第8話 色々と世知辛いね
時間を稼いでくれるはずのパパ様が乱入して、場は一気にカオスとなった。
「ルビー!頼むからまだお嫁に行かないでくれええええ!!」
「パパ様……大丈夫!嫁には行かない!婿を取る!!」
「そっちかい!」
綺麗にツッコんできたガイアス。基本彼は日本で言うところの陰キャコミュ障魔法オタクなのだが、私相手だと遠慮がない。解せぬ。
「というか、私はガイアスに魔法の相談をしたかったのよね。ガイアスってこの年で天才研究者とか言われてるし。婚約者として親交を深めたいとかではないから、その心配は見当違いよ?」
今回おかげで契約できたし。そういや、まだ相談したいことがあったわ。
「そ、そうなの?なんか仲良さそうにしてたから……」
「……そうそう。それにね、パパ様。私みたいなワガママ娘を好きになる人なんていないわよ」
「いや、いる!ルビーたん可愛いから!パパ様の可愛いルビーたんにベタボレする男は必ず現れる!!」
親の欲目ぇ……。
ガイアスがお前も大変だなって目で見てるわ。同情するなら助けてくれ……。たまに骨が軋むんだ……。パパ様って手加減下手くそよね……。
「はいはい。もう少し彼との共同研究について話したいことがあるから時間稼いでもらえる?そんなにはかからないわ」
「わかった!パパ様に任せなさい!」
よし、なんとかなったわね!パパ様を見送り、もうひとつ気になっていたことを聞くことにした。
「これはアンタにしか聞けないんだけどさ?」
「うん」
「…………詳細は省くけど、つい最近までウインド公爵に魔法習ってたの、私」
「……………うん??」
「それでね、風魔法の写本も、してたの………」
「はああああ??!え、マジで?!」
「うん。土魔法の写本も」
「はああああ???!なんでええええ?!!」
「……やっぱダメだよね?!」
ガイアスが盛大に驚いていらっしゃる!薄々ダメなんじゃないかとは思ってたんだよねぇ!!
「ダメっていうか………そうか、君は全属性持ちだったのか……!というか、何考えてんだ、ウインド公爵…………いや、そうか………」
「ん?」
「君をウインド小公爵と結婚させようとしているとか……?」
「それはない。フレア公爵の長女じゃなければ嫁がせたいとは言ってたけど……」
「君、なんで一般常識が欠落してるわけ?髪色はまあ、ちょっとマニアックな知識だけど写本は基本的に各公爵家が独占しているんだ。まあ、ウインド公爵の指示なのであれば風魔法については問題ないけど……」
「気をつけるぅ……。いっつも講師は髪色を馬鹿にするからブチギレてて即追い出してて……実はまともに教えてくれたのはフリージア先生……ウインド公爵だけなのよぉ……」
ガイアスが頭を抱えた。
「くそう……責めづらい。髪色のことを言われたくないなら一般教養やマナーは別の領地から講師を招きなよ。フレア公爵領はなんていうか……髪色至上主義なとこあるから、特に貴族はそういう価値観だよ。僕の髪をお守りにしたいとか触らせてくれとか、涙が欲しいとか………マジで勘弁してくれ………怖い………」
ガイアスがガクブルしてしまった。そ、それはしんどい。嫌なことを思い出させてしまったらしい。申し訳ない。
「アドバイスありがと。参考にするわ」
そっと撫でてみたら………髪………パッサパサなんだが。
「き、気安く撫でるな………よ?え、何?無言で手を引っ張るのやめて!何??怖いんだけど?!ねえ!なんなの?!」
ガイアスは何??としつこく聞きつつ素直についてきた。私の部屋に入り、椅子を指さす。私の剣幕に圧されたのか、ガイアスは大人しく椅子に座った。
「アンタ、髪がパッサパサ過ぎるんだけど」
「……どうでもいいだろ。栄養が足りてないせいじゃないの?」
「……嫌がらせ?」
「それもある」
くそう、怒りにくい。義叔母の仕業で食事もままならないのか。
私の香油を垂らして丁寧に櫛ですいていく。数分でサラサラになり、艶が出てきた。
「……しんどかったらウチに来ていいわよ」
「そうしたいとこだけど、あの女に家をメチャクチャにされたくないんだよ。母との思い出の品もあるし」
ガイアスの母は彼に似て美しい髪の持ち主だった。病死してなんであんなのと再婚したのか……。いや、弟の年齢からして不倫してたっぽいのよね。
そしてガイアスを再婚相手が虐待してるわけだ。確たる証拠がないからこちらも手を出しにくい。
「………どうしても無理なら来なさいね」
「そうならないことを祈ってるよ」
まあ、ないよりマシだろうと試作のアミュレットを渡すことにした。
「………これは?」
「試作品。好きに使って」
「魔力を感じる……。アミュレットか」
「まあ、そうね」
作動しないことを祈るわ、うん。詳細を話すと怒るか受け取ってくれなさそうだから黙っておこう。
「そろそろ戻らないとね」
「そうね」
あの叔父夫婦を相手にするのは嫌だが、ガイアスの弟であるルベライトは可愛いからよしとしよう。なぜあの性悪夫妻からあんな天使が爆誕するのか不思議で仕方ない。
戻ると何やら大人達は険悪な雰囲気だった。
「何度目だ?いい加減にしろ!」
パパ様怒ってるぅ。ま〜た叔父様が借金の肩代わりをお願いしたとか?
「どうしたの?パパ様」
「どうしたもこうしたも……ルビーたん!いいところに来たね。ルベライトを連れて遊んできてほしいんだ」
「姉さま!」
ルベライトが半べそで飛びついてきた。
「はう……今日もルベラは可愛いわねぇ。姉さまと遊びましょう。何をしようか」
ルベライト……ルベラは大変可愛らしい。私にとっても唯一と言える可愛い親類だ。
「兄さまとも遊びたいです!」
「……ボードゲームでもする?」
そして、あのガイアスも弟には甘い。
「やったあ!」
パパ様に任せてと頷き、退出しようとしたが叔父様に止められた。
「待て、ガイアスは残れ」
「ええ〜、お父様、僕兄さまと遊びたいです」
「わたくしもガイアスと遊びたいわ。ねえ、叔父様にとって悪い話ではないと思いますわよ?パパ様、今回だけは許してあげたらいかが?その代わり、利息の代わりとしてガイアスに講師をしてもらいたいわ」
我ながらいい案ではないだろうか。
「おい、巻き込むなよ……」
「……ぶっちゃけこっちにちょくちょく気晴らしに来れるのはアンタにとっても悪いことではなくない?アレの進捗も聞けるし」
「…………それはそうだけど、何を教えるのさ」
「常識全般」
「それは確かに大至急学んでおくべき……!それに知らないとまずいことも知らなかった現状を鑑みると僕が適任なのは間違いない……!」
ガイアスが頭を抱えた。え、私の世間知らずはそんなに深刻なの?
話はやはり借金の肩代わりだったらしく、結局ガイアスが折れたので時折臨時講師として来てもらうことになった。
その後楽しくゲームをしたのだが、やたらと運がいいルベライトと戦略知略大得意なガイアスに勝てるはずもなく……私だけが負け続け、最終的に気を使ってくれたルベライトとの合同チームでなんとか1回だけ勝てたのだった。
つ、次は絶対負けないんだからね!!悲しくなんてないんだからね!!
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