服の裾を絞り上げる。周囲は暗闇で、静寂で、誰も―――いいや、夜が明けるまでは留まるべきだろう。
3人は其処の茂みに隠れて、震える体を寄せ合った。そうすると気持ちが安らぎ、思考ができる。・・・そろそろ、雪が降り始める時期・・・皆よりも寒さに弱い私は、服を重ね始める時期である。・・・その着物は、先程まで隣にいた姉妹が作ってくれたものだ。しかし、今は灰となり、そして、雪が積もり―――
涙を流していたのは、全員だった。次々と隣人が消えていく―――次は私かもしれない。このまま攻めることも、無事に戻ることもできない。動くことは許されず、夜を越しても敵が引き上げる保証はない。絶望的な状況に・・・涙も枯れてしまった。
「・・・もう、眠りたい。」 「・・・嗚呼、眠りましょう。今は、何もできない。」 「―――何か起きても、何もできないしな。・・・眠ろう・・・全員で。」 「・・・そうね。」
パディマティスの言葉に、私は肩の力を抜かした。ここにいるのは《入力型》と《無能》の子供である。武装した彼らに二度も勝てるはずがないのだ。
閉じた瞼は、二度と開かなくなるかもしれれない。だが、もう―――思考をしたくなかった。
【 ☯ 】
「・・・。―――ぅん・・・。」
深く閉ざした瞼を、日光が貫通する。それは夜明けまで生き残ることができたという希望であり、絶望でもあった。―――乾いた瞳と陽の間に朧気な人影が往来する。―――しかし、それはパディマティスやマエレではなかった。
「ッ!?」 カシャン 「・・・。」
握り続けていた銃を男に向ける。それは緑色のスーツを纏った―――明らかな敵であった。しかし彼は私の反応に、両方の掌を私に向けた。それは武器を持っていないという・・・態度・・・?
「な、何なのッ!」 「・・・。」 「・・・んぅぅぅ。・・・レア? ・・・ひゃ!?」
一時の騒ぎに、マエレが起きた。いつの間にか、パディマティスも静かに状況を呑み込んでいた。しかし、男は無言で私たちを見詰めている。何故なら、その頭部にはヘルメットが存在しなかった。
「・・・私たちの言語は通じない・・・。」 「おい、奴は敵だぞ! 殺すか、何かの餌に――― 「ダメよ、何も攻撃を――― 「いいや、それが罠なんだ。俺たちを―――
私たちは混乱している。男は緊迫した眼で、そんな私たちを観察している。・・・何を目的に姿を現した? なぜ攻撃しない? なぜヘルメットを被っていない? 分からない。ただ・・・緩んだ頬に、顰める眉は、その表情には―――敵意が感じられなかった。
「―――違う、明らかだ!」 「そっちこそ、感情を――― 「止めなさいッ! ・・・確かに、彼は信頼できない。でも、罠だったら―――このまま生き延びられる確率は、皆無。・・・まずは、情報を探しましょうよ。―――彼の目的を。」 「・・・。」 「・・・そうだな。」
彼と言葉でコミュニケーションを行えないが―――彼は樹木が少ない平原に座り込み、水平にした手の中指を特定の方角に向け続ける。・・・何かを伝えている? ・・・その方角へ向かいたい?
