01. 繰り返される悲劇
「苢苟苄芭苪! 覴芽芿苍郭鎬閺芶苡苈芢!」
「t―降s―――! 気―d―――私たち―指z―――g―――い!」
青空が見える。陽射に照らされた身体は不思議と生気が漲っており、微風に吹かれた草木の揺らぐ音、そして大人たちの叫喚が飛び交っている。何の言葉なのか理解できず、しかし考える間もなく、全ての音が一瞬にして消え去る。月が映える青空には、赤い液体と赤い彗星が飛び交っている。
その景色が恋しいわけでもなく、なぜか悲しい。そう思うと青空が段々と遠く離れていき、やがて自分が闇の中へ落ちていることに気が付く。キャンバスに描かれたような四角い青空へ手を伸ばすが状況は変わらず、一方で得体の知れない恐怖が徐々に視界を覆っていく。
元に戻って、その時に戻って―――私が―――この私が!
「―――ァ! リクレア! ・・・大丈夫かい?」 「・・・ママ。」
「・・・また、あの夢かい?」 「・・・うん。」
私は今日も魘されていた、何百回も、何千回も繰り返して、そこで非力な自分を感じる夢を。何の感覚も感じられず、何か意味を感じる夢を。
「ほら、朝食ができたよ。着替えて降りてきな。」 「・・・うん。」
階段を下りる母親を後目に布団を捲り上げ、心地良い紺色の服を体に巻き付け、胸と腰に帯革を締め付け、鏡に映った眠そうな自分の頬を叩き、その青白い髪を結ぶ。
今日も何一つ変わらない一日が始まる。―――心の中では何か、刺激を求めている。それは〝好奇心〟と呼ばれ、それを持った少女は、昨日と何かが異なる一日を探し始める。
「レア、そこの卵を入れてくれるかい?」 「はいはい。」
今日は鶏の機嫌が良いらしい。籠から取り出した2個の卵を台所の角で叩き、ママが両手で熱しているフライパンへ、ママの背後から私も、両手で同時に黄身と白身を垂らしていく。
「今日は上手く割れたねぇ。」 「ヘヘッ。」 「・・・カルボ! 食卓で火炎を出さないの!」 「大丈夫だって、制御しているから!」 「そうやって先週も草鞋を黒焦げにしたでしょ!」
右手の人差し指から小さな火炎を出している白髪の馬鹿をルジャカルボという。どうも、兄は思春期の私よりも反抗心が強いらしい。嗚呼、また小声を言いながら火力を強くしている・・・。
「ラマ、ディル。ラマ、ディル。ラマ――― 「聞こえているよ!」 「ラマ、ティン・・・リハブッド! これやらないと火力が分からなくなるんだよ!」 「仕事場に向かう途中でやればいいじゃない。」 「忘れるもん!」 「何で忘れるのよ!」 「何か忘れちゃうの!」
母と妹に挟まれる兄は苦し紛れに訴えるが、どうも歩き出すと全てを忘れて他事を考える癖があるらしい。・・・鶏よりも記憶力が低いんじゃないか?
「レアは何か掴めたか? 魔法。」 「・・・ううん。」 「何なんだろうな、レアの能力は。」 「やっぱり・・・《無能》なのかな。」 「そんな、何か持っているさ。父さんが特殊な人だったから、レアもそれを受け継いだんだよ。」
私は、魔法が使えない。―――基本的に魔法は家族の性質を受け継ぎ、大抵は母親の能力を、たまに父親の能力を、そして稀に《無能》として生まれてくる。
全ての呪文が記された書物から似通った呪文を唱えることで自身の能力を探し出すが、私の場合は無関係な呪文を片端から唱えても、何一つ起こらなかった。呪文には文法的な規則性があるため推測して新たな呪文を生み出すことも可能だが、その組み合わせは夜空に浮かぶ星の数よりも多いと云われている。その可用性は・・・まだまだ低い。
「そうねぇ・・・もしかしたら私みたいに呪文は必要ないかもねぇ。」 「うーん・・・そんな、神童じゃないんだし・・・。」
魔法は、呪文を唱えなくても使えたりする。ママ曰く、頭の中で感覚的に呪文を操作するらしいが・・・それも大抵は魔法を使い続けた熟練の能力者だけであり、それ以外は稀に、才能を持った子供が発揮するぐらいである。
とにかく、15歳の《無能》に課される仕事は存在しない。この町では能力が途絶えることを懸念して《無能》の結婚も推奨せず、代わりに巫女や学者といった頭が必要な職を勧めてくる。しかし、そんな世間の押し付けなど無視! 兄よりも先にパンと目玉焼きを食べ終えた私は勉強ではなく冒険へ向かうのだ。もちろん、町に貢献するためにも。
