第9話 どう考えてもフラグだったよね

 現在の状況を整理してみよう。


 私が目指すのは、ゲームの展開回避。そのために必要なものは………情報だ。黒の教団について調べたいのだが、手段がない。普通の令嬢にそんなコネあるわけないもんなぁ。


「はあ……」


「何?わからないとこでもあった?」


 今日はガイアスが一般教養を教える日だ。彼は一般教養の教本を持ってきてくれて、分からないところを補足するという無駄のないスタイルで授業をしている。


「ガイアスは黒の教団って知ってる?」


 もし現時点で彼にコンタクトを取っていたら非常にまずい。そう思って軽い気持ちで声をかけたら、口を塞がれた。


「………それ、外で口に出さないほうがいい。世間知らずのくせに何でそういうのは知ってるの?」


「え?」


 ガイアスによれば、黒の教団はガチでヤバいカルト教団なんだとか。なんでも『光の使徒と神々の時代から戦っている』とか『闇の加護を受け特別な力を使う』とか『ある日前世に目覚める』とか。不可解な魔法を使い、貴族宅に押し入り悪事の証拠をばらまいたり、金品を強奪したり、義賊気取りなのだとか。


 前世というワードが気にかかった。私のは前世ではないが、何者かが勝手に誰かの記憶を植え付けているということ?


「ルビー」


「な、何かな?」


「……好奇心で関わろうとするなよ。神出鬼没な犯罪組織なんだから」


「いや、関わろうと思っても無理でしょ」


 その時はそう思ってたんです。本当なんです。






「ようこそ〜、陰気な黒の教団へ!!」


 寝込みを襲われて、拐われたのはノーカンだよね?私からリアクションおこしたわけじゃないし!気が付かない護衛とかの方が問題だよね?!


「お嬢様、暴れないでくださいねぇ」


 私の拘束を専属メイドが解いた。


「お前……こんなことをしてタダで済むと……」


「ふふふ、まずは話を聞いてください。お嬢様はアタシ達の仲間ですもの」


「は?」


 理解できない。仲間?しかしこちらに危害を加えるつもりはないようだ。ローブと仮面を渡されたので素直に着用する。髪も念入りに隠したが、薄暗いし大丈夫かな。


「新しい闇の使徒ですよ〜」

「なにその中二病的センス!!」


「ちゅーに?」


「いやその、どういうことなの?」


「それは黒の神官様がご説明してくれま〜す!」


 胡散臭いがとりあえず話を聞くしかないだろう。





「選ばれし闇の使徒達!」


 ローブを被り、仮面で顔を隠した男が朗々とした声で語ったのは、アンチ神話かなぁという内容。長ったらしかったので簡潔明瞭に要約すると

『正しいのは闇の神である。光の神が事実をねじ曲げた』 

『勇者の末裔が支配するこの世はおかしい』

『正しい混沌が世を支配すべき』

『我々は闇の神に選ばれし使徒である』

『我々は光の使徒と戦わねばならない』

 ツッコミどころは多々あるがそんな感じ。というか私、ここにいたらまずくね?勇者の末裔なんだが?


 そしてダークネスコールしてるんだが……割と陽キャ集団では?まあいいけど。


「どうです?黒の教団の素晴らしさ、わかりましたかぁ?」


「………そうね」


「ふふふ、目覚めたばかりの使徒さんに闇の使徒の力を授けちゃいますよぉ」


 私の専属メイドであるアリスは私に闇の使徒の魔法を教えた。特に便利なのが『シャドウムーブ』と『シャドウバインド』の2つ。シャドウムーブは影を使った転移魔法。ただ、影があるところにしか飛べない。

 そして魔力が高いせいか、私のシャドウバインドはアリスのものより数段強力だった。一気に複数を捕縛できるし傷つけることもなさそう。


「う、うおお……。で、でもまあアタシのほうが先輩なわけですし、なんでも聞いてくださいね」


「……では、アンタの記憶を教えて。興味がある」


「なるほど?アタシはですねぇ……」


 記憶のことを聞くのは問題ないらしく、アリス以外にも聞いてみたが、年代もバラバラで参考にはならなかった。


「さて。そろそろお開きですね」 


 そして普通に帰していただけた。え?なんだったの??シャドウムーブで一瞬でしたわ。いや、便利だけど!





 誰にも気づかれず屋敷に戻り、アリスは親しげに話しかけた。


「お嬢様……いえ、闇の使徒ルビーさん。これからよろしくね」


「…………とりあえず、そこに座りなさい」


「…………ヒェ」


 長年の調教………躾の成果か、アリスは床に正座した。


「なんで私が使徒だと?」


「お告げがありました……」


「誰が?いつ?」


「昨日、闇の大神官様から………」


「それで、アンタは私と殺し合うの?」

「なんでそうなるんですかぁ?!」


 いや、そうにしかならんだろうが。


「だって、勇者の末裔は悪なんでしょ。そもこの国のトップは皇帝陛下で勇者の末裔じゃないけど。最終目標は六公爵の排除だと思うわよ。現状、光の使徒殲滅を優先してはいるようだけど」


「そ、れは………」


「あと、このままだとアンタ殺されるわよ」


「えええ?!あ、アタシはまだ何も悪いことしてませんけどぉ?!」


「でも、闇の使徒はこの力を悪用してるわよね?」


 今日、ガイアスから私腹を肥やした貴族から盗みを繰り返しているとの話を聞いている。


「そ、それは……いろんな人がいるんです!」


 使徒として目覚めても基本やることが決まっているわけではない。積極的に光の使徒を排除する者、能力を悪用する者、変わらず暮らす者に分かれているそう。大半は普通の生活をしており、力が増す夜に活動しているのだとか。


「ふ〜ん……。それで、アンタは?」


「え……」


「選ばせてあげる。服従か、死か。そもそも公爵令嬢わたしを誘拐した時点で死罪確定よ?」


 アリスもようやく事態のまずさを理解したようで、ボロボロ泣きだした。


「こ、殺さないでください!従います!お嬢様に従います!もうナメた態度もとりませんから!」


「いいわよ、殺さないであげる。その代わり、私の質問に答えなさい。それから、闇の戦士とやらの素性を調べるように。上手くやれたらアンタの母をいい病院に入院させてあげる。もちろん費用はこちら持ち」


 スルーしたけどコイツやっぱり私のことナメてたのね。まあいいけどさ。


「やります!」


「ただし、条件があるわ。絶対自分の身を危険にさらさないこと」


「………え?」


「ヤバくなったらすぐに手を引きなさい。逃げるのは得意でしょ?もちろん逃走資金も渡す」


「お、お嬢様がデレた……?」

「デレてないわ!お前、本当にそういうところよ!!」


 それにしても、コイツ本当に私を怖がらないわね。それに、そういえば炎魔法も避けてたような……?今後暗殺の心配もあるし、もっと警戒しないといけないかも、と思った。


後書き

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