「・・・奴は、後ろに続いて行けと?」 「・・・そうみたい。」 「・・・行きましょう。」
その背中、その周囲を警戒しながら、ゆっくりと男の後を歩み続ける。森を行き交う空気は冷たく、澄み切った朝焼けが私の右頬を照らす。それは僅かながら―――心地が良かった。昨日の出来事が夢であると、そう思えた。そう思わなければ、何も気が進まなかった。
「・・・〝フェド〟。」 「・・・。」
パディマティスが、不意に名前を呟く。・・・嗚呼、そうか。
「違うわ、多分・・・〝リゴン〟ね。」 「!」
確かに、彼は反応した。そう―――リゴンという男も、ヘルメットを被っていなかった。
「何となく関係性が掴めた。・・・リゴンとチームを組んでいたのは彼だ。そして、2人は何故かヘルメットの着用を避けている。」 「そうだな。・・・でも、変じゃねぇか? その帽子がなければ会話ができないのに、意思疎通を図ろうとする? 矛盾するぞ。」 「きっと、理由があるのよ。ほら、レアが言っていた〝通信機〟とか、何かのせいで。」 「・・・確かに。そうかも。」
「・・・パディ、行先は分かりそう?」 「ああ、どうやら、仮設本部とは違う場所らしい。地図は――― 「・・・ごめん、水へ浸かる前に隠した。」 「・・・いや、どうせ、現在地も何も分からないからな。」 「・・・。」
喉は乾き、腹の音が今にも鳴りそうである。それでも、昨晩の悲劇に比べれば大した問題ではない。手足が震えようと、肩が痛かろうと、彼の後を歩み続ける。その道程は、仮設本部を迂回するように冗長的であり、時折、彼は腕を見たり、私たちと同様に辺りを注意して―――ついに、足が止まった。
「・・・何なんだ、あれは―――?」 「・・・巨大な鉄・・・いや、巨大な銃?」 「そんな、巨人でも・・・居るのか?」
目の前には、複数個のオブジェクトが在った。銃口のような穴、細かな格子の穴、左右対称の〝それ〟は、鳥に似た硬い翼を生やしており、全体が滑らかな鼠色に塗れている。いや―――
「乗り物だ。これが、〝飛行機〟と呼ばれる移動手段だ。14年前の戦争で―――これが、空から私たちを攻撃した。」 「飛行機・・・なのか。・・・敵ながら・・・見事だな。」 「・・・もしかして、私たち・・・マズい状況じゃない?」
何のために、彼は飛行機を披露した? 考えろ! ―――まず、情報を与えてくれた。私たちを有利にするためか、それとも勝ち目がないことを示唆しているのか。もし〝これ自体〟を与えてくれるのならば、確実に前者であるが―――まさか、敵の居留地や《ティロディアクボ》へ行きたいという私の願望が読まれている? いいや、それならマシなコミュニケーションができるはず。
32人は確実に運べる大きさ―――これで兵士や武器を運搬したと予想する。仮設本部の奇襲も容易く、居留地へ足を踏み入れることも・・・そう仕向ける理由は? 私たちに手を貸したところで、彼には利益も何もない。理由もなく敵へ加担するはずがない。しかし、問うことはできない。何が、彼を・・・動かしている? 何を・・・信じるべき?
「―――レア! レア!」 「・・・あ、ごめん。」 「奴は―――少なくとも、脚を撃ち抜いて拘束するべきだよな?」 「まさか、協力してくれる彼には感謝するべきよ!」 「まだ何も、感謝することはしてないだろ? ―――恩もない、赤の他人が理由なく敵に手を貸すはずがないだろ?」 「逆よ、理由があるから、私たちに接触している――― 「・・・まだ。まだ、判断するべきじゃない!」 「・・・。」 「・・・。」
皆、精神が参っていた。結論を急ぐのは、悪い結末を迎える前兆である。確か、そんな諺も―――そうだ・・・そうだ。あの大男は、私たちに馴染みのある諺を幾つも知っていた。それは偶然でも、可逆的でもなく、時間や空間を超えて―――共通した要素を、全員が持っている。それが歴史―――或いは真実ならば、その中に戦争を仕掛けた理由が隠されている。そして、彼が味方を裏切る理由も隠されている。―――見つけなければ。その、今に繋がる全てを。
「パディ! マエレ! 広い視野を持たなければ――― グゥゥゥゥゥ
「・・・フフフ。」 「な、何よ!」 「お前の頭は冷静でも、体は正直だな。」
嗚呼、恥ずかしい。2人はともかく、リゴンの相方まで私の腹の音に対して笑うとは・・・これで場が和むのは、何か嫌だ。
ふと、彼は懐に縫い付けられた入れ物から、何かを取り出した。それは・・・金属の膜に覆われた棒状の・・・まさか、食料なのか? それを私たちに差し出した。
「ん・・・それは、御飯?」 「正気か!? どう見ても食べ物ではないだろ!」 「だったら、何よ?」 「レアも騙されるな!? 奴は、俺たちが金属を食べる種族だと思っているんだ!」
戸惑う私たちに応えて、彼は何と、金属の膜を破った。すると、黄土色の固形が姿を表して・・・それを自らの口に、そして頬張った。食料であると・・・毒が含まれていないことを示している?