「御馳走様。それじゃ、行ってくるね。」 「レア、最近やってきた《海の民》には気を付けなさいよ?」 「最近って・・・10年以上も前の話じゃん。一度も見たことないし。」
「それが、つい先週に隣町の奴が《海の民》を見たらしい。服装が証言と一致した。」 「・・・本当に、悪い人たちなの?」 「・・・。」
この地に《海の民》がやってきたのは、私が生まれて間もないときの話。彼らへ妙な親近感を抱くのも、周辺地域の住人にしては珍しく古典的な魔法が使えず、その代わりに道具へ魔法を付与する民族だったらしい。彼らの起源や言語は今も不明だが、会ってからはスポンジのように私たちの言語を習得して、何時しか生活を共にして、気付けば友好が深まっていた・・・とか。
「いいかい? 厄災っていうのは人間が忘れたときに再び訪れるものだよ。彼らは人の心に入ってから欺くんだ。・・・どんなに優れた観察力を持っていても、その真核までは絶対に辿り着けない。彼らを信じていた・・・貴方たちの父親も・・・。」 「・・・。」
パパは戦士だった。ルジャカルボのように体の表面を黒色に硬化させる能力を持つ無敵のパパは、危険が伴う戦士に適任だった。しかし・・・それでも《海の民》が持つ魔法には勝てなかった。放たれた一瞬の攻撃で、多くの兵隊が全滅した。今の私は・・・そんなパパが残した最後の宝物―――
「逆に、私たちが《海の民》を見つければいいじゃない!」 「あ、コラ! 待ち・・・どうして父親の教訓を理解してくれないのよ。」 「そういう年頃じゃない? まあ、あの強気な性格は父さんに似たのかもね。」 「・・・。」
1階の会話を気にも留めず、帯革にペンと紙を括り、肩に鞄を掛け、必要な装備を確認したらベランダから麻縄を伝い外へ脱出する。そろそろ、色褪せた指なし手袋を新調をするべきだろうか。
湿気のない淡い青空、燦々と揺らめく太陽、その地に足を下ろし、眠そうな住民を避けて住宅街を南へ駆け抜ける。突き当りで放置された街壁の穴を潜り、再び草原を同じ速度で駆け抜ける。垣根に靠れる牛や羊が挨拶をしたり、納屋の陰で一休みする庭師が手を振ったり。そして辿り着いたのは、開拓されていない小山の麓。森の境界に聳え立つ一枚岩の上には、変わらずパディマティスとマエレが待っていた。
「これで揃ったな。忘れ物はない?」 「うん。」 「大丈夫。」 「―――最近は晴れ続きで、運がいいな。」 「この快晴も、誰かの魔法なのかな。」 「そんな魔法は存在しないって、子供でも分かるぜ?」 「もう、パディは夢がないなぁ。」 「存在したら、そいつが王だろうに。」
私は鞄から折り畳められた紙を取り出し、それを両手で広げる。何処へ行こうか、何処を拡張しようか。そんな予定を―――私たちが3年間を掛けて作成した地図を、皆で眺めながら考える。
「今日は南西の森で地形の概算でもするか?」 「そうね、昨日は陽が落ちて無理だったけれど、《三ッ子山》の峠まで一直線に行けば今日こそは、先の洞窟を調査できるかも。」 「そろそろ、野宿の許可を親に貰わないとなぁ。これ以上は日帰りだと、本格的な作製は厳しいでしょ。」 「確かに。」 「俺の親父は門限に厳しいから・・・限界かもしれん。」 「えー。」
パディマティスは方角や水平角度、座標を感覚的に数値化する能力を持っており、彼がいなければ地図を作れないどころか、下手すれば永遠に森林を彷徨うことになる。赤髪と鋭い目付きを持つ彼は私よりも度胸があるも、大抵は調子に乗ることで痛い目を見るのは言うまでもない。
「いや、実はそれ以外にも・・・ここ最近は感覚が曖昧になっているんだ。何というか・・・方角がダブったり曲がったりするんだ。」 「そんな、魔法って衰えるの?」 「最初はそう思っていたんだが、母親も俺と同じスランプに陥っているらしい。」 「・・・つまり?」 「・・・俺が知りてぇよ。何か、方角の基準が狂い始めているんだ。逆にマエレは、問題ないか?」
石を握っている彼女は特定の物質を発光させる能力を持っており、特に暗い森林や洞窟では彼女が活躍する。しかし彼女が持つ魔法と臆病な性格の相性は最悪であり、そういう状況では私たちが彼女の背中を押さなければならない。ちなみに、2人の魔法は常に解放されており呪文は不要だとか。
「特に異常はないけれど・・・それが本当なら行きたくなぃよ・・・私なんて方向音痴なんだから・・・ 「しっかりしてくれ、そろそろ土地勘も身に付いただろうに。」 「大丈夫、先週も町で迷子になった!」 「誇らしげな顔をするな。」 「全く、何のための地図なのか・・・。」
一方で《無能》の私は、地図の書記と計算を担当している。勉強は嫌いだが数術は妙に得意らしく、それが唯一無二の能力として役に立っている。この体力や運動神経も、魔法が使えない私が獲得した冒険の賜物だと信じている。肩身が狭い《無能》だろうと―――私は挫けない。
「・・・よし、南西の森と洞窟の探索でいいな?」 「OK。」 「・・・うん。」 「太陽が真上に来たら引き返す。行き帰りの途中に例の泉で休憩を挟もう。」 「・・・久しぶりに山羊の群、見れるかな。」 「・・・山羊肉、食べたくなってきた。」 「た、食べ物じゃないですよ!?」
私と2人は茂みを掻き分け、斜陽が零れる薄暗い森の中へ入っていく。マエレの拳に握られた鉱石、それが照らす一枚の地図は、何れ何か役に立つのだろうか。ここに描かれて〝いない〟世界が私たちの足を動かし、そして、地図が完成したとき―――私たちは何を思うのだろうか。
【 ☯ 】
「ピッ―――こちら、チームC。水源補給箇所に3人の民間人を確認。《エソテルボ》に住む子供と思われる。どうぞ。」 『ザッ―――こちら、仮説本部。了解した、そちらの状況と彼らの行先を定期的に報告してくれ。子供とはいえ、村人が漏れなく〝能力〟を持っていることを忘れるな。』
「ピッ―了解。・・・あ、子供たちが小鹿との接触を試みている。」 『ザッ―もしかして前に俺が狩ったサンプルは親子か?』 「ピッ―そうかも・・・心苦しいなぁ。」 『ザッ―まさか、動物の心を読み取る能力も存在するのか?』 「ピッ―事前調査の報告だと心理に関する能力は未確認だから、大丈夫だよ。多分。」 『ザッ―全く、おっかないぜ。』
子供たちは呑気に水を飲んだり、容器に補充している。周辺に家屋や人工物は存在しないが・・・何を目的に訪れた? 装備からして狩猟ではなさそうだし・・・探検? 待てよ、彼らが広げている地図は・・・。
「ピッ―――こちら、チームC。彼らは地図を広げている。武器の代わりに古典的な道具を所持しており、作製を目的に来たと予想される。どうぞ。」 『ザッ―――こちら、仮説本部。了解した、部隊は痕跡を残さないよう注意していると思うが、もしも気付いた素振りを見せたら報告を頼む。』
「ピッ―了解。・・・あ、小鹿に地図の角を齧られている。」 『ザッ―平和だな。』 「ピッ・・・この平和が続いてほしいよ。・・・どうして、僕たちは〝第3調査隊〟として派遣された? この後に起こる悲劇と一緒に。」 『ザッ・・・【無知が幸せを見て、賢者が幸せを築く】ことを忘れるな。今更、現場の俺たちに選択権はねぇよ。』 「・・・。」
確かに、これは自分が選んだ道だった。ディスプレイに投影された《フォルタグルンドゥ》は一面が緑で溢れており、それは楽園を眺めているようだった。自分は潜在的に楽園を求めていたのか、それとも楽園に似して異なる《ティロディアクボ》の生活から逃げたかったのか、大木の上に座っている今の自分には、どうでもよかった。
ここを取り壊すのではなく、ここを手に入れるのではなく、ここで共生したい。しかし、人類は既に獲得したヒエラルキーを捨てられない。例え自分が個人として《フォルタグルンドゥ》に永住する道を選ぼうとも、組織としての利益を優先する集団の意思は変わらない。