再び、次は複数本の食料を私たちに差し出した。・・・私が恐る々る棒を手に取り、彼を真似して袋を・・・破れない。苦笑いした彼が袋を器用に破ってくれたので・・・そして―――
「・・・!?」 「大丈夫か!?」 「―――美味い・・・美味い!」 「・・・。」
未知の体験だった。少々の湿気がある硬いパンには〝甘い〟という表現で正しいのだろうか、舌が溶けるような味で満たされていた。空腹よりも刺激を満たすために、次へ、次へ、口を頬張り続ける。
私の様子に驚く2人も、同じように彼から食料を貰い―――正気を失った。
「ほら、感謝する理由ができたでしょ?」 「んぅ、これは餌付けだ。むぐむぐ―――奴の罠に、敢えて引っ掛かって、むぐむぐ――― 「貴方も、体は正直ね。」 「クソッ! 美味ぇ―――。」
男は甲高い声で喋る私たちに微笑み、追加で食料を与えてくれる。しかし、それは瞬く間に消えてしまう。憎むべき相手のはずが、この時ばかりは救世主か―――それ以上の存在に思えた。
世界の全てが虚構であろうと、私に生み出される感情は現実だった。真実よりも・・・確かだった。
【 ☯ 】
『譶芵苔―――久しぶりだな、少年少女よ。』 「!?」
それは、突然だった。以前にも聞いたことのある、乾いた声色―――脱走したフェドが、私たちの後ろに聳え立っていた。
「わざわざ逃げ切れたのに、姿を現すとは愚かね。」 『芨酏芪―――お前が知る戦士の中に、背を向けて戦場から逃げる者はいないだろう?』 「・・・正々堂々と戦わない貴方たちに、そんな志があったの?」 『・・・。』 「・・・。」
当然ながら、両者が銃を構えている。以前よりも正確に、感情を殺しながら。数秒間の沈黙が続き、微風の往来と同時にフェドが口を開けた。
『苆花苫―――ところで【良い隣人と悪い隣人】という諺は、知っているか?』 「さあ、そんな言葉は聞いたこともない。」 「・・・何が言いたい?」
『鎯芶鞧―――同じ立場でも、異なる態度で2人が接する状況。例えば俺と、そちら側に立つ〝誰か〟のように。』 「・・・。」 『芵芩芵―――しかし、それは個人の感情や思想ではなく・・・そこに相手を漬け込む〝計画〟だと考えたことは、ないか?』 「・・・貴方だって、私たちを騙す立場にいるでしょう?」 「お前は【雨雲が生み出した水面は青空を偽る】という諺を、知っているか? 〝それ〟の上位互換だよ。」 『・・・。』
確かに、初めは罠だと考えた。一方が嘘を吐くのであれば。しかし、彼が―――
『詭芩苉―――確かに、俺は味方ではない。味方を裏切る人間でもない。しかし、俺は―――〝敵へ不当な苦痛を与える人間〟が何よりも嫌いだ。俺を殺せるものなら、殺せばいい。それが不可能であれば、俺が殺してやろう。だが、お前たちの側にいる〝偽者〟は―――厭らしく、殺すだろう。』 「そんな意味のない話を、誰が信じる!?」 『芾芩苧―――だからこそ、変だと思わないか? 有益にも無益にもならない話を、伝える意味を考えろ。』 「・・・。」
『覽賌、―――何故、攻撃力のないお前たちが選ばれたと? 何故、輸送機に案内したと? 誰がそれを操z――― ィンッッッ
会話を遮るように、パディマティスは彼の脚を撃ち抜いた。以前の銃とは性能が異なるのか爆発はせず、焦げた穴から黒い血液が流れ続ける。
「言葉で示すよりも、行動で示したらどうだ? 次は頭を吹き飛ばしてやるぜ?」 『・・・。』
彼の脱走により新たな死人が出たのだ。その憎しみは、一人の死では納まらないだろう。
不思議にも、フェドは一切の反撃をしなかった。顰めた顔で地に膝を付けるが、依然として態度を乱すことはなく、何か呆れたような表情に変化する。
続いて、男がフェドのほうへ向かった。彼は高い声で何かを説きながら、ゆっくりと近づき―――その内容は分からないが、フェドは言葉を返す。
『・・・荴荈莋―――《フォルタグルンドゥ》を守るために裏切りを提案したのは―――リゴンではなく、お前だろう? ・・・このッ、腐れ切った研究者がッ―――
最後に、男はフェドの顔面へ蹴りを入れた。頭は弧を描き、瞬く間に地面へ倒れる。気絶したフェドの銃とヘルメットを剥ぎ取り、こちらへ・・・彼が喋ると、その声が、同じ声帯で翻訳された。
『轘芢醈―――醜い争いをして申し訳ない。彼は悪い奴じゃないが、今は良くない状況だった。』 「・・・。」 『芻芤芾―――そうだな、僕が持つのは不安だろう。彼の銃は君に渡そう。使い方は分かるね?』 「え、ま、まあ・・・。」 『躩閪苰―――自分を信頼してくれて、ありがとう。察しているかもしれないけれど、僕はパラモ、リゴンの相方だよ。』
彼はフェドと対照的に、口数が多く、口調が軽かった。若者という雰囲気で、舌が回り続ける。
『铞苉譃―――彼に気付かれたので、時間がない。続きは輸送機に乗ってからだ。』 「待って。・・・どうして、貴方は私たちに協力するの?」 『豟雱鏠―――契約内容と違ったものでね。この悲惨な状況を生み出した〝軍事省〟に教えてやるのさ。平和とは、何かを。』 「具体的には、何をするのさ。まだ、俺は疑い続けるぜ?」 『花苌靁―――この輸送機で仮設本部を攻撃して、残りの装備を君たちに渡そうと思っている。安心してくれ、これでも運転に必要な〝免許〟を持っているんだ。』 「・・・そうか。」 『譽芮芼―――急ぐぞ、このヘルメットは情報g――― ィンッッッ
パディマティスは何の前触れもなく、引金に力を込めた。先程と同じように、至近距離で撃たれたパラモは脚から血を流した。同時に大声で痛みを吐き出して。対してパディマティスは冷静に、彼の頭からヘルメットを奪い、それを遠くへ放り投げた。
「パディ!」 「気でも狂ったの!?」 「・・・そうかも、な。・・・奴の裏切りが他の兵士に伝わるなら、しかも全員が非力と分かれば、我先に〝ここ〟へ駆け付けるだろう? その時に〝輸送機〟でも使って反撃すれば、俺たちは確実に勝つ。少なくとも数は減らせられる。」
その言動から、彼の面が町長に近づいた、いや、同じものだと気付いた。誰より頭が切れている。全ての情報を基に最適解を見つける―――これが、遺伝子なのだ。
「ただ―――レアが言ってくれたように、焦りは禁物だな。」 「・・・変なんだ。・・・14年前に、俺たちは争った。彼らが姿を晦ました後に〝銃〟を発見した、そう名付けた。なのに、―――どうして〝銃〟という単語が翻訳できる?」 「!」
言われてみれば、彼らは私たちを―――知りすぎている。いや、それが敵の実力とも言える。
「・・・そういう魔法じゃ?」 「違うな、銃も帽子も〝機械〟で作られている。魔法とは異なる存在―――だが、両者には〝規則〟がある。」 「奴は俺の思考を読み取れなかった。彼らの前では〝銃〟など一言も発していない。しかし、正しく認識していた。・・・誰も、信用できない。」
フェドやパラモの真意は分からなかった。それは、この戦争が・・・単純ではないと教えている。
「・・・つまり?」 「結論は・・・ない。ただ、―――最近の狂気よりも、変な感覚だ。」
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