そもそも、永住は不可能だと理性が訴える。ここに適応するためのワクチンは消耗品だし、ここが後に〝改革〟の手段として使われることを知っている。統制が徹底された自国の考えなど定かではないが、入隊して明かされる《フォルタグルンドゥ》の実態と、数年前から活動が活発になりつつある科学省と軍事省―――そして、目の前に広がる自然、或いは〝資源〟と呼べるもの。それを知った我々は、原住民との戦いが始まるだろうと容易に察する。
その現実は僕たちではなく《ティロディアクボ》の民が知るべきだろうが、数千年の月日を経て構築された社会は本当に抜目がない。だから、首脳は《ティロディアクボ》で家族が待っている我々を選んだ。それは自分が捨て駒でないことを保証するが、同時に任務の徹底を課している。
一方で《フォルタグルンドゥ》の民に危機を知らせる方法もない。当然ながら言語は異なり、会話の記録が送信される翻訳機で迂闊に話すことはできない。更に、我々は僅かながら彼らと戦争した過去がある。ここは文明が中途半端に発達しているため、我々が宇宙人であること、最も〝ハビタブル惑星が2つ存在すること〟を彼らは知らないが、もしも何か条件が違っていたら、今日までの猶予はなかったのだろう。・・・それが良いか悪いかは分からないが。
「ピッ―――こちら、チームC。彼らは南西へ向かった。繰り返す、彼らは南西へ向かった。敵対のリスクは低いと考えられる。」 『ザッ―――こちら、仮説本部。了解した、残りのチームも指示通り〝部外者〟を見逃さないよう監視を徹底せよ。』 『ザッ―チームA、了解。』 『ザッ―チームB、ラジャー。』 「・・・。」
部外者、か・・・。同じ人類なのに、自分は一体、何のために今を生きているのだろうか。家族のため? 仕事のため? 新しい楽園を築くため? 人類の未来を守るなど大層な真似はできないが、自分の他にも世界の平和を願う者は―――いるはずなのに。
・・・平和って・・・何だろう。・・・いや・・・何も知らなかったな。
【 ☯ 】
何事もなく洞窟に辿り着き、私たちは中へ足を踏み入れる。暗闇に包まれた空間、不気味なほどに透き通る風、絶えなく続く段差の激しい道。その恐怖とは裏腹に好奇心が、そこに謎があれば気になってしまうのは、子供の本性だろうか。
「ここで大きな分岐点の登場か。―――レア、前回の地点から前に104メートル、右に78メートル、下に26メートルだ。」 「了解。えーっと・・・36度の地点で・・・ワオ、ユークリッド距離で大体132メートル! 分度器はどこだぁ?」 「・・・もう、今日は諦めない?」 「ここまで来たら両方とも調べようぜ。まだ、昼には間に合うさ。」
それにしても、この巨大な洞窟が500年も発見もされていないとは何故に? ・・・今まで埋もれていた? 私が生まれる前に発生した地震の話は知っているが・・・世界は何とも、不思議だ。
マエレはパディマティスの説得に渋々と従い、更に奥へ足を踏み入れる。・・・改めて考えると、風が吹くのであれば出口が存在することになる。確かに《エソテルボ》の標高は低くないが―――風の流れに身を任せている今、この先には何かしらの答えが待っている。
「・・・石ってこんなに綺麗だっけ?」 「・・・?」 「ほら、壁を見てよ。何か、艶が・・・黒色?」 「・・・本当だ。」
僅かに照らされる壁は黒曜石の如く、凍り付いたような内部が無造作に煌めいている。大気の砂埃を撥ね回る光は黄金色に閃いて―――ここは、妙に空気が重い。気付けば微風すらも消えている。
「・・・何・・・ここは?」 「・・・。」 「人工物? いや―――建物だ。」
穴を通り抜けた先に広がっていたのは、妙に大きい空間だった。そこには角張った巨大な柱が至る所に、両端が地面と天井に埋もれているか、もしくは〝過去に聳え立って〟いた。過去に門戸が存在した大きな穴、無数に散らばった透明な鉱石、道中に生える独創的なオブジェクト―――それらの多くは石化しているが、非常に精密な構造が施されていたと思われる。
「待った・・・これ以上は進めない。」 「・・・急に?」 「ここへ来るまで感覚は問題なく安定していた。でも、今は狂っているというか・・・ノイズが酷いんだ。最近の症状とは別の。」
あれほど積極的だったパディマティスの顔は、酷く青褪めていた。それは感覚というよりも、本能が何かを拒絶している。私もそうだ、目の前の光景は彩もないくせに幻想的で、それが好奇心よりも恐怖に刺激を与えている。対して、マエレは平然として・・・少しは野生の勘を持ってほしい。
「・・・ここが原因なの? ・・・ここには・・・ここで、何があったの?」 「・・・人が住んでいた場所だろうよ。」 「いや、社会―――私たちの町よりも遥かに高度な社会があった。・・・ここは、その残骸だ。」 「・・・。」
道と家、その内外に存在した何かは、今の《エソテルボ》と基本が同じだった。巨大な家と広大な道は、民族や資源の豊かさ、そして馬車の普及率を物語っている。しかし概要が掴めても、この街が廃れた年代や理由は分からない。私たちが立っている場所には・・・想像以上の歴史が眠っている。
「でも、そんなに高度な文明が滅んだ理由は? 魔法が使える俺たちよりも進んでいるなら、永遠に繁栄できたはずだぜ?」 「・・・。」 「捨てたんじゃない? ほら、火事とか災害で使い物にならなくなったからよ。」 「・・・だったら、そいつらは今、どこに居るんだ?」 「・・・。」
「とりあえず、今日はここまでにして帰ろう。」 「・・・そろそろ昼だしな。」
今は答えまで辿り着けそうにはない。少なくとも大人の手が必要だった。だからこそ―――いつの日か、この遺跡に秘められた歴史を自分で解明したい。
・・・これだ。これが、学者たちの心に宿る〝好奇心〟の正体だった。そこに入り混じる〝恐怖〟は無知が原因だった。彼らは無知という恐怖を克服するため、それが何かの役に立つから勉強をしているのだ。・・・私が嫌っていた勉強は、その本質を知らないだけだった。
「今日の出来事、町長に報告するの?」 「・・・報告したら、間違いなく俺たちは入れなくなるだろうな。」 「そう、もう少しだけ調べて・・・フヘヘ。」 「あッ、レアの無謀な計画を立てる顔だ。」 「ち、違う。あの遺跡が凄すぎて・・・何か、大きい気がするの。」 「お前の興奮する気持ち、分かるぜ。俺も股間が大きくなっt 「もう、そういう下品な考えだからパディは結婚相手の候補がいn 「こ、これは自然的な反応だ、それぐらいに俺の感覚が何かを――― ドゥゥゥゥゥン
「・・・!?」 「何の・・・音だ?」
元の入口に向かい始めて間もないとき、謎の音が空洞に響き渡った。それは振動と一緒に、何か大きな衝撃音だった。地震・・・ならば一刻も早く脱出しなければ。
「急ごう。」 「落ち着け―――地震にしては振動が小さすぎないか?」 「・・・外の音だった、今のは。」 「何が起きた? ここまで聞こえる轟音なんて・・・ 「《海の民》だ。奴らの魔法は・・・大きな音が出ると。」 「!」
今朝に聞いた《海の民》が、本当に攻めてきた? しかし偶然と解釈するには無理がある。あまりに突拍子のない事実に―――思考が遅延する。どこを攻撃された? ここも攻撃される? 何時間前に攻撃が始まった? ・・・家族は、無事?
衝動に駆られた足はマエレを抜かし、寸前の暗闇を追うように走り続け、気付けば遠くに佇む光を目指していた。外へ出たところで世界の眩しさに、正気が戻る。道具と地図が入った鞄を砂利に投げ捨て、ひたすらに《三ッ子山》へ向かう。今から《エソテルボ》まで戻るには時間が掛かる。せめて今の状況だけでも―――何が起きたのかを確認したい。
開けた峠まで辿り着いた刹那、先程よりも小さい轟音が耳に響く。しかし、それは同時に〝目撃〟した。青空にまで昇る黒い煙と―――斑に広がった無数の炎を―――
「・・・嗚呼。・・・嘘だ、・・・嘘だ。」
《エソテルボ》の郊外と周辺は、赤色に染まっていた。具体的な様子は定かではないが、炎と共に複数の巨大な杖が地上に突き刺さった現実味のない光景は、故郷を失った涙すらも忘れるほどだった。あれは魔法で作られた? 地面から生えた? いや―――空から降ってきた?
その視界に、デジャヴを感じた。前にも・・・いや、何百回も、何千回も感じた情景を。
「赤い・・・彗星・・・。」
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